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敵か味方か

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「どう思います?」

雨に降られた所為で熱を出した男爵令嬢の意識は一度戻った後、一言二言呟いて、また彼女は寝込んでしまった。侍女はつきっきりで看病しているが、うわ言で何度も、助けてくれた誰かの安否を確認するような言葉を発しているという。

「彼女が連れて行かれた先に騎士がいたと言うことね。多分、その人物が騎士服を着せて彼女を逃したのだと思うけれど。それって、どういうこと?」

「どこの所属かはわからないけれど、騎士がいたということだと思います。それが彼方に協力している者か、此方の側かわかりませんが、助けてくれたなら、此方側だと思いたいところですね。」

「彼女が着せられた騎士服は、サイズは男性用っぽいですね。しかもアネットよりも背が高い女性騎士は中々いませんから、女性騎士のふりをしていた男性騎士がいた、という認識でいいんじゃないですか?」

「それってつまり潜入捜査をしている騎士がいたってことでいいのかしら。」

騎士が内偵を行っているところには、軽々しく踏み入ってはいけないという暗黙の了解がある。

騎士同士は互いに認識がなくとも、仕草や行動から相手が騎士であると確実に理解するし、彼らと話をしようにも、その行動が、彼方側の邪魔になる未来しか見えないからだ。


「エミリアがこんな時、騎士のままだったら、彼女ほどうってつけの人材はいないのだけど。」

マリアが呟いたように、アネットも同じことを考えていたが、それはそれ。きっとエミリアに頼んだところで彼女が此方の希望通りに動いてくれる保証もない。

「いえ、あのエミリアですよ?彼女は何も知らないままでいて貰う方が良いと思います。下手に教えて暴れられたら、折角のチャンスをフイにしてしまうと思うんです。」

「確かに、それはそうね。とりあえずその騎士服の持ち主を調べられる?騎士の制服に詳しい人……団長、わかる?」

「……多分、これ、南の辺境伯領の、どっかの騎士服だと思う。ここの紋章に見覚えがあるんだ。この花が多分百合か何か何だが、その地方にしか咲かない種類の花だったような、そんな話を聞いた気がするんだ。」

団長であるロクセル侯爵家の三男坊マイクは、幼い頃、騎士服マニアと呼ばれていた知識を惜しげもなく晒した。昔の記憶すぎて、詳細は忘れてしまっていたが。

「南の辺境伯領内で、この百合が咲いている地方は、多分、ここね。この辺りにいる騎士団は、二つ。ルートス伯爵家が管理する騎士団と、サバン侯爵家が有する騎士団。どちらかの騎士があの場にいたということで話を進めましょう。」

「いや、多分サバン侯爵家だ。」

さっきは口を濁した団長が、やけにはっきりと口にした名前は、アネットにも覚えがある。

「あの、新しい婦人、居たじゃないですか。あのエミリアとのお見合いの話を持ってきたご婦人。あのご婦人を調べたところサバン侯爵家のご出身でした。辺境騎士とは再婚です。結婚してからずっと王都に住んでいますが、最近生家のサバン侯爵家とよく連絡をとっているようです。」

「ならば騎士は、彼女の護衛か監視か。此方はエミリアに監視をする方向で、行きましょうか。それなら彼方からの追及もうまく躱せると思うんですがどうですか、団長。」

ニコルは副団長に任命される前から、さっさと重大なことを決めてしまうことが多かった。じっくり考える団長とは少し足並みが揃わない気もしたが、案外うまくいっているようで安堵した。

「それでいい。」
あくまでも私達の狙いはエミリアで。だから内偵の邪魔はしてません、と言い張るつもりらしい。

潜入は案の定、新人騎士が行くことになった。彼女達以外は皆育ちすぎていて、女性のフリができなかったのだ。アネットは顔がバレているから駄目で蚊帳の外からサポートすることになった。
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