それは私の仕事ではありません

mios

文字の大きさ
上 下
3 / 44

言い掛かり

しおりを挟む
副団長の仕事が回ってこなくなって、快適な毎日となった。副団長の仕事が終わらないから、彼方は残業ばかり。アネット達が帰る頃には、副団長の補佐官達からの恨みがましい視線が飛んでくることはあるけれど、副団長に挨拶だけしてさっさと帰るようにしている。

要はエミリアを含め、甘えてきた奴らばかりなのだ。自分はできない、助けて、と人を頼っては、甘えて、好意を踏み躙って来た奴らばかり。そんな奴らに気を遣って何になる?

アネット達が、早く上がって食事に行こうと話していると、後ろから声をかけられた。

「あんた達、弱い者いじめして、恥ずかしくないのか。」

振り向けばさっきまで、書類と睨めっこしていた副団長の補佐官の一人がそこにいた。

「誰?」
咄嗟に名前が出てこない。

「ビール、じゃない。ビースよ。子爵家の四男だったかな。」

「何を言っているかわからないけれど、目上の者には敬語で話しなさい、って習わなかった?」

「失礼なやつにはあんたで十分だろ。」

「はあ。貴方も、まだ学生気分が抜けてないようね。学生の頃はね、許されたことも社会に出たらそうはいかないの。たかが子爵家の嫡男でもない者が、そんな態度でそちらこそ許されると?」

マリアの背後から覇気が放たれる。アネットもニコルも只ならぬ雰囲気に圧倒されているのに、彼方は気がついてさえもいない。

「あんたらさぁ、同じ補佐官なら助け合うのが普通だろ。良心が痛まないのかよ。」

「全然。」
「だって、私達の仕事じゃないから。」

「全く話にならないわね。貴方こそここでこうして話している間に出来ることはあるでしょう?それか貴方以外はもう帰っているかもしれないわよ?大丈夫?」

あ、確かに。言われてみれば、そういう奴らは多そう。

「副団長は流石に残っているでしょうけど。他の奴らは貴方と同類だから、貴方が私達を口実にこうしてサボっているように、彼らも貴方を口実に押し付けて帰るんじゃない?」

そういうと、不安だったのか彼の顔色は悪くなる。

「話なら今度聞いてあげるから早く戻りなさいな。今からなら間に合うかもしれないわよ。」

ニコルがそう告げると、一目散に走っていく。礼儀も何もあったもんじゃない。

「何あれ。」
「さぁ?」

アネットもニコルもマリアも、皆まだ独身だからか、家から出ても、実家に籍は残っている。「たかが子爵家」と言ったのは訳があって、アネットは伯爵家、マリアは侯爵家、ニコルに至っては、公爵家のこれでも令嬢なのだった。

だから、身分的に、騎士団では浮く為に騎士団長の補佐官として置かれたのである。身分だけで見ると、副団長より遥かに上なので、ある意味厄介者とされている私達。そんな私達に迷惑をかけるなんて、副団長の補佐官達は大物揃いである。

「あまり実家には頼りたくないんだけど、流石に、よね?」

ニコルは笑う。笑顔が眩しいぐらい。

「任せるわ。」アネットはそう伝えるしかできない。アネットもたかが伯爵令嬢。長いものには巻かれるスタイルだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら

赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。 問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。 もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?

お姉様、わたくしの代わりに謝っておいて下さる?と言われました

来住野つかさ
恋愛
「お姉様、悪いのだけど次の夜会でちょっと皆様に謝って下さる?」 突然妹のマリオンがおかしなことを言ってきました。わたくしはマーゴット・アドラム。男爵家の長女です。先日妹がわたくしの婚約者であったチャールズ・ サックウィル子爵令息と恋に落ちたために、婚約者の変更をしたばかり。それで社交界に悪い噂が流れているので代わりに謝ってきて欲しいというのです。意味が分かりませんが、マリオンに押し切られて参加させられた夜会で出会ったジェレミー・オルグレン伯爵令息に、「僕にも謝って欲しい」と言われました。――わたくし、皆様にそんなに悪い事しましたか? 謝るにしても理由を教えて下さいませ!

【完結】『お姉様に似合うから譲るわ。』そう言う妹は、私に婚約者まで譲ってくれました。

まりぃべる
恋愛
妹は、私にいつもいろいろな物を譲ってくれる。 私に絶対似合うから、と言って。 …て、え?婚約者まで!? いいのかしら。このままいくと私があの美丈夫と言われている方と結婚となってしまいますよ。 私がその方と結婚するとしたら、妹は無事に誰かと結婚出来るのかしら? ☆★ ごくごく普通の、お話です☆ まりぃべるの世界観ですので、理解して読んで頂けると幸いです。 ☆★☆★ 全21話です。 出来上がっておりますので、随時更新していきます。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

あなたが見放されたのは私のせいではありませんよ?

しゃーりん
恋愛
アヴリルは2年前、王太子殿下から婚約破棄を命じられた。 そして今日、第一王子殿下から離婚を命じられた。 第一王子殿下は、2年前に婚約破棄を命じた男でもある。そしてアヴリルの夫ではない。 周りは呆れて失笑。理由を聞いて爆笑。巻き込まれたアヴリルはため息といったお話です。

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません

天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。 ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。 屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。 家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。

捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?

ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」 ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。 それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。 傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……

【完結】真面目だけが取り柄の地味で従順な女はもうやめますね

祈璃
恋愛
「結婚相手としては、ああいうのがいいんだよ。真面目だけが取り柄の、地味で従順な女が」 婚約者のエイデンが自分の陰口を言っているのを偶然聞いてしまったサンドラ。 ショックを受けたサンドラが中庭で泣いていると、そこに公爵令嬢であるマチルダが偶然やってくる。 その後、マチルダの助けと従兄弟のユーリスの後押しを受けたサンドラは、新しい自分へと生まれ変わることを決意した。 「あなたの結婚相手に相応しくなくなってごめんなさいね。申し訳ないから、あなたの望み通り婚約は解消してあげるわ」  ***** 全18話。 過剰なざまぁはありません。

処理中です...