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俺の異世界転移はどこか間違っている。 完 (イラスト有)
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木々は風で揺れ、落ちている木漏れ日を跨いで進む。
俺とシリウスは近場の街、『アルヒ』を目指していた。アルヒはこの辺りで最も大きい街で別名『始まりの街』と呼ばれる事もあるそうだ。
「慣れた?」
数歩先を進むシリウスが振り返って微笑んだ。
俺は首を横に振って、
「まだ上手くできねえな。結構コツがいる」
右手に持つハンドスピナーを回転させる。
「ははっ、ほんとだ。まだ震えてるね」
「うるせえな」
俺は魔力を使う事が出来るようになった。けれど、魔力を練る時に身体がぷるぷると小刻みに震えてしまうのだ。正直、ダサい。ダサすぎるといっても過言じゃない程にダサい。一体、どこの異世界にぷるぷるしながら魔力を行使する奴がいるというのか。
廃教会を出る時に「歯磨き筒を練習用に貸してくれ」とシリウスに頼んだ際、「もったいないからこれ使うといいよ」と手渡されたのがこのハンドスピナーだ。ただこのハンドスピナーは俺が知ってる物とは少し違い、魔力を流し込まないと回転しないように作られている。
「スフィアを使う時までに慣れるといいね。アレはオドを流し込まないといけないから」
「俺は大抵の事は人並以上にできるってのが取り柄だぜ? ちょっと練習したらこのぐらい余裕だ」
「すごいね! アルヒまで半日はかかるからゆっくりでも良いと思うけど、頑張って!」
「おう」
急がねばっっ!!
*
太陽が頭の上に来た頃。
「…… なんか、違う」
俺たちはモンスターと遭遇する事なくアルヒの街に辿り着いた。無事に辿り着けたのは良い事だ。木造や石造りの建造物が立ち並ぶコレって感じの街並みや街行く人々の服装、様々な種族は想像してた通りだ。
「城門は?」
そう。異世界の街といえば城門や石壁に囲まれた街だろう。けれど、このアルヒとかいう街は城門という名の石壁は無く、ただ木の柵と小さな川、というか用水路みたいなモノで囲まれているだけだ。
「ははは! 城が無いのに城門?」
けらけら笑っているのはイケメンシリウス君。ぶん殴ってやろうか。
…… まあいい。
「こっちに来て初めての街へ俺は今、足を踏み入れるのか。廃教会に居た時はこれからどうなるかと思ったが」
「アルヒ自体にはちょっと前から足を踏み入れてるけどね」
「え?」
「ちょっと前に畑広がってたでしょ? あの辺りはもうアルヒだよ」
「嘘だ!」
「嘘じゃないって。それより魔力制御できるようになったの?」
「………… うん」
「嘘だあ!」
そんな問答を繰り広げながら、用水路に架かる小さな石橋を渡り、雑多な音が飛び交う街中へ足を踏み入れる。
珍奇なモノを見るような冷ややかな視線が集まってきた。それもそのはず。俺はこの世界においては変わった服装をしているからだ。
「な、なあシリウス? お前これからどうするんだ?」
前を向いているのが恥ずかしくなり、友達の方へ振り返る。
「僕はこれからギルドで冒険者登録かな」
「なん…… だと」
「冒険者登録かな」
やっぱりあるのか冒険者!! ギルドへ向かう足が軽くなったように感じる。
俺は興奮しているのを気取られないように、
「へえ? いいじゃん」
「あまり良くはないかな。響きは良いけど、基本的には定職に就いて無い人たちの総称だからね」
「…… 冒険者とはっっ!!」
「急にどうしたの!?」
「名誉の為! 利益の為! 自らの命を顧みずっ! 未だ見ぬ世界を旅する人たちの事だ!!」
「そういう人は一部だね。何か偉業を成し遂げた冒険者しかジャポンティまで名が知られることはないだろうからカケルが勘違いしちゃうのは仕方ないけど」
「なるほど」
つまり冒険者って奴らの大部分はフリーターみたいなもんってことか。
「カケルはこれからどうするの?」
「俺は……」
どうしよう。冒険者は思ってたのと違ったし…… でも昨日まで学生だった俺が異世界で定職に就けるかと言われればそんな自信も無いし、そもそも働きたくないし…… 学生?
