25 / 44
エミリアの活躍
しおりを挟む
エミリアの関心は昔からずっと「いかに楽して生きるか」だった。
地方の男爵令嬢という、恵まれたとも言えない家に生まれて、このまま貴族で居続けるのは難しいことぐらいはわかっていた。
手に職をつけようとしても、女性の得意なものは、手先が特に器用でも、独創性もない自分には単なる二番煎じなものしか出来ず、また習いに行こうにも、女性同士の探り合うような会話が難しく早々に脱落した。
唯一楽しかったのは、剣術だ。いまや女性でも騎士になることは特別なことではない。学園では男性との力の差に悩んだ時もあったけれど、楽しいことをして生きていけるのはとても有り難いことだった。
学園に入ってからは剣術と勉強に忙しかったが、元々騎士科に女性が少なかったこともあり、やたらと男性にモテた。
あの時のエミリアは自分のことを無敵みたいに感じていた。女性から嫌われても、単なる僻みだと思っていたし、弱い女性からの攻撃も大したことのないものと蔑んでいた。
ただ、学園時代にはチヤホヤしていた男性達が、卒業してからは離れていったことは、わかっていたけれど寂しくもあった。学園時代のみの遊びとして、男爵令嬢のエミリアを選んだだけの男達は、卒業してからはきちんと貴族の義務を果たし、二度と会うことはなかった。
残ったのは騎士になると決めた仲間だけ。あまり話はしなかったけど、同じ女性同士エリーと、サリナは剣の扱いに優れていて、実は尊敬していたりした。
男性達は、学園時代にはエミリアを避けていたような奴等だったが、アネットとの諍いの際には、味方になってくれるぐらいには仲良くしていた。
エミリアは、アネットを始めとする先輩方の人の好さに付け込んで利用していたけれど、まさか彼処まで彼女達が我慢してくれるとは思わなかった。
特にアネットに関しては、まさか自分のことを気にしてくれるなんて思わなくて、驚いた。エミリアみたいな明らかな小物は、立派な女騎士の目には留まらないと思っていた。だけど、彼女はこんなに迷惑をかけている問題児を突き放すどころか、面倒を見てくれた。
そればかりか、エミリアの、自分でも気がつかなかった適性を、見つけてくれたのだった。
エミリアは騎士を辞めてからスエード卿に言われた通り、色々な茶会やら夜会に精力的に参加した。毎回騎士団の不満を少しずつ、ばら撒いていくと、絶対に向こうから近づいてくる。スエード卿の読み通り、そのご婦人は現れた。
婦人は騎士を侮っていたし、エミリアのことも若いだけのバカな女だと思っていたことは、確実だった。
悪事を働く人間は、自分の頭脳に自信があり、無意識に人を蔑んでいる。そして、上手くいけば上手くいくほど、自分達以外の人間も同じように考えたりしていることを忘れていく。
婦人はわかりやすく調子に乗っていた。若い女性を誑かし、有力者や、金持ちに売りつける。その手口は随分と、杜撰で悪質なものだった。
最初はエミリアを売ろうとしていた婦人に何とか対抗し、中に入り込むと、エミリアと同じような若い女性と話すことが出来た。彼女を逃したのは、ちょっとした抵抗だ。こんな危ない任務をエミリアにさせている上司に。そして、こんな些細なことしかできない自分に。
騎士の制服は、ここにいた誰かが着ていたものだ。助けたご令嬢は意識が朦朧とする薬を飲んでいた。調べたところ、彼女は遺体として国に帰るのだという。行ったことのない場所に、死んだ妻として入り込み、死んだ者として生きるのだと。
「何が妻よ。奴隷じゃない。」いや、奴隷より酷い。意識が朦朧としている彼女を馬に乗せたのは、それしか方法がなかったから。彼女を逃した後にエミリアを捕まえたのは婦人ではなく、婦人を監視していた騎士だった。
地方の男爵令嬢という、恵まれたとも言えない家に生まれて、このまま貴族で居続けるのは難しいことぐらいはわかっていた。
手に職をつけようとしても、女性の得意なものは、手先が特に器用でも、独創性もない自分には単なる二番煎じなものしか出来ず、また習いに行こうにも、女性同士の探り合うような会話が難しく早々に脱落した。
唯一楽しかったのは、剣術だ。いまや女性でも騎士になることは特別なことではない。学園では男性との力の差に悩んだ時もあったけれど、楽しいことをして生きていけるのはとても有り難いことだった。
学園に入ってからは剣術と勉強に忙しかったが、元々騎士科に女性が少なかったこともあり、やたらと男性にモテた。
あの時のエミリアは自分のことを無敵みたいに感じていた。女性から嫌われても、単なる僻みだと思っていたし、弱い女性からの攻撃も大したことのないものと蔑んでいた。
