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拘った末の
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ジュリエットが見つかったのはそれから少し経ったある日。彼女が保護された貴族家に侵入した賊が、ジュリエットを刺したことによって明るみになった。
諸事情で屋敷を留守にしていた家人が帰ったところ、老婆のような女にめった刺しにされている変わり果てた姿のジュリエットがいたという。
「捕まった老婆は、元侯爵夫人を名乗ってね。こいつのせいで、何もかも失ったのに、こいつだけ幸せになるなんて、許さない、と喚いたそうだ。
折角大恋愛の末に略奪した愛も、爵位と共に跡形もなくなったらしいね。」
グレイズ家の末路について、シェイラは何も知らない。思い出したくもないほどに、彼らを好きになれなかったからだ。
貴族から平民へ、それだけで壮絶な余生を感じさせる。そうか、大恋愛は爵位に勝てなかったか。
以前の侯爵夫妻を思い出し、あれだけ愛は偉大だ、と嘯いていたくせに、と溜息が出る。
夫人が元侯爵代理を略奪したのは、その身分があったから。お金があったから。でも、その身分やらお金やらは、あまり大っぴらに言えない。だから、「大恋愛」を隠れ蓑にしただけだ。
老婆となった元侯爵夫人は、煌びやかな屋敷で囲われていた娘を未だに貴族として暮らしていると誤解していたようだ。
それなのに、娘は家族を助けるどころか毎日毎日男を連れ込み、好き放題している。屋敷にうまく入り込み、娘に話しかける機会を伺っていた元夫人には、その姿が過去の自分と被って見えた。
不特定多数の男性達に、チヤホヤされていた自分自身に。
あの男達の中で一番の身分の侯爵に、狙いを定めたのは間違いだったのだろうか。ジュリエットの性根は確実にあいつの血のせいだ。既婚者なのに、自分に簡単に靡いた男なんかにまともな神経が備わっているはずがない。
身分なんかで決めないで、ちゃんと自分だけを愛してくれる人にすれば良かった。今頃後悔しても遅いのはわかっている。お金がなくなって、美貌で稼ごうにも二人の子を産んだ後の身体では、まともな客はいなかった。
元夫は、良くも悪くもずっと貴族だった男で、生活力というものは持っていなかった。あるのは、誰かに寄生して生きていく力。
だから、自分の負担になる前に、姿を消してくれたことには感謝しなければならない。
元夫人が、稼いだ金を奪われることはなかったから。
だけど夫人が稼いだ金は全て大公家に吸い取られてしまった。
ジュリエットの行方がわかったのは、そんな時。元夫人は、生まれて初めて神に感謝した。
娘に対する愛情は最早跡形もない。元夫人は門番すらいない子爵家にまんまと入り込み、偶々落ちていたナイフを手に、彼女を刺した。
嘗て愛しかった我が子は、最後まで実母に気づかずに罵詈雑言を口から吐いて、息絶えた。
それから少しして、子爵家に人が溢れると、元夫人の目の前は真っ白になった。
諸事情で屋敷を留守にしていた家人が帰ったところ、老婆のような女にめった刺しにされている変わり果てた姿のジュリエットがいたという。
「捕まった老婆は、元侯爵夫人を名乗ってね。こいつのせいで、何もかも失ったのに、こいつだけ幸せになるなんて、許さない、と喚いたそうだ。
折角大恋愛の末に略奪した愛も、爵位と共に跡形もなくなったらしいね。」
グレイズ家の末路について、シェイラは何も知らない。思い出したくもないほどに、彼らを好きになれなかったからだ。
貴族から平民へ、それだけで壮絶な余生を感じさせる。そうか、大恋愛は爵位に勝てなかったか。
以前の侯爵夫妻を思い出し、あれだけ愛は偉大だ、と嘯いていたくせに、と溜息が出る。
夫人が元侯爵代理を略奪したのは、その身分があったから。お金があったから。でも、その身分やらお金やらは、あまり大っぴらに言えない。だから、「大恋愛」を隠れ蓑にしただけだ。
老婆となった元侯爵夫人は、煌びやかな屋敷で囲われていた娘を未だに貴族として暮らしていると誤解していたようだ。
それなのに、娘は家族を助けるどころか毎日毎日男を連れ込み、好き放題している。屋敷にうまく入り込み、娘に話しかける機会を伺っていた元夫人には、その姿が過去の自分と被って見えた。
不特定多数の男性達に、チヤホヤされていた自分自身に。
あの男達の中で一番の身分の侯爵に、狙いを定めたのは間違いだったのだろうか。ジュリエットの性根は確実にあいつの血のせいだ。既婚者なのに、自分に簡単に靡いた男なんかにまともな神経が備わっているはずがない。
身分なんかで決めないで、ちゃんと自分だけを愛してくれる人にすれば良かった。今頃後悔しても遅いのはわかっている。お金がなくなって、美貌で稼ごうにも二人の子を産んだ後の身体では、まともな客はいなかった。
元夫は、良くも悪くもずっと貴族だった男で、生活力というものは持っていなかった。あるのは、誰かに寄生して生きていく力。
だから、自分の負担になる前に、姿を消してくれたことには感謝しなければならない。
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だけど夫人が稼いだ金は全て大公家に吸い取られてしまった。
ジュリエットの行方がわかったのは、そんな時。元夫人は、生まれて初めて神に感謝した。
娘に対する愛情は最早跡形もない。元夫人は門番すらいない子爵家にまんまと入り込み、偶々落ちていたナイフを手に、彼女を刺した。
嘗て愛しかった我が子は、最後まで実母に気づかずに罵詈雑言を口から吐いて、息絶えた。
それから少しして、子爵家に人が溢れると、元夫人の目の前は真っ白になった。
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