俺の異世界生活は最初からどこか間違っている。

六海 真白

文字の大きさ
上 下
5 / 84

俺の異世界転移はどこか間違っている。 完 (イラスト有)

しおりを挟む
 木々は風で揺れ、落ちている木漏れ日を跨いで進む。
 俺とシリウスは近場の街、『アルヒ』を目指していた。アルヒはこの辺りで最も大きい街で別名『始まりの街』と呼ばれる事もあるそうだ。

 「慣れた?」

 数歩先を進むシリウスが振り返って微笑んだ。
 俺は首を横に振って、

 「まだ上手くできねえな。結構コツがいる」

 右手に持つハンドスピナーを回転させる。

 「ははっ、ほんとだ。まだ震えてるね」
 「うるせえな」

 俺は魔力を使う事が出来るようになった。けれど、魔力を練る時に身体がぷるぷると小刻みに震えてしまうのだ。正直、ダサい。ダサすぎるといっても過言じゃない程にダサい。一体、どこの異世界にぷるぷるしながら魔力を行使する奴がいるというのか。
 廃教会を出る時に「歯磨き筒を練習用に貸してくれ」とシリウスに頼んだ際、「もったいないからこれ使うといいよ」と手渡されたのがこのハンドスピナーだ。ただこのハンドスピナーは俺が知ってる物とは少し違い、魔力を流し込まないと回転しないように作られている。

 「スフィアを使う時までに慣れるといいね。アレはオドを流し込まないといけないから」
 「俺は大抵の事は人並以上にできるってのが取り柄だぜ? ちょっと練習したらこのぐらい余裕だ」
 「すごいね! アルヒまで半日はかかるからゆっくりでも良いと思うけど、頑張って!」
 「おう」

 急がねばっっ!!



 太陽が頭の上に来た頃。

 「…… なんか、違う」

 俺たちはモンスターと遭遇する事なくアルヒの街に辿り着いた。無事に辿り着けたのは良い事だ。木造や石造りの建造物が立ち並ぶコレって感じの街並みや街行く人々の服装、様々な種族は想像してた通りだ。

 「城門は?」

 そう。異世界の街といえば城門や石壁に囲まれた街だろう。けれど、このアルヒとかいう街は城門という名の石壁は無く、ただ木の柵と小さな川、というか用水路みたいなモノで囲まれているだけだ。

 「ははは! 城が無いのに城門?」

 けらけら笑っているのはイケメンシリウス君。ぶん殴ってやろうか。
 …… まあいい。

 「こっちに来て初めての街へ俺は今、足を踏み入れるのか。廃教会に居た時はこれからどうなるかと思ったが」
 「アルヒ自体にはちょっと前から足を踏み入れてるけどね」
 「え?」
 「ちょっと前に畑広がってたでしょ? あの辺りはもうアルヒだよ」
 「嘘だ!」
 「嘘じゃないって。それより魔力制御できるようになったの?」
 「………… うん」
 「嘘だあ!」

 そんな問答を繰り広げながら、用水路に架かる小さな石橋を渡り、雑多な音が飛び交う街中へ足を踏み入れる。
 珍奇なモノを見るような冷ややかな視線が集まってきた。それもそのはず。俺はこの世界においては変わった服装をしているからだ。

 「な、なあシリウス? お前これからどうするんだ?」

 前を向いているのが恥ずかしくなり、友達の方へ振り返る。

 「僕はこれからギルドで冒険者登録かな」
 「なん…… だと」
 「冒険者登録かな」

 やっぱりあるのか冒険者!! ギルドへ向かう足が軽くなったように感じる。
 俺は興奮しているのを気取られないように、

 「へえ? いいじゃん」
 「あまり良くはないかな。響きは良いけど、基本的には定職に就いて無い人たちの総称だからね」
 「…… 冒険者とはっっ!!」
 「急にどうしたの!?」
 「名誉の為! 利益の為! 自らの命を顧みずっ! 未だ見ぬ世界を旅する人たちの事だ!!」
 「そういう人は一部だね。何か偉業を成し遂げた冒険者しかジャポンティまで名が知られることはないだろうからカケルが勘違いしちゃうのは仕方ないけど」
 「なるほど」

 つまり冒険者って奴らの大部分はフリーターみたいなもんってことか。

 「カケルはこれからどうするの?」
 「俺は……」

 どうしよう。冒険者は思ってたのと違ったし…… でも昨日まで学生だった俺が異世界で定職に就けるかと言われればそんな自信も無いし、そもそも働きたくないし…… 学生?

