大恋愛の後始末

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変な人

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「私のことは気安くライアンと。いつまでも大公子息様、なんて呼び方はおかしいだろう。」

契約結婚の話は、前向きにじっくり考えるつもりでいたのだが、何処からか父に漏れ(多分伯爵家の侍女辺りが漏らしたのだろう)、あっという間に整ってしまった。

公表時期は要相談とのことで、世間には知られていないが、少しずつ、本当に少しずつ、シェイラとライアンの仲は近づいていった。

「では私のこともシェイラと。」
ライアンはシェイラを見る時、眩しそうに目を細めることがある。

顔が良いだけに、不意にドキッとするのは致し方ないことだ。

社交界では逃げたジュリエットの話題は未だに挙がっていたものの、逃げられた大公子息やら、ブラウン伯爵家については徐々に忘れられた存在になっていった。

ジュリエットに婚約を邪魔されたご令嬢達も新たな縁や、婚約者との和解も進み、落ち着いて来ている。ここに来て平和な日々に、すっかり弛んでいたことは否めない。だが、平和な日はあっさりと終わりを迎えることになる。

グレイズ家の醜聞が話題にならなくなったある日、ライアンと視察という名の街歩きに出たところ、ある一人の平民に服を掴まれたのだ。

ライアンの護衛が、直ぐにその手を捻り上げるも、彼女は怯まなかった。

痛い痛い、と悲壮感漂う泣き真似を披露した挙句、大騒ぎした為に、ギャラリーが増え、場所の変更を余儀なくされた。


彼女はシェイラを知っているらしく、馴れ馴れしく話しかけてきた。

「あんた、漸く会えたわ。ずっとブラウン家には行ってたのよ。あんたに会わせてもらおうと思ったのに、いつも『そんな女性はここにいません。』っていわれるんだもの。だから、名前が間違ってるのかと思って焦ったわよ。シェリー・ブラウンよね、貴女。私、覚えてるでしょう。クララ・メイズよ。久しぶりね。」

名前が間違っているのだから、ブラウン家の対応は正しい。でも、この人は誰だろう。平民の知り合いはいるにはいるが、皆シェイラをあんた呼ばわりはしないし、名前を間違えたりしない。


メイズ家を名乗ったことで、彼女が少し前に潰れた男爵家の縁者であることはわかったが、そちらはシェイラよりもライアンの方が関係してくる問題だ。

ライアンの表情から、彼も無関係らしいことがわかる。

彼女の話に耳を傾けると、彼女はよくわからない理論を展開し、二人を混乱させた。

「マートンが平民になったから、私の嫁入り先がなくなったのよ。おかげ様で貴族夫人になる夢がパァになって、もう最悪なの。でもね、今更別の貴族を狙うのは大変でしょ。だから、あんたに養って貰おうかと思って。

だって元は、あんたに働いてもらって、私と彼は後継を産む仕事をする筈だったじゃない?

だから、私をあんたの侍女として一旦雇ってみない?」

うーん、どこから突っ込めば良いのか。シェイラの困惑を他所に、ライアンは身も蓋もない言い方をする。

「コレ、必要ないのであれば、切り捨てますよ?」

ついうっかり、で頷きたくなるが、やめた。寝覚めの悪いことはしたくない。


彼女はマートンの連れて来た愛人の一人だった。シェイラは彼女の間違いをどこまで指摘するべきか迷ったが、まずは根底から正すことにした。
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