まさか私としたことが

mios

文字の大きさ
上 下
1 / 5

間違えてしまいました

しおりを挟む
「申し訳……ありませんっ、でしたーー!!」

侯爵夫人のお付きのメイド、イライザは、今必死になって命乞いをしている。彼女を見下ろしているのは、主人であるアンジェリーナ。侯爵家に嫁いで以来、二年間使用人と侯爵から冷遇され続けている悲劇の女主人である。

「あら、どうしたの?珍しいこともあるのね。」

イライザはただのメイドである。侯爵夫人のお付きのメイドになったというのに、何を勘違いしたのか侯爵に冷遇されている夫人につい先ほどまでやりたい放題していたただの平民にすぎないメイドである。

皆イライザのことを気が触れたと思っているのかもしれない。が、正にそんな感じだ。気が触れた方がマシだった。

何故だか、イライザはこの物語を知っていた。これは所謂ザマァ系と言われる物語の世界なのだ。

イライザは自分が今いるこの世界を外側から見たことがあり、この後、侯爵夫人のご実家から人が来て、侯爵夫人を助けるのであるが、その時使用人は皆殺しになることを先程思い出したのである。

「ふふ。貴女がどうやって知ったかはわからないけれど。わかったわ。私の為に働くなら貴女は殺さないでいてあげる。でも、私貴女にやられたことを覚えているの。だから、わかるわよね?」

「は、はい。わかります。」
イライザはすぐに部屋を出ると、お付きの侍女達に夫人の対応は自分が一手に引き受けると申し出る。

本来ならメイドの仕事ではないが、だからこそ辱めになるのだと理解しているのか侍女はそれを許した。

侯爵は夫人のご実家を侮っていた。勿論私達も。だけど実は隠された秘密が夫人にはあったのだ。

夫人と言うか、夫人の兄というか、一族というか。

イライザは死にたくない、という一心で夫人のコマとなることを選んだが、実際それが悪手であったことを後悔することになるとはまだ気がついていなかった。ひとまず、助かったのではないか、と見当違いな安堵に心を支配されていたのである。

アンジェリーナはそんなイライザを穏やかな笑みで眺めていた。彼女の笑みは、儚げに見えるが故に誤解を招いていたのだが、実のところは、ただの愉悦である。取るに足らない者が、必死に命乞いをして束の間の時間を手に入れたからと言って、彼女に訪れる未来を避けられた訳ではない。

「本当に可愛い子だわ。」

イライザの怯える姿は、アンジェリーナの気に入った。

「きっと私だけじゃなくて、兄も気にいるのでしょうね。」

アンジェリーナは良いことを、思いついた。イライザにとっては恐怖でしかない思いつきは、アンジェリーナの笑みを深くし、一見、微笑ましい風景に見えたのである。

「ねえ、貴女。一足先に家に帰ってもらえない?」

イライザは夫人に言われたように夫人の実家に職場を移した。驚くことに夫人の仕事は早く、いつのまにかイライザは既に侯爵家の使用人ではなくなっていた。

「貴女は私のものになったの。」

アンジェリーナの笑みにイライザは寒気を覚えた。一瞬だけ、ここで死んだ方がマシだったのではないかとの考えが過ぎったが、そんな筈はないと思い返した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王太子と、それに振り回される優しい婚約者のお話

下菊みこと
恋愛
この世界の女神に悪役令嬢の役に選ばれたはずが、ヤンデレ王太子のせいで悪役令嬢になれなかった優しすぎる女の子のお話。あと女神様配役ミスってると思う。 転生者は乙女ゲームの世界に転生したと思ってるヒロインのみ。主人公の悪役令嬢は普通に現地主人公。 実は乙女ゲームの世界に似せて作られた別物の世界で、勘違いヒロインルシアをなんとか救おうとする主人公リュシーの奮闘を見て行ってください。 小説家になろう様でも投稿しています。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

どうしようもない幼馴染が可愛いお話

下菊みこと
恋愛
可愛いけどどうしようもない幼馴染に嫉妬され、誤解を解いたと思ったらなんだかんだでそのまま捕まるお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

最後のスチルを完成させたら、詰んだんですけど

mios
恋愛
「これでスチルコンプリートだね?」 愛しのジークフリート殿下に微笑まれ、顔色を変えたヒロイン、モニカ。 「え?スチル?え?」 「今日この日この瞬間が最後のスチルなのだろう?ヒロインとしての感想はいかがかな?」 6話完結+番外編1話

届かない手紙

白藤結
恋愛
子爵令嬢のレイチェルはある日、ユリウスという少年と出会う。彼は伯爵令息で、その後二人は婚約をして親しくなるものの――。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中。

皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する

真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

処理中です...