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嫌な問いかけ
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皆がアネット周りに注目している中、ニコルに密命を言い付けられたエミリアは壁の花になっていた。
今日の主役は彼方に任せて、自分はさっさと仕事を完遂しなくちゃ、とお目当ての相手を探す。
「どれも似たような体格でわかりにくいわ。」
エミリアは騎士の中では背が低く、小柄だ。それでも王都では標準の範囲内だったのに、ここでは一見すると、子供みたいに見えるらしい。
ナンパ、にもならない、おじさんからの迷子かの問い合わせにうんざりして、度々彼らを撒いて進むのはとても面倒だった。
ニコル以外にも、直の上司であるスエード卿からもお使いを頼まれている。だけど初めて会う人の誰がどれかはわからない。かくなる上は。
「ルーナ嬢、少し宜しいですか。」
ここにいる全ての人に詳しい方に聞くこと。当のご本人は、グレイとか言う人とアネット先輩に執心のようだが、背に腹は変えられぬ。こちらの手伝いをしてもらおう。
戸惑いながら、彼女はエミリアを見て、「何か?」と首を傾げる。
出来たばかりの名刺を見せると、彼女は表情を失くし、仕事モードになると、目当ての相手の元へ案内してくれるらしい。
辺境伯領内で一番力を持つ人、と言えば?ズバリ、辺境伯、ではなく、その夫人である。最初の女騎士を母に持ち、国内で一番強い騎士を夫に持ち、将軍の強さを持つ娘を持つその人が平凡な訳もなく。
エミリアは風の噂でしか聞いたことのない夫人にお会いできる幸運に打ち震えていた。ニコルの密命に関しては「好きになさい。」と言われ、スエード卿の願いは「任せるわ。」だった為に、あまり歓迎されていないのかと心配していたのだが、そうではなかった。
彼女もエミリアを子供だと、思っていたのだ。
「こんな小さな子に、言いに来させるなんて。」と少し怒っていたから、子供のフリをしておいた。
辺境伯領内では、この小柄な見た目は使えると理解した。同じ理由でニコルも彼女に目をかけられている、らしい。
その理屈ならルーナ嬢も多分、と思ったら案の定だった。
「夫人は、小さくて小回りの利く方を好まれます。」
ニコルに渡す手紙を引き取り、その場を離れると、ルーナ嬢から忠告めいた言葉を貰った。
「努努、油断なされませんよう。」
「それって、私じゃなくて、先輩に言ったらどうですか?」
ルーナが憎々しげに見ていたのは、男二人に絡まれていたアネットだ。あの騒ぎも、ニコルの仕込みだ。とはいえ、ああなることは容易に想像できたこと。
「彼の方なら、きっと承知されておりますわ。」
「私は違うと?」
「ええ、子供みたいな存在は、我々にとっては取るに足らないということです。」
エミリアは今自分が脅しを受けているのだと理解した。騎士団長と辺境伯令嬢の婚約は恋愛結婚、ではない。あれだけ仲が良くても、政略、と言う形を取る。その意味について、ちゃんと考えていなかった自分が悪い。
「この婚約に不満があると言うことですか。」ルーナは首を横に振った。
「それ以前の問題ですわ。よくお考えになって。」
エミリアは突然の問いかけに思考力が低下した。
今日の主役は彼方に任せて、自分はさっさと仕事を完遂しなくちゃ、とお目当ての相手を探す。
「どれも似たような体格でわかりにくいわ。」
エミリアは騎士の中では背が低く、小柄だ。それでも王都では標準の範囲内だったのに、ここでは一見すると、子供みたいに見えるらしい。
ナンパ、にもならない、おじさんからの迷子かの問い合わせにうんざりして、度々彼らを撒いて進むのはとても面倒だった。
ニコル以外にも、直の上司であるスエード卿からもお使いを頼まれている。だけど初めて会う人の誰がどれかはわからない。かくなる上は。
「ルーナ嬢、少し宜しいですか。」
ここにいる全ての人に詳しい方に聞くこと。当のご本人は、グレイとか言う人とアネット先輩に執心のようだが、背に腹は変えられぬ。こちらの手伝いをしてもらおう。
戸惑いながら、彼女はエミリアを見て、「何か?」と首を傾げる。
出来たばかりの名刺を見せると、彼女は表情を失くし、仕事モードになると、目当ての相手の元へ案内してくれるらしい。
辺境伯領内で一番力を持つ人、と言えば?ズバリ、辺境伯、ではなく、その夫人である。最初の女騎士を母に持ち、国内で一番強い騎士を夫に持ち、将軍の強さを持つ娘を持つその人が平凡な訳もなく。
エミリアは風の噂でしか聞いたことのない夫人にお会いできる幸運に打ち震えていた。ニコルの密命に関しては「好きになさい。」と言われ、スエード卿の願いは「任せるわ。」だった為に、あまり歓迎されていないのかと心配していたのだが、そうではなかった。
彼女もエミリアを子供だと、思っていたのだ。
「こんな小さな子に、言いに来させるなんて。」と少し怒っていたから、子供のフリをしておいた。
辺境伯領内では、この小柄な見た目は使えると理解した。同じ理由でニコルも彼女に目をかけられている、らしい。
その理屈ならルーナ嬢も多分、と思ったら案の定だった。
「夫人は、小さくて小回りの利く方を好まれます。」
ニコルに渡す手紙を引き取り、その場を離れると、ルーナ嬢から忠告めいた言葉を貰った。
「努努、油断なされませんよう。」
「それって、私じゃなくて、先輩に言ったらどうですか?」
ルーナが憎々しげに見ていたのは、男二人に絡まれていたアネットだ。あの騒ぎも、ニコルの仕込みだ。とはいえ、ああなることは容易に想像できたこと。
「彼の方なら、きっと承知されておりますわ。」
「私は違うと?」
「ええ、子供みたいな存在は、我々にとっては取るに足らないということです。」
エミリアは今自分が脅しを受けているのだと理解した。騎士団長と辺境伯令嬢の婚約は恋愛結婚、ではない。あれだけ仲が良くても、政略、と言う形を取る。その意味について、ちゃんと考えていなかった自分が悪い。
「この婚約に不満があると言うことですか。」ルーナは首を横に振った。
「それ以前の問題ですわ。よくお考えになって。」
エミリアは突然の問いかけに思考力が低下した。
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