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ヒロインの顔
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漸く来た自分の番。相手は特に関わりのない、自分より前に入っていた先輩騎士。前情報では、ニコルに似て情報戦に長けている、どちらかと言うと、アネットが苦戦する相手ではなかった。
だけど実際その場に立つと、全く別の人が仁王立ちして立っていた。
「エミリア?何やってんの?」
エミリアは憎たらしい顔で笑っている。
「今日は思い違いをしている先輩に引導を渡しに来ました。ヒロイン顔はやめて、元に戻ってくださいね。」
「どうしよう。あの子が何を言ってるかさっぱりわからない。」
アネットの呟きは、周りの皆にも共感の嵐を呼んだ。あいつは、何を言ってるんだ……
困惑しているアネットの丁度近くにいたシノーが、アネットに囁く。
「まあまあ、あの子の話を聞いてやってよ。聞いてから怒るなり、叩き斬るなり、お仕置きするなり、すれば良いよ。君の後輩として言いたいことが山ほどあるみたいだからさ。それに今までエミリアと話していて、話の意味がわかったことなんてあったかい?」
シノーは笑顔で毒を吐く。
「確かに。あの子はいつもよくわからないわね。」
ギャラリーはこれから始まるよくわからないことに、困惑したが、シノーの言葉を素直に聞いて、見守るつもりらしい。
「私に何か言いたいことがあるみたいね。先に聞いておくわ。何なの?」
「え?もう言いましたけど。」
「はあ?」
「だからぁ、先輩のキャラじゃないって言ってるんです。わからないことがあるなら、さっさと調べて、本人にズカズカ聞きに来るのが先輩でしょ。デリカシーも何もない、空気読まないのが先輩なんですから。気を遣って、グチグチウジウジしているなんて、似合わないんですよ。
気づいてます?今の先輩、少し前の私みたいですよ。助けてー、っていろんな人に泣きついて、おんぶに抱っこで、自分の役割を果たさず、すぐ逃げる。私、そういうのダメだって怒られましたよ。先輩は自分には甘い人なんですね。見損ないました。」
「私、何か凄い罵られてる気がするのだけど。」
「合ってます。だって先輩はかっこいい人じゃないですか。そういうせこい演出は必要ないんです。しかもその見た目でヒロインとか無理でしょ。ヒロインは小柄で可愛い子って決まってるんです。」
「エミリア、貴女、私を元気づけようとしてくれてる?」
エミリアの言い草は酷いものだったけれど、なんとなく言いたいことがわかってきた。
彼女に私の何がわかるんだ、と言いたいところだけど、悔しいかな、大体彼女の言い分は合っている。
アネットはとても単純なので、悲しい時はウジウジするし、悩んでいる時は他に何も手につかなかったりする。でもそれをわかってくれる人はあまりいない。社会人として、それなりに感情を隠そうとしているから、本当に仲の良い人にしかそれを見せていない、つもりだった、のに。
アネットの顔が赤くなっていく。気付かぬ内に、エミリアには全てを曝け出していたようで、恥ずかしさでいっぱいになった。
「エミリア、覚悟はできているのよね?」
アネットは、笑顔で問いかける。エミリアは、降参します!と言って、戦いを降りた。
逃げ足はとんでもなく早い。
彼女の後ろ姿を見ながら、どうしてやろうかと考えたアネットの顔に憂いはもうない。
アネットは不戦勝になったが、それは辞退した。アネットの当初の相手に譲る気だったが、先方に謝られたのだ。彼女はどうやらアネットが相手と聞いて、怖くて逃げたらしい。
その後、彼女は上司に引きずられて、天幕の後ろに消えていった。
エミリアみたいな人はどこにでもいるのだと、アネットは理解した。
「熱烈な愛の告白だったな。あれがちゃんとした味方ってことなんだろう。俺は、お前の側にいるつもりで、でも完璧にはお前の味方には成りきれなかった。ごめん。先生が帰ってきたらちゃんと話せよ。多分聞いたら答えてくれると思うから。」
