4 / 44
か弱いって騎士なのに?
しおりを挟む
さて、お察しの通り、書類仕事ができない彼らが騎士としてどうなのか、というのは想像に難くない。規律を守れない、指示系統を無視する、プライドだけは山のように高い、副団長や先輩を舐めてる、となれば、彼らが強い訳もなく。
「新人が一番遅く来るとは何事だ!」と朝から叱られている。
まあ、あれは仕方ない。直属の上司より遅く来れば、怒鳴られるに決まっている。
「あんた達が教えてくれたら。」と、来るなり勝手なことまで言うので、「私達は貴方のママじゃないんだけど。」と言うと、騎士達が笑った。
「一人で起きられないなら、ドラでも叩いて起こしてやるか?」
「いや、水をぶっかけてやれば良い。ベッドがぐしょぐしょになるけどな。」
アネットは書類仕事だけでなく、訓練でも騎士団長の補佐を任されている。勿論、それは実力があるから、なのだが、新人達はそれを知らない。
特にエミリアは、何か勘違いをしている。しきりに私もか弱いのだから、団長の側にいるべきだと主張する。
「騎士団に入っておきながらか弱さを武器にするなんてすごいわね。」
「なら、辞めれば良いのに。」
「あの、私も団長に訓練してもらいたいです!」
女騎士三人が団長の下にいるから、自分も、と言うエミリア。アネットらの実力を知っているおじさん達は、慌てて止めようとするが、人の話を聞かない彼女は、アネットの前まで来て、直談判した。
「いいわ。私が貴女に稽古をつけてあげる。それが終わったら、団長に臨みなさい。でも、私相手に苦戦しているようじゃ、団長なんてまず無理よ?」
「え?ずるい。アネット、今日は俺の訓練に付き合ってくれる約束だろう?」
同じく同僚の騎士が割り込むが、「大丈夫。すぐ終わるわ。」というと、何とか納得してくれた。
エミリアはアネットにコテンパンにやられて、団長に泣きつく算段だった。でも、さっきアネットに声をかけてきた男もイケメンで、アネットに対し、嫌な気持ちになった。
エミリアが騎士科に進んだ頃、女騎士を志す多くの目標がアネット・ブラウザー伯爵令嬢だった。
彼女の代には、王女様が在籍されていて、その護衛をアネットがしていたからである。アネットは騎士ではあるが、しなやかな筋肉と、クールな態度と確かな実力で若い女性の王子様的存在だった。王子なら女性ばかり虜にしていれば良いのに、エミリアの本命だった男も、アネットに夢中だったのだ。
その男は、今どうしているかは知らない。卒業してからは、全く会うこともなくなった。だが、アネットには色々思うことがあって、些細な嫌がらせを仕掛けていたのだった。
対峙してわかったことは、アネットには歯が立たないということ。木刀の一振りだけで、実力はわかった。指先はジンジンするし、何せ周りを見る余裕がない。殺される、危機を感じ、座り込んでしまう。
「助けて!殺さないで!謝るから!」
恥を忍んで懇願したのに、周りからは呆れた視線が飛んできた。さっき怒鳴られた上司はいつもなら可愛がってくれるのに酷く困惑した顔をして、此方を睨みつけてくる。
周りは皆わかっていた。アネットが随分と手加減して相手をしていたことに。
「スエード卿、彼女の担当は貴方だったわね。この程度で騎士になるなんて無謀じゃない?貴方、死にたいの?それとも仲間を殺したいの?どっち?」
アネットはまるでスエード卿より自分が偉いかのように振舞っている。伯爵位のスエード卿の方が、ただの令嬢のアネットよりも上の筈。
でも流石にこの状況で黙っている方がいいと判断したエミリアは大人しくしていた。
「……勧告いたします。」
「任せるわ。」
座り込んでいたエミリアは乱暴に立たされると、宿舎まで帰らされた。
今までエミリアをチヤホヤしていた男性達も、今はアネットしか見ていない。
何なのよ、腹が立つ。
おじさんに文句を言ってやろうと、エミリアは思っていたが、スエード卿と、副団長の怖い顔に俯くしかなかった。
「せっかくの女騎士だったが、君に騎士は難しかったようだ。書類仕事ができるならまだしも、それも苦手なようだから、どうするか。学園を卒業したばかりで若いから再出発も難しくはないだろう。今度は騎士以外の職業をお薦めするよ。」
エミリアに渡されたのは、再就職のしおり、という冊子だった。
「君、騎士向いてないよ。試用期間はひとまず今日で終わり。君は不合格だ。忘れ物のないように。宿舎は今月末までは使えるから。頑張って次を探しなさい。」
「新人が一番遅く来るとは何事だ!」と朝から叱られている。
まあ、あれは仕方ない。直属の上司より遅く来れば、怒鳴られるに決まっている。
「あんた達が教えてくれたら。」と、来るなり勝手なことまで言うので、「私達は貴方のママじゃないんだけど。」と言うと、騎士達が笑った。
「一人で起きられないなら、ドラでも叩いて起こしてやるか?」
「いや、水をぶっかけてやれば良い。ベッドがぐしょぐしょになるけどな。」
アネットは書類仕事だけでなく、訓練でも騎士団長の補佐を任されている。勿論、それは実力があるから、なのだが、新人達はそれを知らない。
特にエミリアは、何か勘違いをしている。しきりに私もか弱いのだから、団長の側にいるべきだと主張する。
「騎士団に入っておきながらか弱さを武器にするなんてすごいわね。」
「なら、辞めれば良いのに。」
