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冒険は始まらない
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いつもなら、何事もないような顔で過ごすようなことである。他所の家の侍女見習いなんて、ちょっとした気まぐれで手を出そうとしただけで、彼女を好きだった訳もなく。
エディからしたら、あの婚約破棄だって、どうせ許されて結婚するのだから、その余興みたいなもので、あのピンク女に付き合っただけだ。
ステラに、あの、此方に一片の興味も抱かないあの女に少し焦りを持たせたかっただけ。それなのに。
あの女はあれから、ライナー伯爵家に来なくなった。何をしているかと思えば、庭師と一緒に土いじりしているだけ。そもそも土いじりなんて、ご令嬢がすることじゃないだろ。あのマルコとか言う男を第二の父と言って、やたら近くにいるし。そんなおじさんではなくて、若いエディと一緒にいるべきなのに。
ピンク女のあれからはどうなったかは知らない。修道院に入るのが一般的だが、最近修道院に入る人間が多くて、しかもそのどれもが自分のことをヒロインだ何だと言い張っていて、修道院も人を選ぶようになったと聞いている。
彼女ほどの野心家なら、どんな職業にもつけるだろうし、男を誑かすような職につけば、天職になるんじゃなかろうか。
エディは己のような愚かな若い貴族なら、いくらでも喜んで騙されるだろうと思う。
彼女は言葉巧みに、プライドだけ高い男の欲求を汲み取り、甘やかせる。でもそれには、責任がないからだ。だから、簡単に甘い言葉を吐くし、理想論で話が出来てしまう。
ステラをはじめ、貴族令嬢達は、自身も大変な責任があるために、甘くない。厳しいことをやってのけ、彼女自身がちゃんと役割を果たす。そこに甘えなど一切ない。
エディは少し考えれば、今自分がしていることが悪手だと自覚できたのだろう。何をムキになっていたかはわからないが、とにかく自分が陥れられないうちに、ステラに一矢報いたかった。
フリート伯爵家に限らず、王都に屋敷のある貴族家は防犯がしっかりしている。だから、思い立ったところで、通常なら、素人に忍び込めるわけもない。
案の定、エディは、屋敷に入ることすらできずに捕まってしまった。捕らえられたエディはライナー伯爵家に戻され、謹慎となった。
「お嬢様は情けをかけたのですか?」
罪が軽くなるように、ステラが手を回したのかとミラが疑問に思って聞いたのだが、なんてことはない。エディの侵入があまりにもお粗末だったのだ。
「まあ、伝達ミスもあったみたいね。まさか真正面から入ろうとするとは思わないでしょ?」
ステラは門番に、ここからこの範囲しか、警戒しなくていいと告げていた。真正面から入ろうとしなければ、ちゃんと侵入することができ、ステラの仕掛けにも引っかかるところまでを見れたのに。
笑ってやる気満々だったステラは拍子抜けした。
「まあ、あの男に期待しすぎた此方が悪いのね。」
エディがそうなのは、いまに始まったことではない。何度も期待しては裏切られている。
ステラは折角の仕掛けを台無しにされたやるせなさに、目を閉じて、大きく溜息をついた。
エディからしたら、あの婚約破棄だって、どうせ許されて結婚するのだから、その余興みたいなもので、あのピンク女に付き合っただけだ。
ステラに、あの、此方に一片の興味も抱かないあの女に少し焦りを持たせたかっただけ。それなのに。
あの女はあれから、ライナー伯爵家に来なくなった。何をしているかと思えば、庭師と一緒に土いじりしているだけ。そもそも土いじりなんて、ご令嬢がすることじゃないだろ。あのマルコとか言う男を第二の父と言って、やたら近くにいるし。そんなおじさんではなくて、若いエディと一緒にいるべきなのに。
ピンク女のあれからはどうなったかは知らない。修道院に入るのが一般的だが、最近修道院に入る人間が多くて、しかもそのどれもが自分のことをヒロインだ何だと言い張っていて、修道院も人を選ぶようになったと聞いている。
彼女ほどの野心家なら、どんな職業にもつけるだろうし、男を誑かすような職につけば、天職になるんじゃなかろうか。
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彼女は言葉巧みに、プライドだけ高い男の欲求を汲み取り、甘やかせる。でもそれには、責任がないからだ。だから、簡単に甘い言葉を吐くし、理想論で話が出来てしまう。
ステラをはじめ、貴族令嬢達は、自身も大変な責任があるために、甘くない。厳しいことをやってのけ、彼女自身がちゃんと役割を果たす。そこに甘えなど一切ない。
エディは少し考えれば、今自分がしていることが悪手だと自覚できたのだろう。何をムキになっていたかはわからないが、とにかく自分が陥れられないうちに、ステラに一矢報いたかった。
フリート伯爵家に限らず、王都に屋敷のある貴族家は防犯がしっかりしている。だから、思い立ったところで、通常なら、素人に忍び込めるわけもない。
案の定、エディは、屋敷に入ることすらできずに捕まってしまった。捕らえられたエディはライナー伯爵家に戻され、謹慎となった。
「お嬢様は情けをかけたのですか?」
罪が軽くなるように、ステラが手を回したのかとミラが疑問に思って聞いたのだが、なんてことはない。エディの侵入があまりにもお粗末だったのだ。
「まあ、伝達ミスもあったみたいね。まさか真正面から入ろうとするとは思わないでしょ?」
ステラは門番に、ここからこの範囲しか、警戒しなくていいと告げていた。真正面から入ろうとしなければ、ちゃんと侵入することができ、ステラの仕掛けにも引っかかるところまでを見れたのに。
笑ってやる気満々だったステラは拍子抜けした。
「まあ、あの男に期待しすぎた此方が悪いのね。」
エディがそうなのは、いまに始まったことではない。何度も期待しては裏切られている。
ステラは折角の仕掛けを台無しにされたやるせなさに、目を閉じて、大きく溜息をついた。
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