グレイは、毒気を抜かれたような顔で、淡々と話した。エミリアの荒療治は、アネットだけじゃなく、彼にも効いたみたいだ。
だけど実際その場に立つと、全く別の人が仁王立ちして立っていた。
「エミリア?何やってんの?」
エミリアは憎たらしい顔で笑っている。
「今日は思い違いをしている先輩に引導を渡しに来ました。ヒロイン顔はやめて、元に戻ってくださいね。」
「どうしよう。あの子が何を言ってるかさっぱりわからない。」
アネットの呟きは、周りの皆にも共感の嵐を呼んだ。あいつは、何を言ってるんだ……
困惑しているアネットの丁度近くにいたシノーが、アネットに囁く。
「まあまあ、あの子の話を聞いてやってよ。聞いてから怒るなり、叩き斬るなり、お仕置きするなり、すれば良いよ。君の後輩として言いたいことが山ほどあるみたいだからさ。それに今までエミリアと話していて、話の意味がわかったことなんてあったかい?」
シノーは笑顔で毒を吐く。
「確かに。あの子はいつもよくわからないわね。」
ギャラリーはこれから始まるよくわからないことに、困惑したが、シノーの言葉を素直に聞いて、見守るつもりらしい。
「私に何か言いたいことがあるみたいね。先に聞いておくわ。何なの?」
「え?もう言いましたけど。」
「はあ?」
「だからぁ、先輩のキャラじゃないって言ってるんです。わからないことがあるなら、さっさと調べて、本人にズカズカ聞きに来るのが先輩でしょ。デリカシーも何もない、空気読まないのが先輩なんですから。気を遣って、グチグチウジウジしているなんて、似合わないんですよ。
気づいてます?今の先輩、少し前の私みたいですよ。助けてー、っていろんな人に泣きついて、おんぶに抱っこで、自分の役割を果たさず、すぐ逃げる。私、そういうのダメだって怒られましたよ。先輩は自分には甘い人なんですね。見損ないました。」
「私、何か凄い罵られてる気がするのだけど。」
「合ってます。だって先輩はかっこいい人じゃないですか。そういうせこい演出は必要ないんです。しかもその見た目でヒロインとか無理でしょ。ヒロインは小柄で可愛い子って決まってるんです。」
「エミリア、貴女、私を元気づけようとしてくれてる?」
エミリアの言い草は酷いものだったけれど、なんとなく言いたいことがわかってきた。
彼女に私の何がわかるんだ、と言いたいところだけど、悔しいかな、大体彼女の言い分は合っている。
アネットはとても単純なので、悲しい時はウジウジするし、悩んでいる時は他に何も手につかなかったりする。でもそれをわかってくれる人はあまりいない。社会人として、それなりに感情を隠そうとしているから、本当に仲の良い人にしかそれを見せていない、つもりだった、のに。
アネットの顔が赤くなっていく。気付かぬ内に、エミリアには全てを曝け出していたようで、恥ずかしさでいっぱいになった。
「エミリア、覚悟はできているのよね?」
アネットは、笑顔で問いかける。エミリアは、降参します!と言って、戦いを降りた。
逃げ足はとんでもなく早い。
彼女の後ろ姿を見ながら、どうしてやろうかと考えたアネットの顔に憂いはもうない。
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その後、彼女は上司に引きずられて、天幕の後ろに消えていった。
エミリアみたいな人はどこにでもいるのだと、アネットは理解した。
「熱烈な愛の告白だったな。あれがちゃんとした味方ってことなんだろう。俺は、お前の側にいるつもりで、でも完璧にはお前の味方には成りきれなかった。ごめん。先生が帰ってきたらちゃんと話せよ。多分聞いたら答えてくれると思うから。」
グレイは、毒気を抜かれたような顔で、淡々と話した。エミリアの荒療治は、アネットだけじゃなく、彼にも効いたみたいだ。
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