まさか私としたことが

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どうしてこんなことに

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イライザは急な変化についていけないでいた。夫人に会えるどころか、夫人がいないのを良いことに、何故かちょっかいをかけられている。

でも強く断れないのは、彼が激昂して自分を殺してしまったら折角命拾いしたのが無駄になる。それは避けなければならない。

物語の中で殺人鬼だった彼は、基本的に表情が変わらない。だからこそ感情が読めなくていつのまにか怒らせてしまっていたりしたら血を見ることになる。彼の行動は全てアンジェリーナ様のためにあって。それでも最後まで兄妹として、アンジェリーナ様の幸せを見守る存在だったけれど。



確か物語の中では彼の結婚なんて描写はなかった。あくまでも彼の役目は妹の邪魔になる者達を消すことだった。

本来なら自分も、一緒に殺されて然るべき存在だったのだ。

もしかして、それができないからと、こちらがビクビクして怯えている様子を楽しんでいるのだろうか。

余計なことを言わずにいたら、流されてしまったので、イライザは全てを受け入れてしまっている。


彼はあくまで殺人鬼で人の心など持ち合わせていないのに、イライザに対する行動の数々にそれを忘れてしまいそうになる。まるで本当にイライザを愛しているかのようで、とても怖くなる。

この怖さはいっそ殺される方がマシだと思うような、沼にズブズブと入って沈んでいくような恐ろしさがある。

イライザは恋なんてしている場合ではない。恋に落ちると人はバカになる。侯爵家で散々見た光景に、イライザは自分がそうはなりたくないと思っていたことに気づいた。

イライザがそれを自室で見つけたのは偶然だった。彼の部屋に繋がる扉の他に、もう一つ不思議な通路に繋がる扉が現れたのだ。

普段なら怪しいことに首を突っ込まないのだが、藁をも掴むように焦りからその扉を開いてしまったのだ。

扉の中に入ると、通路は意外と広く、ある狭い部屋に繋がっていた。

そこは使用人部屋としても少し狭いぐらいの小さな空間で、椅子と机とベッドが置かれていた。

少なくとも人が使っている形跡はないことから、ここが何の為にある部屋かわからない。

ふと、ベッドの下に何かが落ちているのが目についた。

拾い上げてみると、どこかで見たようなキラキラした宝石のついたネックレスが落ちていた。

どこで見たのだろうと思考を凝らしていると不意に後ろから抱きしめられる。

「部屋にいなかったからもしやと思ってここに来たんだ。なるほどここなら気兼ねなく君を愛でることができるね?」

笑い慣れていないからか歪な笑顔を宿した彼を血の気の引いたイライザは見つめる。


「驚いたかい?これはサプライズというのだろう?愛する人を喜ばせる為にこうするのだと、アンジェに聞いたんだ。ここなら君が気にする誰かの目は絶対に入り込まない。少し狭いけどね。」

イライザが何かをいう前に彼は一人で納得してイライザの部屋をここに決めてしまった。勿論前の部屋に戻ってもいいらしい。

イライザが拾ったネックレスは、没収されたが彼は彼女に別のネックレスをプレゼントするという。ねだったわけでもないのに、そんな感じになってしまって申し訳ないやら、騙されたような気もするような。

話を聞きながらイライザの意識はさっきのネックレスをどこで見たかに飛んでいた。

嫌な予感ではないけれど、何故か思い出した方が良い気がしたのだ。
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