ただ、学園時代にはチヤホヤしていた男性達が、卒業してからは離れていったことは、わかっていたけれど寂しくもあった。学園時代のみの遊びとして、男爵令嬢のエミリアを選んだだけの男達は、卒業してからはきちんと貴族の義務を果たし、二度と会うことはなかった。
残ったのは騎士になると決めた仲間だけ。あまり話はしなかったけど、同じ女性同士エリーと、サリナは剣の扱いに優れていて、実は尊敬していたりした。
男性達は、学園時代にはエミリアを避けていたような奴等だったが、アネットとの諍いの際には、味方になってくれるぐらいには仲良くしていた。
エミリアは、アネットを始めとする先輩方の人の好さに付け込んで利用していたけれど、まさか彼処まで彼女達が我慢してくれるとは思わなかった。
特にアネットに関しては、まさか自分のことを気にしてくれるなんて思わなくて、驚いた。エミリアみたいな明らかな小物は、立派な女騎士の目には留まらないと思っていた。だけど、彼女はこんなに迷惑をかけている問題児を突き放すどころか、面倒を見てくれた。
そればかりか、エミリアの、自分でも気がつかなかった適性を、見つけてくれたのだった。
エミリアは騎士を辞めてからスエード卿に言われた通り、色々な茶会やら夜会に精力的に参加した。毎回騎士団の不満を少しずつ、ばら撒いていくと、絶対に向こうから近づいてくる。スエード卿の読み通り、そのご婦人は現れた。
婦人は騎士を侮っていたし、エミリアのことも若いだけのバカな女だと思っていたことは、確実だった。
悪事を働く人間は、自分の頭脳に自信があり、無意識に人を蔑んでいる。そして、上手くいけば上手くいくほど、自分達以外の人間も同じように考えたりしていることを忘れていく。
婦人はわかりやすく調子に乗っていた。若い女性を誑かし、有力者や、金持ちに売りつける。その手口は随分と、杜撰で悪質なものだった。
最初はエミリアを売ろうとしていた婦人に何とか対抗し、中に入り込むと、エミリアと同じような若い女性と話すことが出来た。彼女を逃したのは、ちょっとした抵抗だ。こんな危ない任務をエミリアにさせている上司に。そして、こんな些細なことしかできない自分に。
騎士の制服は、ここにいた誰かが着ていたものだ。助けたご令嬢は意識が朦朧とする薬を飲んでいた。調べたところ、彼女は遺体として国に帰るのだという。行ったことのない場所に、死んだ妻として入り込み、死んだ者として生きるのだと。
「何が妻よ。奴隷じゃない。」いや、奴隷より酷い。意識が朦朧としている彼女を馬に乗せたのは、それしか方法がなかったから。彼女を逃した後にエミリアを捕まえたのは婦人ではなく、婦人を監視していた騎士だった。
20
お気に入りに追加
1,563
あなたにおすすめの小説
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
【完結】真面目だけが取り柄の地味で従順な女はもうやめますね
祈璃
恋愛
「結婚相手としては、ああいうのがいいんだよ。真面目だけが取り柄の、地味で従順な女が」
婚約者のエイデンが自分の陰口を言っているのを偶然聞いてしまったサンドラ。
ショックを受けたサンドラが中庭で泣いていると、そこに公爵令嬢であるマチルダが偶然やってくる。
その後、マチルダの助けと従兄弟のユーリスの後押しを受けたサンドラは、新しい自分へと生まれ変わることを決意した。
「あなたの結婚相手に相応しくなくなってごめんなさいね。申し訳ないから、あなたの望み通り婚約は解消してあげるわ」
*****
全18話。
過剰なざまぁはありません。
形だけの妻ですので
hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。
相手は伯爵令嬢のアリアナ。
栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。
形だけの妻である私は黙認を強制されるが……
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
酷い扱いを受けていたと気付いたので黙って家を出たら、家族が大変なことになったみたいです
柚木ゆず
恋愛
――わたしは、家族に尽くすために生まれてきた存在――。
子爵家の次女ベネディクトは幼い頃から家族にそう思い込まされていて、父と母と姉の幸せのために身を削る日々を送っていました。
ですがひょんなことからベネディクトは『思い込まれている』と気付き、こんな場所に居てはいけないとコッソリお屋敷を去りました。
それによって、ベネディクトは幸せな人生を歩み始めることになり――反対に3人は、不幸に満ちた人生を歩み始めることとなるのでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる