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俺の初クエストはどこか間違っている。

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 「カケルー。良い感じのクエストはありましたかー?」

 アリアは暇そうに足をぷらぷらさせている。

 「お前もサボってないでちょっとはクエスト探し手伝えよ」
 「嫌ですよ。だってクエストに行ったら私が頑張らなくちゃいけないんですから」
 「くっ」

 今はこいつの機嫌を損ねるわけにはいかない。
 俺は装備を買った後、ギルドに来ている。
 買ったのは私服用Tシャツ三枚とダガー二本だ。やっぱ戦闘ってなると二刀流がかっこいいし、軽い武器の方が『アクセル』と相性がいいはずだからだ。
 本当は斬馬刀みたいな大剣の二刀流がやりたかったのだが、重たすぎて一本を持ち上げるのがやっとだったから諦めた。大剣と同じ理由で鎧も諦めた。金が足りなかったわけじゃあない。

 ちなみに俺が唯一使える『アクセル』というスキルはちょっと足が速くなるってだけだった。体感的には50m3秒ぐらいで走れるようになるぐらい速くなる。仕事に遅れそうな時はとても貴重なスキルだ。それに、結構使っていたからか三週間前に比べたら体の震えは傍目からはバレない程度にはマシになった。

 「ゴブリン討伐なんかの、適当なクエストがありゃいいんだが」
 「何言ってるんですかカケル!? ゴブリンはそれはそれは恐ろしいモンスターなんですよ!? ゴブリンは嫌です!」
 「ゴブリンって最弱モンスターじゃねぇの?」
 「だから違いますって! ゴブリンは知能が高く集団で行動するんです! ダンジョンに入った人や旅の途中の人を統率された集団で襲い男性は惨殺、女性は…… あわわわわ」
 「もう言わなくていいから! 危険なモンスターってのとお前が嫌がってるのは分かったから!」
 「ふ、ふふん。分かればいいのです」

 言霊魔法が使えるアリアでも恐れるゴブリンとか、この世界のゴブリン怖すぎだろ。

 「遠方のクエストしか残ってませんね」

 アリアがいつの間にか俺の隣に立っていた。

 「そうなんだよなあ。一応数日分の生活費はあるが、遠出に回すほど余裕無いからな。それに、見ろよ? ワイバーン殲滅とかダイヤモンドタートルの捕獲とかさ、これ駆け出しの俺たちが受けられるようなクエスト無くね?」

 現在、冒険者ギルドに残っているクエストは熟練の冒険者でも躊躇ためらうようなモノしかない。

 ―― なんで? 

 俺が悩んでいると赤髪のきれいなエルフのお姉さんが近づいてきた。

 「実はですね……」

 お姉さんの話を要約するとこうだった。
 近隣のモンスターはシリウスが全滅させた、と。

 「何やってくれてんの?」
 「確か、大切な友達がいる街の近くにモンスターなんて必要ない! 僕がやってみるよ! カケルに頑張って、って言われちゃったしね! …… って言ってたらしいですよ」
 「……」
 
 過去の俺は何を言ってくれてんだ!

 「無いものは仕方ありませんね! では帰りましょう! 暖かい我が家と肉が私たちを待っています!」

 なんでそんな嬉しそうなんだよ。それにあそこ我が家じゃないから。ただの宿屋だから。

 「いやだ、俺はクエストに行くの。冒険したいの。あんな地味な仕事したくないの」
 「もう! カケルは子供ですか!? お母さんの言う事が聞けないんですか!?」
 「誰がお母さんだ!」
 「私ですが。だって毎日カケルのお世話をしてあげてるんですから実質お母さんでしょう?」
 「おい、誤解を招く言い方はやめろ。お姉さんが引いているだろう。あとお世話をしているのはお前じゃない。働いて稼いで帰ってきてるこの俺だ」
 「えー? 私が洗濯してお料理まで作ってお風呂まで…… 入れてあげてるのに…… ぽっ」
 「おいこらクソガキ! ぽっ、じゃねえ! お湯入れただけだろ! 変な空気になってるだろうが! あと、お前のは料理じゃない。ただマルメドリを焼いただけだ俺でもできる」
 「ひどいですよっ! ひどいです!!」

 横で騒ぐアリアの頭を手で押さえながら、俺はお姉さんに聞いてみた。

 「あのー、俺達でもできそうなクエストってありませんかね?」
 「そうですね…… 比較的弱いモンスターが出現するのはまだ時間がかかりそうなんですよね……。 あっ! ダンジョンはどうでしょう? この街の近くにあるんですけど第一階層なら強力なモンスターが出たって報告は聞いた事ないし、第一階層で探索をする物好きは限られてますので何か見つかるかもしれませんよ」
 「おぉー! ダンジョン!!」

