大恋愛の後始末

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経験の差

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「どうして毎回顔が赤くなってしまうの。」

独り言として、呟いた筈、なのに何処からともなく、プッと誰かが吹き出す声が聞こえる。

伯爵家に帰って今日の疲れを取る為に、はしたなくもベッドにダイブするも、夜会でのライアンを思い出し、手玉に取られ続けている自分に悔しくなる。

悔し紛れに、枕をボスボス叩いても、自分の失態を思い出しては情けなさまで感じて、泣きそうになる。

「経験の差」なのだろう。ジュリエットはともかく、最初の婚約者には優しかったのだろうし。

対してこちらはまだ婚約中に、愛人まで連れてこられ、白い結婚を提唱された女。

あのまま結婚していたとして、マートンに恥ずかしがる日なんて、来ないだろうから同系列に扱うのもおかしいのだけれど。

恋愛スキルが皆無で、寧ろ無くても全く困らないと思っていたシェイラ。ライアンは演技力を養えと最初は手加減してくれたが、最近ではMAXフルパワーでシェイラで遊んでいるような気がする。

あれはあくまで演技なのだから、割り切っていこうと思うのだが、そこまで割り切れないのは、ライアンが役者並みの演技を披露してくるから。

才能はあるところに集まる。ライアンは何でも持っている。シェイラに対する優しさだけ、少し足りない気もするけれど。

だから、彼に惹かれる人はたくさんいて、その彼に愛されるのは、まだ彼が会っていないただ一人。その一人を見つけるまでの間の繋ぎであることは忘れてはいけない。

忘れなければ、元侯爵家のように、身包み剥がされることはない。

ライアンのアレは、シェイラが不意打ちに弱いことを教えてくれた。あと、ライアンの顔が、思ったより好きだと言うことも。

考えてみても、今までどんな綺麗な人でもあまりにずいっと近づいてくる人は苦手で、何が目的か判断に困る為、睨みつけるまでは行かなくとも警戒するのが常だった。

だけど、ライアンはさすがと言うべきか、するっと懐に勝手に入ってきて、警戒心を持つ前に、絡め取られるような感覚になっている。

勉強ばかりしていたシェイラにはないスキル。

「彼から学ぶつもりで、いけば、赤くなっても、意識までは手放さずにいられるんじゃないかしら。」

経験は積んでいかない限り、どうしようもないものだ。机上の空論では対応しきれない。

せめて、彼が大切なただ一人に出会うその時に足を引っ張ることがないように。

シェイラは少しだけ胸の内側が痛くなったが、気のせいだと、片付けた。

余計なことを考えて、動けなくなることだけは避けたい。ライアンにとって重荷になることは本意ではないから。
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