まさか私としたことが

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アンジェリーナの思惑

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「貴女にやられたことを覚えている。」

その言葉が正しく理解されていないことは、気が付いていた。いや、まああの場面では正しく誤解されることを期待していたと言った方が正しい。

アンジェリーナは自分の立ち位置を不思議に思っていた。侯爵家に政略結婚でやって来た伯爵令嬢という体でやって来たが、当たり前のことだが、当主はそんなこと聞いていないし、優遇される訳もない。彼方は彼方で、厄介な事情を抱えていたし、得体の知れない自称妻に割く時間など無かったのだろう。

ただそこは危機を回避する能力が足りなかったのだ。

侯爵家当主を名乗っていた男は、元は単なる執事見習いの平民だった。情婦と手を組み妻を亡くした侯爵の後妻に宛てがうと、当主を毒殺した後で自分が当主に成り代わった。そして、好き勝手に財産を食い潰していたのである。

彼らの処刑理由は侯爵家の乗っ取りである。後妻も使用人も全て処刑された。あの子を除いて。

あの子は実は、前の侯爵の子で、とかそういう話はない。それはイライザではなくアンジェリーナの方だ。アンジェリーナは自分の父を殺して我が物顔で侯爵家に居座るならず者の退治にやって来たのだったが、悪い奴らは侯爵当主を名乗る男や、後妻だけではなかったのだった。

調べていくにつれ、わかるのは侯爵家に雇われていた使用人達の協力。彼らは皆で偽侯爵に力を貸していたのである。

それも前侯爵に恨みがあるのかと問われれば、そんなものはなく、単に贅沢をしたかったから、と悪びれもなく答えるような奴等ばかり。

前侯爵の殺害に加わっていたのは、侯爵家に雇われているほぼ全ての使用人達だった。

アンジェリーナの顔立ちは、母よりも父に似ている。だから、すぐに彼女の素性に気づく者もいるかと思ったが、気づいたのは、一人だけだった。

彼女は実際の父には会っていない。自分と同じ歳の子だから、当時の年齢では多分産まれて間もない子供だっただろう。

彼女はある意味では被害者だった。あの日、彼女が勘違いからアンジェリーナに土下座をしなければ、彼女も一緒に処理してしまうつもりだったのだ。

彼女が侯爵家に雇われたのは、侍女達の勘違いが原因だった。アンジェリーナの父の殺しを手伝った彼女達はある時、ふと出産された赤子のことを思い出したのだ。

侯爵家の使用人ごときが、掴んだ情報には、信憑性に問題のあるものも紛れ込んでいる。数ある情報を選び取る能力などは練習しない限りうまくなることはない。

よって彼女達は、赤子が父に似た風貌を持つことすら知らずに、他人の空似でたまたまアンジェリーナの母に似た顔立ちだった平民の、イライザを前侯爵の子だと思い込んだ。

結果、彼女は一メイドとして、侯爵家の使用人達から監視されることになったのだ。

イライザを一緒に殺して、彼女達の思い違いを晒してやろうかと思ったが、事情が変わった。アンジェリーナは自身の復讐が終われば、兄ラファエルと結婚するつもりだったのだが、自分の代わりに彼女を花嫁にしようと決意したのだ。

兄は良い男ではあるが、悪魔なのである。兄は特にアンジェリーナに固執しているわけではなかった。だから、イライザを贄とした。アンジェリーナの思惑通り、怯えているイライザは兄のお気に入りとなった。
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