「あの、私も団長に訓練してもらいたいです!」
女騎士三人が団長の下にいるから、自分も、と言うエミリア。アネットらの実力を知っているおじさん達は、慌てて止めようとするが、人の話を聞かない彼女は、アネットの前まで来て、直談判した。
「いいわ。私が貴女に稽古をつけてあげる。それが終わったら、団長に臨みなさい。でも、私相手に苦戦しているようじゃ、団長なんてまず無理よ?」
「え?ずるい。アネット、今日は俺の訓練に付き合ってくれる約束だろう?」
同じく同僚の騎士が割り込むが、「大丈夫。すぐ終わるわ。」というと、何とか納得してくれた。
エミリアはアネットにコテンパンにやられて、団長に泣きつく算段だった。でも、さっきアネットに声をかけてきた男もイケメンで、アネットに対し、嫌な気持ちになった。
エミリアが騎士科に進んだ頃、女騎士を志す多くの目標がアネット・ブラウザー伯爵令嬢だった。
彼女の代には、王女様が在籍されていて、その護衛をアネットがしていたからである。アネットは騎士ではあるが、しなやかな筋肉と、クールな態度と確かな実力で若い女性の王子様的存在だった。王子なら女性ばかり虜にしていれば良いのに、エミリアの本命だった男も、アネットに夢中だったのだ。
その男は、今どうしているかは知らない。卒業してからは、全く会うこともなくなった。だが、アネットには色々思うことがあって、些細な嫌がらせを仕掛けていたのだった。
対峙してわかったことは、アネットには歯が立たないということ。木刀の一振りだけで、実力はわかった。指先はジンジンするし、何せ周りを見る余裕がない。殺される、危機を感じ、座り込んでしまう。
「助けて!殺さないで!謝るから!」
恥を忍んで懇願したのに、周りからは呆れた視線が飛んできた。さっき怒鳴られた上司はいつもなら可愛がってくれるのに酷く困惑した顔をして、此方を睨みつけてくる。
周りは皆わかっていた。アネットが随分と手加減して相手をしていたことに。
「スエード卿、彼女の担当は貴方だったわね。この程度で騎士になるなんて無謀じゃない?貴方、死にたいの?それとも仲間を殺したいの?どっち?」
アネットはまるでスエード卿より自分が偉いかのように振舞っている。伯爵位のスエード卿の方が、ただの令嬢のアネットよりも上の筈。
でも流石にこの状況で黙っている方がいいと判断したエミリアは大人しくしていた。
「……勧告いたします。」
「任せるわ。」
座り込んでいたエミリアは乱暴に立たされると、宿舎まで帰らされた。
今までエミリアをチヤホヤしていた男性達も、今はアネットしか見ていない。
何なのよ、腹が立つ。
おじさんに文句を言ってやろうと、エミリアは思っていたが、スエード卿と、副団長の怖い顔に俯くしかなかった。
「せっかくの女騎士だったが、君に騎士は難しかったようだ。書類仕事ができるならまだしも、それも苦手なようだから、どうするか。学園を卒業したばかりで若いから再出発も難しくはないだろう。今度は騎士以外の職業をお薦めするよ。」
エミリアに渡されたのは、再就職のしおり、という冊子だった。
「君、騎士向いてないよ。試用期間はひとまず今日で終わり。君は不合格だ。忘れ物のないように。宿舎は今月末までは使えるから。頑張って次を探しなさい。」
45
お気に入りに追加
1,563
あなたにおすすめの小説
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
【完結】真面目だけが取り柄の地味で従順な女はもうやめますね
祈璃
恋愛
「結婚相手としては、ああいうのがいいんだよ。真面目だけが取り柄の、地味で従順な女が」
婚約者のエイデンが自分の陰口を言っているのを偶然聞いてしまったサンドラ。
ショックを受けたサンドラが中庭で泣いていると、そこに公爵令嬢であるマチルダが偶然やってくる。
その後、マチルダの助けと従兄弟のユーリスの後押しを受けたサンドラは、新しい自分へと生まれ変わることを決意した。
「あなたの結婚相手に相応しくなくなってごめんなさいね。申し訳ないから、あなたの望み通り婚約は解消してあげるわ」
*****
全18話。
過剰なざまぁはありません。
形だけの妻ですので
hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。
相手は伯爵令嬢のアリアナ。
栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。
形だけの妻である私は黙認を強制されるが……
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
お久しぶりですね、元婚約者様。わたしを捨てて幸せになれましたか?
柚木ゆず
恋愛
こんなことがあるなんて、予想外でした。
わたしが伯爵令嬢ミント・ロヴィックという名前と立場を失う原因となった、8年前の婚約破棄。当時わたしを裏切った人と、偶然出会いました。
元婚約者のレオナルド様。貴方様は『お前がいると不幸になる』と言い出し、理不尽な形でわたしとの関係を絶ちましたよね?
あのあと。貴方様はわたしを捨てて、幸せになれましたか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる