視線の向かう先

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離れた道の先

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一年に一度の夜会が終われば、来年までは全く会わない相手、と言うのが侯爵夫妻と、子爵夫妻だ。元より高位貴族と下位貴族の生活圏内は交わらないことが多い。

ルイスはクローディアの婚約者だった頃には利用可能だった施設が今の自分ではそもそも入れない、という事実に愕然とした。

学生の折、学園の生徒という肩書きがあったから出入りを許されていた施設も、卒業後は冷たい態度で自分達の行手を阻む。

下位貴族でありながら、知ってしまった特別待遇を失って初めて、ルイスはその便利さを知った。

「ローズ、残念だが、ここに入ることは許されていないんだ。」

ルイスの妻ローズが目指す先には、下位貴族がどれだけ働いてもお金を積んでも入れない専用通路が顔を出す。

この先は、高位貴族でも限られた人間しか出入りできない空間が広がっている。高位貴族だけの特権を、ルイスは羨ましいとは思えない。クローディアの婚約者だった時分からその先へ行くのを何処か恐ろしく感じていたから。

ローズは納得いかない様子ではあったが、駄々をこねることはしなかった。

彼女はルイスが仕事で認められて、子爵から上の立場になりさえすれば自分が高位貴族の仲間入りを果たすのだと思い込んでいたが、そんなことは今世ではないことはルイスが一番よくわかっている。

子爵家が伯爵家になるのは、伯爵家を一つ蹴落とし、そこに収まらなければならない。それに我が子爵家が国の為になくてはならぬ、という存在価値を示すことなど、ルイスの平凡な頭では考えつくだけで百年ほど経ってしまう。

ルイスは自慢ではないが、突出する特技や能力のない男である。だからこそ、クローディアの婚約者になれたのだ。

ラケル侯爵家は、欲のない家である。わざわざ骨を折ってまで権力をこれ以上必要としない家。第一王子の婚約者候補としてこれ以上ない家でありながら、最も相応しくない家であった。その為選ばれた第一王子という縁談を回避でき尚且つ脅威に映らない相手というのが、自分で言ってて悲しくなるほどに無能なルイスだったという訳だ。

ルイスがローズに夢中にならなくとも、縁談が一旦回避された時点で、相応しい相手が見つかればルイスはお役御免になっていたのかもしれない。

それでも、その場合にはまだ今より選択肢はあっただろう。盲目的に誰かを愛し続ける相手よりまともな縁談が。

だが、もう元には戻れない。ルイスは妻の手綱を握りながら、子爵家を盛り立てていくしか道はない。

夜会で見るクローディアはいつも美しい。一番近くで見る特権を放り出し、遠くから見ることでよくわかる。近くにいた時には眩しすぎて目が眩み、近くにいたまだ見える明るさに囚われただけだった。今はもう届かない眩しさに目を細め、直視することさえ許されない。

ルイスは自分が小さな羽虫になったのかと思うほど、情けなさに包まれていた。羽虫は羽虫同士、生きていく他ない。



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