裏切られた傷心令嬢は狂ったように穴を掘る

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やりかねない

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予定より早く帰宅したエディは、あの婚約破棄の一件以来、口煩くなった弟と両親に会わないように最新の注意を払い、本邸ではない、離れに入って寛いでいた。

別に呪いなんて信じるわけじゃない。ただそれがステラなのが問題だ。昔から彼女と交流のあるエディからすると、ステラならやりかねない、と思ってしまう。

彼女がピンク女と罵る彼女も、最初に会った時はただの失礼な女だと思っていた。けれど、彼女は気が多いだけで、優しく儚げで可愛かった。何よりエディの瞳が綺麗だからと言って、抉り出そうなんて気もなく、「見られるだけで恥ずかしい」と顔を赤く染めたり、人のことをスコップで殴ったりしてこない。男性の服を着て、泥だらけになっていたりしない。庭では花よりも虫と戯れるような子じゃない。普通の女の子は綺麗な花が好きなんだ。

ステラは見た目は可愛いけれど、それだけだった。乱暴で、少しもじっとしていない。室内で本を読むのが好きなエディに寄り添わずに、すぐに庭にかけていく。

エディは昔からステラが苦手だった。


勉強だって、人付き合いだって、自力でどうにかしてしまう。ステラの苦手を補おうと努力したっていつのまにかエディの実力なんて抜き去ってしまって、自分はまるで要らないみたいだ。だから、彼女を連れて、婚約破棄を宣言したと言うのに。

皆がエディを責めて、ピンク女を責めて、ステラは同情された。と言うのに、婚約は継続された。

謝罪に訪れたら、普通はお茶でも出してくれて、どうしてこんなことをしたのか話を聞こうとするのが普通の反応ではないのか。

彼女は迎えに出てくることもなく、いつものように庭に出て、いつもの日常を送っていた。

そこにエディが来てもお構いなしに手を止めることもしない。

あんなところで謝罪すれば、自分の服にも泥が付くし、何より虫がたくさん寄ってくる。靴の裏にも土塗れになって、エディはすっかり萎えてしまった。

彼女がああやって遊んでいるんだから自分にだって休憩はあって然るべきなのに、と現れた弟ニコルの憮然とした表情に怒りをぶつけたくなる。

「帰ってきたんなら、仕事しなよ。僕や父さんがやっているのは、今だけだし、今後はステラ姉さんと兄さんでやらなきゃいけないことなんだからね。

ここにも、持ってきてるからやりなよ。ほら。」

二歳下の弟ニコルは生意気だが、勉強だって運動だって、体格だって何でもエディより優れている。両親だって、先に彼が生まれていたら喜んで彼を当主に推しただろうが、長子は残念ながらエディだった。

「謝罪だ何だって出て行ったんだから、ちゃんと謝罪できたの?」

ニコルは意地悪くエディに畳み掛ける。この時間に帰ってきたんだから、察しろよ、と言う言葉は飲み込み、ああ、と曖昧に返事をする。

「ステラ姉さんに捨てられたら、もう兄さんは終わりだよ。あのピンク女みたいにね。」

ニコルの捨て台詞は、エディの心には響くことはなかった。エディだけが、この婚約の意味を理解していなかった。
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