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お嬢様は穴を掘る
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「お嬢様。少しお休みなさってはいかがですか。」
伯爵家の広い庭に、大きな穴が二つ。侍女に声をかけられたこの家の一人娘ステラは、作業を中断して、涼を取った。
「とりあえずキリのいいところまで、と思ってたけど、案外進んだわ。」
新しく仕入れた可愛らしいピンク色の花を植え替える予定の穴だが、どれぐらい掘れば良いかわからなくて、少し掘りすぎてしまった。
ステラの師匠は庭師のマルコ。ステラの父より少しだけ歳上のマルコは、土いじりの大好きなステラの護衛兼監視役でもある。
侍女のミラは、ステラの母より少し年下の第二の母みたいな人で、毎日忙しい両親よりも、両親らしいステラの家族だ。
冷たく冷やした紅茶を飲んで、話に花を咲かせていると、呼んでいない客が現れた。
ステラの婚約者エディ・ライナー伯爵子息だ。ステラの顔から感情がすんと抜け落ちる。彼の訪問理由はわかってる。彼は最近ある女の子のハニートラップに引っかかり、浮気をした上に、ステラに冤罪をなすりつけ、婚約破棄をしようとした。
その後、その女の子が複数人にハニートラップを仕掛けていたことがわかり、心を入れ替えたエディがステラに謝り倒したおかげで、婚約はそのままになっているのだが。
ステラは、エディを許したわけではない。些細な罪をステラのせいにして、婚約を無かったことにしようとしたエディに、政略結婚とはいえ、大事に愛情を育んできたと自負しているステラはとても傷ついた。
先触れを出したら断られるので強行突破してくるエディを無表情で迎えると、いまだに反省している体で、彼はまた今日も謝罪を口にする。
謝罪を口にしても、ステラが何に傷ついているのかわかっているのかは疑問だ。
ぎこちないやりとりの中、ステラが先程無心に掘った穴に、エディは目をやり、挙動不審にステラと穴を見比べている。
「やっぱり私を恨んでいるのか?」
エディが何を言っているのか、長い付き合いからピンときたステラは、彼の期待を裏切ってはいけないと、笑顔を向けた。
「まだ自分用の穴は掘っておりませんの。これって人数は等価交換なのでしょうか。それなら二人を呪った場合、穴は四つ必要かしら。」
エディは小さく悲鳴を溢した後、用事を思い出したと、一目散に出て行った。慌てた婚約者に溜飲が下がる。
二人で訪れた最後の記憶を、奴は覚えていたのだろう。
あれは奴が浮気する前の、歌劇のチケットを知人から譲って貰い、二人で見に行った日の記憶。
劇中で妻は浮気した夫ではなく、夫を誘惑した浮気相手を呪うのだが、結局は浮気相手も自分も最後には死んでしまう。
ステラならその時、夫も相手も呪うのに、と言ったその言葉をエディは覚えていたようだ。
ステラには呪うほどの深い愛情をエディには持ち合わせていない。だというのに、奴が都合の良い勘違いをするのは、ステラが政略結婚の大切さを理解して努力してきた結果である。
それも、あっさりと裏切られてしまったのだけど。
あんなことがあっても、婚約は継続されている。ならば、裏切りの仕返しとして少しの悪戯ぐらい許されるだろう。
伯爵家の広い庭に、大きな穴が二つ。侍女に声をかけられたこの家の一人娘ステラは、作業を中断して、涼を取った。
「とりあえずキリのいいところまで、と思ってたけど、案外進んだわ。」
新しく仕入れた可愛らしいピンク色の花を植え替える予定の穴だが、どれぐらい掘れば良いかわからなくて、少し掘りすぎてしまった。
ステラの師匠は庭師のマルコ。ステラの父より少しだけ歳上のマルコは、土いじりの大好きなステラの護衛兼監視役でもある。
侍女のミラは、ステラの母より少し年下の第二の母みたいな人で、毎日忙しい両親よりも、両親らしいステラの家族だ。
冷たく冷やした紅茶を飲んで、話に花を咲かせていると、呼んでいない客が現れた。
ステラの婚約者エディ・ライナー伯爵子息だ。ステラの顔から感情がすんと抜け落ちる。彼の訪問理由はわかってる。彼は最近ある女の子のハニートラップに引っかかり、浮気をした上に、ステラに冤罪をなすりつけ、婚約破棄をしようとした。
その後、その女の子が複数人にハニートラップを仕掛けていたことがわかり、心を入れ替えたエディがステラに謝り倒したおかげで、婚約はそのままになっているのだが。
ステラは、エディを許したわけではない。些細な罪をステラのせいにして、婚約を無かったことにしようとしたエディに、政略結婚とはいえ、大事に愛情を育んできたと自負しているステラはとても傷ついた。
先触れを出したら断られるので強行突破してくるエディを無表情で迎えると、いまだに反省している体で、彼はまた今日も謝罪を口にする。
謝罪を口にしても、ステラが何に傷ついているのかわかっているのかは疑問だ。
ぎこちないやりとりの中、ステラが先程無心に掘った穴に、エディは目をやり、挙動不審にステラと穴を見比べている。
「やっぱり私を恨んでいるのか?」
エディが何を言っているのか、長い付き合いからピンときたステラは、彼の期待を裏切ってはいけないと、笑顔を向けた。
「まだ自分用の穴は掘っておりませんの。これって人数は等価交換なのでしょうか。それなら二人を呪った場合、穴は四つ必要かしら。」
エディは小さく悲鳴を溢した後、用事を思い出したと、一目散に出て行った。慌てた婚約者に溜飲が下がる。
二人で訪れた最後の記憶を、奴は覚えていたのだろう。
あれは奴が浮気する前の、歌劇のチケットを知人から譲って貰い、二人で見に行った日の記憶。
劇中で妻は浮気した夫ではなく、夫を誘惑した浮気相手を呪うのだが、結局は浮気相手も自分も最後には死んでしまう。
ステラならその時、夫も相手も呪うのに、と言ったその言葉をエディは覚えていたようだ。
ステラには呪うほどの深い愛情をエディには持ち合わせていない。だというのに、奴が都合の良い勘違いをするのは、ステラが政略結婚の大切さを理解して努力してきた結果である。
それも、あっさりと裏切られてしまったのだけど。
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