「俺はとりあえず学園に行く」
その言葉にシリウスは目を丸くした。
異世界と言えば魔術学園だと相場決まってる。俺は魔法の学び舎で天才系ヒロインとか物静かなクール系ヒロインと出会う運命なんだ。
「一応聞くけど、何の為に学園に行くの?」
「決まってんだろ? 世界を学びに行くんだよ。学生として」
「カケルは学生には戻れないよ? 成人なんだし。カケルが貴族の跡取りなら話は変わるけど」
「………… ふっ」
「ふ?」
「俺は貴族だ」
「嘘だね」
どうやらこの世界では十五歳で成人となり、十八歳まで学園にいられるのは貴族の跡取りだけらしい。早ければ十二歳で働き始める人もいるのだとか。つまり、この世界へ来た時点で俺の高校生活という青い春は終わっていたのだ。元の世界の姿ではなく赤ちゃんとしてちゃんと転生していたら学園に通う事ができたのに…… 使えねえ天使だな。
そういえばサリエルのやつ魔王を倒して欲しいって言ってたな。
「なあシリウス。魔王を倒す職業って何だと思う?」
「魔王? うーん…… 騎士団とか冒険者じゃない? でも魔王――」
「騎士団カッコいいな。俺騎士団入る」
「今は貴族じゃないと騎士団に入れないはずだよ」
ふざけるな。
「…… 冒険者登録だな」
「いいの?」
「他に選択肢あるか?」
「ギルドならカケルに合った仕事紹介してくれるよ」
「…… いや、冒険者でいいや。無茶しなきゃ生きてはいけるんだろ?」
「選べば金は良いって聞くから、多分。カケルが冒険者になるなら僕たち冒険者仲間だね」
「俺たちは仲間ってより友達だろ」
その何気ない一言で、シリウスの足がピタっと止まった。
振り返るとシリウス君が俯いている。
「どうした?」
「友達…… 友達って……」
ふむ。
お互い全裸でスクワットをして、お互い全裸で同じ飯を食い、お互い全裸で同じ場所で寝た。俺の知らないこっちの世界の知識、魔力の扱い方を教えてくれて、アルヒまで半日だったが二人で冗談を言いながら旅をした。
これは……
「悪いシリウス。間違えた」
「えっ……」
シリウスの真っ赤な瞳がキラリと光ったように見えた。
「俺たちやっぱり友達じゃねえわ。俺とお前は親しい友…… いやそれも違うな。 心の友。そう! 心友だ!」
「っっっ!!!」
シリウスの瞳から涙が零れ、頬を伝って地面に落ちた。
「なんで泣いてんだ?」
「ぅ…… ぅ」
周囲がざわつき始める。俺はシリウスの手を取って路地裏へ避難した。
「落ち着いたか?」
ちょっと待ってから、俺は声を投げかけた。
シリウスは袖で涙を拭いながら頷く。
「で、なんで泣きだしたんだ」
「小さい頃からの夢…… 諦めてた夢が叶ったんだよ。カケルのおかげでね」
「何の事だ?」
シリウスは呼吸を整えるように小さく息を吸って、言った。
「友達を超えた友達」
「恥ずかしいからやめようぜ」
俺は話を切り上げて路地裏を出ようとしたのだが、腕を掴まれて止められた。
「成人してから友達が、心友が出来るなんて思ってなかったんだ! だから、何か、涙が溢れてきて……」
「心友なんて歳関係ないし、友達がいたらいつの間にか心友になってんだろ。何言ってんだ」
「できないよ! 僕には友達がいないんだから!!」
「えぇ…… 学園には通ってたんだろ? 学友ってやつはできるだろ」
「ううん。知り合いは出来たけど、友達って呼べる関係性は築けなかった」
おかしい。
シリウスは変な奴だ。けれど顔はとんでもなく良いし、優しい心の持ち主だ。変な奴だが。
男連中が嫉妬でこいつを嫌っていたとしても、女の子たちはこのイケメンと関係を持とうとしなかったのか? いや、知り合いはいるって言ってるからそれは言い寄ってきた女の子達の事だろう。心友って言われたぐらいで泣いてしまうシリウスは、つまり心を許せる他人ってヤツが今までいなかったって事か?
