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騎士団長の婚約者
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「あの、騎士団長の婚約者の方って、あのヒルム辺境伯のご令嬢ですか?」
「あ、知ってる?やっぱり有名な話だよねぇ。」
新人の女の子が二人顔を見合わせながら話す。
「私達は、あの……学園で。初の女騎士の歴史を調べていて、辺境伯のお話とか好きなんです。実際、研修で北の辺境伯領を訪れた時に、騎士団長の話を聞いて。まだ騎士として駆け出しぐらいの頃に、お孫さんにプロポーズするなら騎士団長ぐらいにならないと、認めないと言われたとか。」
「ああ、今は騎士科の研修でいくのね。あんな大変なところに。」
北の辺境伯領は毎年寒さが厳しくて、雪で覆われる。通常滅多に雪など降らない王都の騎士は、ただそれだけで過酷な状況になるのだから、学園では利用しない手はないと、アネットが学生の頃から頻繁に、研修で訪れていた。
アネットは騎士団長の婚約者のご令嬢とは面識があるものの、実力は彼女の足元にも及ばない。アネットが王子ならあちらは将軍。もうスケールが全く違う。ヒルム辺境伯では、女性の方がよく生まれる。その為、家を継ぐのも娘で、より強い男性を婿に選ぶ。
彼女の祖母は我が国で初の女騎士となった方で、その血を濃く継いでいる。
「学園で行ったのなら、なぜエミリアは知らないの?」
「あ、選択だったんです。北と南で。腕に自信のある者や、有名な辺境伯に会いに行きたい人達は北へ。エミリアさんやその他あまりやる気のない人、弱っちい人達は南へ、と綺麗に別れました。」
「……弱っちい……ふふ。」
ニコルが独自のツボにハマって笑っている。
「北の辺境伯領では皆自分のことは自分でやって、自分の命は自分で守らなければいけない、と言われました。他人を気にかける余裕は今はなくていいと。半人前が気にかけたところで共倒れするのがオチだと。」
アネットはふと思いついてしまった。
「ねえ。もし新人騎士を連れて北の辺境伯領に研修に行くって言ったら、行かせてくれると思う?あの生意気な小僧どもを何とか鍛え直したいんだよね。」
「本音は?」
「ジョセフとナナに会いたい!」
「今は雪がまだないから、過酷になり過ぎず丁度良いかもしれないわね。申請しておくわ。」
ニコルの言葉に新人達も喜んでいる。本当にエミリア以外の女性は中々しっかりやっている。
「何ならエミリアを辺境伯領に呼べば良いんじゃない?」
「来るかしら?」
「来させるのよ。お見合いの日時と場所を指定すればノコノコ現れるでしょ。それにまだ騎士になりたいと思っているのなら、辺境伯領をお勧めすれば良いのよ。それに、現実を見せてあげればすぐに目が覚めるでしょう。」
ニコルが言うように、実際荒療治ではあるが、夢を見ているエミリアのような中途半端な考えの子は怪我をしたり、取り返しのつかなくなる前に、自分の実力を思い知らなければいけない。夢を見ても実力が伴わなければ、生きることすら難しい世界もある。
「あの子にとっては余計なお世話かもしれないけれど、餞別よ。」
「あ、知ってる?やっぱり有名な話だよねぇ。」
新人の女の子が二人顔を見合わせながら話す。
「私達は、あの……学園で。初の女騎士の歴史を調べていて、辺境伯のお話とか好きなんです。実際、研修で北の辺境伯領を訪れた時に、騎士団長の話を聞いて。まだ騎士として駆け出しぐらいの頃に、お孫さんにプロポーズするなら騎士団長ぐらいにならないと、認めないと言われたとか。」
「ああ、今は騎士科の研修でいくのね。あんな大変なところに。」
北の辺境伯領は毎年寒さが厳しくて、雪で覆われる。通常滅多に雪など降らない王都の騎士は、ただそれだけで過酷な状況になるのだから、学園では利用しない手はないと、アネットが学生の頃から頻繁に、研修で訪れていた。
アネットは騎士団長の婚約者のご令嬢とは面識があるものの、実力は彼女の足元にも及ばない。アネットが王子ならあちらは将軍。もうスケールが全く違う。ヒルム辺境伯では、女性の方がよく生まれる。その為、家を継ぐのも娘で、より強い男性を婿に選ぶ。
彼女の祖母は我が国で初の女騎士となった方で、その血を濃く継いでいる。
「学園で行ったのなら、なぜエミリアは知らないの?」
「あ、選択だったんです。北と南で。腕に自信のある者や、有名な辺境伯に会いに行きたい人達は北へ。エミリアさんやその他あまりやる気のない人、弱っちい人達は南へ、と綺麗に別れました。」
「……弱っちい……ふふ。」
ニコルが独自のツボにハマって笑っている。
「北の辺境伯領では皆自分のことは自分でやって、自分の命は自分で守らなければいけない、と言われました。他人を気にかける余裕は今はなくていいと。半人前が気にかけたところで共倒れするのがオチだと。」
アネットはふと思いついてしまった。
「ねえ。もし新人騎士を連れて北の辺境伯領に研修に行くって言ったら、行かせてくれると思う?あの生意気な小僧どもを何とか鍛え直したいんだよね。」
「本音は?」
「ジョセフとナナに会いたい!」
「今は雪がまだないから、過酷になり過ぎず丁度良いかもしれないわね。申請しておくわ。」
ニコルの言葉に新人達も喜んでいる。本当にエミリア以外の女性は中々しっかりやっている。
「何ならエミリアを辺境伯領に呼べば良いんじゃない?」
「来るかしら?」
「来させるのよ。お見合いの日時と場所を指定すればノコノコ現れるでしょ。それにまだ騎士になりたいと思っているのなら、辺境伯領をお勧めすれば良いのよ。それに、現実を見せてあげればすぐに目が覚めるでしょう。」
ニコルが言うように、実際荒療治ではあるが、夢を見ているエミリアのような中途半端な考えの子は怪我をしたり、取り返しのつかなくなる前に、自分の実力を思い知らなければいけない。夢を見ても実力が伴わなければ、生きることすら難しい世界もある。
「あの子にとっては余計なお世話かもしれないけれど、餞別よ。」
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