 「俺はとりあえず学園に行く」

 その言葉にシリウスは目を丸くした。
 異世界と言えば魔術学園だと相場決まってる。俺は魔法の学び舎で天才系ヒロインとか物静かなクール系ヒロインと出会う運命なんだ。

 「一応聞くけど、何の為に学園に行くの?」
 「決まってんだろ? 世界を学びに行くんだよ。学生として」
 「カケルは学生には戻れないよ? 成人なんだし。カケルが貴族の跡取りなら話は変わるけど」
 「………… ふっ」
 「ふ?」
 「俺は貴族だ」
 「嘘だね」

 どうやらこの世界では十五歳で成人となり、十八歳まで学園にいられるのは貴族の跡取りだけらしい。早ければ十二歳で働き始める人もいるのだとか。つまり、この世界へ来た時点で俺の高校生活という青い春は終わっていたのだ。元の世界の姿ではなく赤ちゃんとしてちゃんと転生していたら学園に通う事ができたのに…… 使えねえ天使だな。

 そういえばサリエルのやつ魔王を倒して欲しいって言ってたな。

 「なあシリウス。魔王を倒す職業って何だと思う?」
 「魔王? うーん…… 騎士団とか冒険者じゃない? でも魔王――」
 「騎士団カッコいいな。俺騎士団入る」
 「今は貴族じゃないと騎士団に入れないはずだよ」

 ふざけるな。

 「…… 冒険者登録だな」
 「いいの?」
 「他に選択肢あるか?」
 「ギルドならカケルに合った仕事紹介してくれるよ」
 「…… いや、冒険者でいいや。無茶しなきゃ生きてはいけるんだろ?」
 「選べば金は良いって聞くから、多分。カケルが冒険者になるなら僕たち冒険者仲間だね」
 「俺たちは仲間ってより友達だろ」

 その何気ない一言で、シリウスの足がピタっと止まった。
 振り返るとシリウス君が俯いている。

 「どうした?」
 「友達…… 友達って……」

 ふむ。
 お互い全裸でスクワットをして、お互い全裸で同じ飯を食い、お互い全裸で同じ場所で寝た。俺の知らないこっちの世界の知識、魔力の扱い方を教えてくれて、アルヒまで半日だったが二人で冗談を言いながら旅をした。
 これは……

 「悪いシリウス。間違えた」
 「えっ……」

 シリウスの真っ赤な瞳がキラリと光ったように見えた。
 
 「俺たちやっぱり友達じゃねえわ。俺とお前は親しい友…… いやそれも違うな。 心の友。そう! 心友だ!」
 「っっっ!!!」

 シリウスの瞳から涙が零れ、頬を伝って地面に落ちた。

 「なんで泣いてんだ?」
 「ぅ…… ぅ」

 周囲がざわつき始める。俺はシリウスの手を取って路地裏へ避難した。

 「落ち着いたか?」

 ちょっと待ってから、俺は声を投げかけた。
 シリウスは袖で涙を拭いながら頷く。

 「で、なんで泣きだしたんだ」
 「小さい頃からの夢…… 諦めてた夢が叶ったんだよ。カケルのおかげでね」
 「何の事だ?」

 シリウスは呼吸を整えるように小さく息を吸って、言った。

 「友達を超えた友達」
 「恥ずかしいからやめようぜ」

 俺は話を切り上げて路地裏を出ようとしたのだが、腕を掴まれて止められた。

 「成人してから友達が、心友が出来るなんて思ってなかったんだ! だから、何か、涙が溢れてきて……」
 「心友なんて歳関係ないし、友達がいたらいつの間にか心友になってんだろ。何言ってんだ」
 「できないよ! 僕には友達がいないんだから!!」
 「えぇ…… 学園には通ってたんだろ? 学友ってやつはできるだろ」
 「ううん。知り合いは出来たけど、友達って呼べる関係性は築けなかった」

 おかしい。
 シリウスは変な奴だ。けれど顔はとんでもなく良いし、優しい心の持ち主だ。変な奴だが。
 男連中が嫉妬でこいつを嫌っていたとしても、女の子たちはこのイケメンと関係を持とうとしなかったのか? いや、知り合いはいるって言ってるからそれは言い寄ってきた女の子達の事だろう。心友って言われたぐらいで泣いてしまうシリウスは、つまり心を許せる他人ってヤツが今までいなかったって事か?
 そこまで考えて、俺は一つ尋ねてみた。

 「幼馴染はいるのか?」
 「いるよ」

 いるのかよ。

 「…… 男?」
 「女の子。この街でシスターになってるはずだよ。銀髪のき――」

 俺はシリウスの手を振りほどき、ギルドへ足を進めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...