 興奮した俺を止めるようにアリアが口を出した。

 「ダンジョンは嫌です」
 「は?」
 「ダンジョンは嫌です」

 さっきからなんだこいつ。このままアイアンクローでもかましてやろうか。

 「なんで?」
 「ダンジョンは暗くてジメジメしてますしアンデッドモンスターも出るらしいので嫌です」

 こいつぅ。お姉さんもちょっと困ってるじゃねーか。
 だが、このわがままなクソガキが頑張ってくれないとモンスターを倒せないのも事実。なにせ、俺は戦闘においてはド素人で魂の色を見ることしかできない駆け出しの冒険者なんだから。

 この三週間で俺の加護について分かったことが二つある。
 一つは魂が見えるという事について。
 魂が見えるというのは人体の胸に火の玉のようなモノが見えるということだった。
 そして、魂の色を見分けられるというのは俺の意識次第で魂の判別方法を変えることができるのだ。
 例えば性別を知りたい場合は男の魂は青色、女の魂はピンク色で見ることができた。
 また別の例では他者の善悪が知りたい場合。善人なら白色、悪人なら黒色で見ることができる。
 だからなんだ、という話なのだが、少なくとも俺の生活圏内せいかつけんないに黒い魂を持つ悪人がいないと知る事ができたのは平穏な日常を送ることができた重要な要素だ。

 もう一つは、俺には魂に作用する魔法が効かないということだ。魂というより精神に作用する魔法と言った方が分かりやすいかもしれない。
 アリアの言霊魔法が俺には効かないってことから判明したのだが、どうやら俺の魂は加護の力で守られているらしい。
 アリアは「ずるいです! そんなの! 神の力が効かないなんてずるいです!!」と喚いていたが、「俺はアリアみたいなすごい魔法が使いたかったんだよ」と本心を言ったら「…… ふふん」と大人しくなった。

 さて、このちょろいアリアをどう説得するか。
 俺が試行錯誤していると、ギルド内にサイレンのような音が鳴り響いた。

 『緊急クエストを発令します! マルメの森付近でキングマルメドリが出現した模様! キングマルメドリはまっすぐこの街に向かってきていると報告がありました! 現在アルヒに滞在中の冒険者はただちに南門へ急行してください! そして、キングマルメドリを討伐または撃退してください!』

 「緊急?」
 「……」
 「カケルさん! アリアさん! 緊急クエストですよ!」

 お姉さんが切羽詰まった様子で言った。

 「緊急って、そんな大変そうなクエストに俺たちが行っても仕方ないと思うんですけど」
 「ですね! ですね!」
 「二人とも、そんなこと言ってる場合じゃありません! キングマルメドリなんて古代種、人員が多ければ多いに越したことはないでしょう!」

 お姉さんの言ってることは正しいと思うが、アリアはともかく俺が戦力になるなんて到底思えない。それよりも気になる言葉が。

 「古代種?」
 「そう! 古代種です! いつから生きているのか誰も知らないモンスターなんです!」
 「そんなモンスターがなんでこの街に? ってか、そもそもキングマルメドリってなんですか?」
 「キングマルメドリとは、その名の通りマルメドリ達の王に君臨しているといわれているモンスターです! 私も見たことはありませんのでどれぐらい大きいのかわかりませんがオオマルメドリでも人間サイズぐらいはあるのでキングとなればそれはもう……。あと、この街に進行してる理由なんて私が知るはずもないでしょう! この街がマルメドリの養殖を担っていることぐらいしか思いつきません!」

 原因それじゃね? ってかマルメドリってそんな種類いるの? 何だよオオマルメドリって。
 そういやマルメドリってモンスターだったな。やっぱ魔力だとか生存競争だとかで成長すんのかな。

 「ほらはやく行ってください! それに、今回の緊急クエストをクリアすればかなりのお金がもらえるはずですよ! あと名誉も!」

 俺とアリアはお姉さんに背中を押され、強引にギルドから追い出された。

 異世界初のクエストが緊急クエストになろうとは。緊急クエストって言えば、ゲームなら物語の節目で受けるクエストじゃん。その時のレベルに合わせた強敵が出てくるクエストじゃん。
 俺まだレベル1なんですけど。節目も何も、まだ始まりの街から一歩も出たこと無いんですけど。
 今は金も名誉も別にいらないから命は大事にでいこう。そうしよう。古代種とか明らかに最強クラスのモンスターっぽいし。
 そもそも、この世界の難易度設定間違ってない? 色々と。
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