そこまで考えて、俺は一つ尋ねてみた。
「幼馴染はいるのか?」
「いるよ」
いるのかよ。
「…… 男?」
「女の子。この街でシスターになってるはずだよ。銀髪のき――」
俺はシリウスの手を振りほどき、ギルドへ足を進めた。
俺とシリウスは近場の街、『アルヒ』を目指していた。アルヒはこの辺りで最も大きい街で別名『始まりの街』と呼ばれる事もあるそうだ。
「慣れた?」
数歩先を進むシリウスが振り返って微笑んだ。
俺は首を横に振って、
「まだ上手くできねえな。結構コツがいる」
右手に持つハンドスピナーを回転させる。
「ははっ、ほんとだ。まだ震えてるね」
「うるせえな」
俺は魔力を使う事が出来るようになった。けれど、魔力を練る時に身体がぷるぷると小刻みに震えてしまうのだ。正直、ダサい。ダサすぎるといっても過言じゃない程にダサい。一体、どこの異世界にぷるぷるしながら魔力を行使する奴がいるというのか。
廃教会を出る時に「歯磨き筒を練習用に貸してくれ」とシリウスに頼んだ際、「もったいないからこれ使うといいよ」と手渡されたのがこのハンドスピナーだ。ただこのハンドスピナーは俺が知ってる物とは少し違い、魔力を流し込まないと回転しないように作られている。
「スフィアを使う時までに慣れるといいね。アレはオドを流し込まないといけないから」
「俺は大抵の事は人並以上にできるってのが取り柄だぜ? ちょっと練習したらこのぐらい余裕だ」
「すごいね! アルヒまで半日はかかるからゆっくりでも良いと思うけど、頑張って!」
「おう」
急がねばっっ!!
*
太陽が頭の上に来た頃。
「…… なんか、違う」
俺たちはモンスターと遭遇する事なくアルヒの街に辿り着いた。無事に辿り着けたのは良い事だ。木造や石造りの建造物が立ち並ぶコレって感じの街並みや街行く人々の服装、様々な種族は想像してた通りだ。
「城門は?」
そう。異世界の街といえば城門や石壁に囲まれた街だろう。けれど、このアルヒとかいう街は城門という名の石壁は無く、ただ木の柵と小さな川、というか用水路みたいなモノで囲まれているだけだ。
「ははは! 城が無いのに城門?」
けらけら笑っているのはイケメンシリウス君。ぶん殴ってやろうか。
…… まあいい。
「こっちに来て初めての街へ俺は今、足を踏み入れるのか。廃教会に居た時はこれからどうなるかと思ったが」
「アルヒ自体にはちょっと前から足を踏み入れてるけどね」
「え?」
「ちょっと前に畑広がってたでしょ? あの辺りはもうアルヒだよ」
「嘘だ!」
「嘘じゃないって。それより魔力制御できるようになったの?」
「………… うん」
「嘘だあ!」
そんな問答を繰り広げながら、用水路に架かる小さな石橋を渡り、雑多な音が飛び交う街中へ足を踏み入れる。
珍奇なモノを見るような冷ややかな視線が集まってきた。それもそのはず。俺はこの世界においては変わった服装をしているからだ。
「な、なあシリウス? お前これからどうするんだ?」
前を向いているのが恥ずかしくなり、友達の方へ振り返る。
「僕はこれからギルドで冒険者登録かな」
「なん…… だと」
「冒険者登録かな」
やっぱりあるのか冒険者!! ギルドへ向かう足が軽くなったように感じる。
俺は興奮しているのを気取られないように、
「へえ? いいじゃん」
「あまり良くはないかな。響きは良いけど、基本的には定職に就いて無い人たちの総称だからね」
「…… 冒険者とはっっ!!」
「急にどうしたの!?」
「名誉の為! 利益の為! 自らの命を顧みずっ! 未だ見ぬ世界を旅する人たちの事だ!!」
「そういう人は一部だね。何か偉業を成し遂げた冒険者しかジャポンティまで名が知られることはないだろうからカケルが勘違いしちゃうのは仕方ないけど」
「なるほど」
つまり冒険者って奴らの大部分はフリーターみたいなもんってことか。
「カケルはこれからどうするの?」
「俺は……」
どうしよう。冒険者は思ってたのと違ったし…… でも昨日まで学生だった俺が異世界で定職に就けるかと言われればそんな自信も無いし、そもそも働きたくないし…… 学生?
