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エミリアの活躍

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エミリアの関心は昔からずっと「いかに楽して生きるか」だった。

地方の男爵令嬢という、恵まれたとも言えない家に生まれて、このまま貴族で居続けるのは難しいことぐらいはわかっていた。

手に職をつけようとしても、女性の得意なものは、手先が特に器用でも、独創性もない自分には単なる二番煎じなものしか出来ず、また習いに行こうにも、女性同士の探り合うような会話が難しく早々に脱落した。

唯一楽しかったのは、剣術だ。いまや女性でも騎士になることは特別なことではない。学園では男性との力の差に悩んだ時もあったけれど、楽しいことをして生きていけるのはとても有り難いことだった。

学園に入ってからは剣術と勉強に忙しかったが、元々騎士科に女性が少なかったこともあり、やたらと男性にモテた。

あの時のエミリアは自分のことを無敵みたいに感じていた。女性から嫌われても、単なる僻みだと思っていたし、弱い女性からの攻撃も大したことのないものと蔑んでいた。

ただ、学園時代にはチヤホヤしていた男性達が、卒業してからは離れていったことは、わかっていたけれど寂しくもあった。学園時代のみの遊びとして、男爵令嬢のエミリアを選んだだけの男達は、卒業してからはきちんと貴族の義務を果たし、二度と会うことはなかった。

残ったのは騎士になると決めた仲間だけ。あまり話はしなかったけど、同じ女性同士エリーと、サリナは剣の扱いに優れていて、実は尊敬していたりした。

男性達は、学園時代にはエミリアを避けていたような奴等だったが、アネットとの諍いの際には、味方になってくれるぐらいには仲良くしていた。

エミリアは、アネットを始めとする先輩方の人の好さに付け込んで利用していたけれど、まさか彼処まで彼女達が我慢してくれるとは思わなかった。

特にアネットに関しては、まさか自分のことを気にしてくれるなんて思わなくて、驚いた。エミリアみたいな明らかな小物は、立派な女騎士の目には留まらないと思っていた。だけど、彼女はこんなに迷惑をかけている問題児を突き放すどころか、面倒を見てくれた。

そればかりか、エミリアの、自分でも気がつかなかった適性を、見つけてくれたのだった。




エミリアは騎士を辞めてからスエード卿に言われた通り、色々な茶会やら夜会に精力的に参加した。毎回騎士団の不満を少しずつ、ばら撒いていくと、絶対に向こうから近づいてくる。スエード卿の読み通り、そのご婦人は現れた。


婦人は騎士を侮っていたし、エミリアのことも若いだけのバカな女だと思っていたことは、確実だった。

悪事を働く人間は、自分の頭脳に自信があり、無意識に人を蔑んでいる。そして、上手くいけば上手くいくほど、自分達以外の人間も同じように考えたりしていることを忘れていく。

婦人はわかりやすく調子に乗っていた。若い女性を誑かし、有力者や、金持ちに売りつける。その手口は随分と、杜撰で悪質なものだった。

最初はエミリアを売ろうとしていた婦人に何とか対抗し、中に入り込むと、エミリアと同じような若い女性と話すことが出来た。彼女を逃したのは、ちょっとした抵抗だ。こんな危ない任務をエミリアにさせている上司に。そして、こんな些細なことしかできない自分に。

騎士の制服は、ここにいた誰かが着ていたものだ。助けたご令嬢は意識が朦朧とする薬を飲んでいた。調べたところ、彼女は遺体として国に帰るのだという。行ったことのない場所に、死んだ妻として入り込み、死んだ者として生きるのだと。

「何が妻よ。奴隷じゃない。」いや、奴隷より酷い。意識が朦朧としている彼女を馬に乗せたのは、それしか方法がなかったから。彼女を逃した後にエミリアを捕まえたのは婦人ではなく、婦人を監視していた騎士だった。
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