それは私の仕事ではありません

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貴族の娘

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馬に放り出され、倒れていた女性は、ある男爵家のご令嬢だとわかった。本人の意識が戻った訳ではなく、彼女を追って来た彼女の侍女だと名乗る女がそう言ったのである。

その侍女は、彼女を探していたというが、彼女が自分のものではない騎士服を着ていた理由も、馬に乗っていた理由も知らなかった。

「本日は、灯祭りの為に、遠出をしまして。会場に着いてしばらくすると、逸れてしまったのです。人混みを掻き分けて、お嬢様のご友人である方にお会いしまして、合流できたと聞いたので安心しておりましたが。暫くしてからどうやらトラブルがあって、お嬢様を乗せた馬が暴走したと聞き、馳せ参じた次第です。

お嬢様は幼い頃から馬がお好きで、よく乗られていました。ですから馬に乗られていたことは何ら不思議ではないのですが。」

「サイズの合わない騎士服は、説明がつかない。……本人が目覚めるのを待つべきなのだけれど。」

ニコルが黙り込んでしまい、沈黙が訪れる。少し重い空気の中、話を変えようと、アネットは切り出した。

「さっきの灯祭りと言うのはこの辺りでは有名なんですか?」

「いえ、私も、お嬢様も今回初めて聞いた、元々は極一部の集落しかしていなかった祭りだったようです。お嬢様がつい先日行った夜会で知り合ったご婦人に教えてもらったと言う話で、来ることになりました。」
「夜会で出会ったご婦人が、そのご友人?」
「ええ、まあ。」
「その方とは夜会の前からご友人でしたの?」
いつのまにか話に加わったニコルの話し方が、変化する。

これは彼女がよく使う、貴族令嬢ならではの誘導尋問の方法である。慣れ親しんだ話し方の方が楽なのかと言うとそうではない。この話し方をすると、思考が一段階切り替わると言う。いつものニコルが普通だから気がつかないが、彼女はあれでも公爵令嬢なのだった。

「いえ、その、お嬢様はあまり夜会には普段は参加しないのですが、あの……男爵家の財政状況が最近良くなくて、資金集めに奔走しておりまして……」

「ああ、もしかしてその夜会の目的は、お見合い?」

「貧乏な男爵家に目をつけるのは、お金は持っているが、爵位はない平民だけです。貴族同士の婚姻はしがらみがたくさんありますが、裕福な平民との見合いなら、と。

ただ、夜会ではあまり声をかけられず、あるご婦人が力になってくださると名乗りでて下さって。」

「夜会ではどれだけの人がいたの?」
「お嬢様のお話では、お嬢様とあまり歳の変わらないくらいの方から、父ぐらいの年齢の方まで幅広くいらっしゃったようです。あまり夜会にはでられないお嬢様なので、規模などはわからなかったそうですが、引っ込み思案のお嬢様でも、歩いていると人にぶつかるぐらいには人がいたようです。」

「そのご婦人とはどのように出会ったの?」

「人が多い為に一人になれる場所を探していたところ、酔っ払いに絡まれたそうです。それを助けていただいた、と。それで、話をして、」

「友人になった、と。」

「はい。」

またもや、ニコルは黙って、沈黙が訪れたが、彼女の目は雄弁にアネットに話しかけていた。アネットも、多分同じことを考えている。

「そのご婦人は、お嬢様に何と名乗ったの?」
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