大恋愛の後始末

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大公子息の元婚約者

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ライアン・スペードには、昔から結婚願望がなかった。王弟を父に持ち、大公子息とチヤホヤされていても、大公でいられるのは、父が兄である陛下の手伝いをしている間だけ。大公子息でありながら、大公という位を継げるわけもなく、厳正な審査の結果、公爵家を興すことになる。それも優れた者でなければ叶わない夢のまた夢。

ライアンは父に負けず劣らず、優秀であると、言われていた。今思えば、彼は驕っていた。自分の持つ身分もお金も自身で掴み取ったものではないと言うのに。

子爵令嬢とは幼馴染で、大公子息でありながら彼女との婚約には何の不満もなかった。不満があったのは、周りの令嬢でそれも時が経てば、納得してくれると楽観的に考えていた。だから、初動が遅れた。

子爵家と言う低い家柄で、大公子息の婚約者になった相手は優秀だった。優秀だったが故に他の令嬢にとっては、嫉妬の対象になった。

それを頭では理解していても、実際に身に沁みてはわかっていなかった。

彼女を率先して虐めていたのはジュリエット・グレイズだった。彼女については公爵から聞いていた人物だったので、すぐに分かったのだが、その他の嫌がらせは些細なもので、犯人がわからない。

子爵令嬢は日に日に笑わなくなって、社交界に出るのも、自分に会うのも嫌がるようになった。

そこで彼女を慮って、優しく接することができればまた違ったかもしれない。私はあろうことか、頑張っている彼女に対して「我儘を言うな。」と叱責した。

気がついた時には彼女は病弱のため、婚約を解消になり、すぐに儚くなった、とされた。実際には、子爵家には留まらず平民と婚姻し、幸せに暮らしている。

私は婚約者を守れず逃げられた愚かな男として、身近な人からは呆れられ、対外的には病気で婚約者を亡くした悲劇の男となった。

今更動いたところで、どうにもならないが、大公子息の婚約者を虐めた者にはささやかな仕返しを行った。

本当に取るに足りない大公家からの特別な贈り物を。

ジュリエット・グレイズに婚約を持ちかけたのも、この贈り物の一貫である。侯爵家に見目の良い使用人を何人か入れ、大公子息に関する悪い噂を吹き込むだけで、簡単に彼女は「駆け落ち」に食いついた。

彼女の好みは、ライアンの睨んだ通り、少し線の細い神経質そうな男。自分に脳がないから、賢そうな男が好きだそうだ。

彼は、父の持つ影の中でも、優秀な男だ。彼との逃避行は、夢のような時間だろう。それが悪夢にいつ変わるのか、報告が楽しみでならない。

ジュリエットの異母兄ユリウスは、過酷な状況下にありながら、ボンクラに育った奇妙な男だ。あの環境をモノにできない、と言うのは血筋?だろうか。

公爵は何もできない妹を可愛がっていたと言うから、彼の駒にもなれないことで、邪魔にもならないから、と放置された結果だろう。

彼は非常に良い仕事をしてくれた。わかりやすくジュリエットに籠絡され、シェイラ・ブラウンに嫌われた。

彼女はジュリエットに些細な嫌がらせをされながら、それにすら気づかず、生きてきた稀有な人だ。あの鈍感力なら、社交界を生き抜いていけるに違いない。

人を愛せないタイプ、ではなさそうなところも、好感が持てる。それを言うなら自分も、誰かを愛するなんて感情があったのだな、と冷静に考えていた。
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