「俺はとりあえず学園に行く」
その言葉にシリウスは目を丸くした。
異世界と言えば魔術学園だと相場決まってる。俺は魔法の学び舎で天才系ヒロインとか物静かなクール系ヒロインと出会う運命なんだ。
「一応聞くけど、何の為に学園に行くの?」
「決まってんだろ? 世界を学びに行くんだよ。学生として」
「カケルは学生には戻れないよ? 成人なんだし。カケルが貴族の跡取りなら話は変わるけど」
「………… ふっ」
「ふ?」
「俺は貴族だ」
「嘘だね」
どうやらこの世界では十五歳で成人となり、十八歳まで学園にいられるのは貴族の跡取りだけらしい。早ければ十二歳で働き始める人もいるのだとか。つまり、この世界へ来た時点で俺の高校生活という青い春は終わっていたのだ。元の世界の姿ではなく赤ちゃんとしてちゃんと転生していたら学園に通う事ができたのに…… 使えねえ天使だな。
そういえばサリエルのやつ魔王を倒して欲しいって言ってたな。
「なあシリウス。魔王を倒す職業って何だと思う?」
「魔王? うーん…… 騎士団とか冒険者じゃない? でも魔王――」
「騎士団カッコいいな。俺騎士団入る」
「今は貴族じゃないと騎士団に入れないはずだよ」
ふざけるな。
「…… 冒険者登録だな」
「いいの?」
「他に選択肢あるか?」
「ギルドならカケルに合った仕事紹介してくれるよ」
「…… いや、冒険者でいいや。無茶しなきゃ生きてはいけるんだろ?」
「選べば金は良いって聞くから、多分。カケルが冒険者になるなら僕たち冒険者仲間だね」
「俺たちは仲間ってより友達だろ」
その何気ない一言で、シリウスの足がピタっと止まった。
振り返るとシリウス君が俯いている。
「どうした?」
「友達…… 友達って……」
ふむ。
お互い全裸でスクワットをして、お互い全裸で同じ飯を食い、お互い全裸で同じ場所で寝た。俺の知らないこっちの世界の知識、魔力の扱い方を教えてくれて、アルヒまで半日だったが二人で冗談を言いながら旅をした。
これは……
「悪いシリウス。間違えた」
「えっ……」
シリウスの真っ赤な瞳がキラリと光ったように見えた。
「俺たちやっぱり友達じゃねえわ。俺とお前は親しい友…… いやそれも違うな。 心の友。そう! 心友だ!」
「っっっ!!!」
シリウスの瞳から涙が零れ、頬を伝って地面に落ちた。
「なんで泣いてんだ?」
「ぅ…… ぅ」
周囲がざわつき始める。俺はシリウスの手を取って路地裏へ避難した。
「落ち着いたか?」
ちょっと待ってから、俺は声を投げかけた。
シリウスは袖で涙を拭いながら頷く。
「で、なんで泣きだしたんだ」
「小さい頃からの夢…… 諦めてた夢が叶ったんだよ。カケルのおかげでね」
「何の事だ?」
シリウスは呼吸を整えるように小さく息を吸って、言った。
「友達を超えた友達」
「恥ずかしいからやめようぜ」
俺は話を切り上げて路地裏を出ようとしたのだが、腕を掴まれて止められた。
「成人してから友達が、心友が出来るなんて思ってなかったんだ! だから、何か、涙が溢れてきて……」
「心友なんて歳関係ないし、友達がいたらいつの間にか心友になってんだろ。何言ってんだ」
「できないよ! 僕には友達がいないんだから!!」
「えぇ…… 学園には通ってたんだろ? 学友ってやつはできるだろ」
「ううん。知り合いは出来たけど、友達って呼べる関係性は築けなかった」
おかしい。
シリウスは変な奴だ。けれど顔はとんでもなく良いし、優しい心の持ち主だ。変な奴だが。
男連中が嫉妬でこいつを嫌っていたとしても、女の子たちはこのイケメンと関係を持とうとしなかったのか? いや、知り合いはいるって言ってるからそれは言い寄ってきた女の子達の事だろう。心友って言われたぐらいで泣いてしまうシリウスは、つまり心を許せる他人ってヤツが今までいなかったって事か?
そこまで考えて、俺は一つ尋ねてみた。
「幼馴染はいるのか?」
「いるよ」
いるのかよ。
「…… 男?」
「女の子。この街でシスターになってるはずだよ。銀髪のき――」
俺はシリウスの手を振りほどき、ギルドへ足を進めた。
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