1 / 28
だって姉の服が眩しくて
しおりを挟む
姉サマンサの姿が眩しくて見られない、と妹レイチェルが気づいたのは、レイチェルが六歳、サマンサが十歳の頃だった。
他の、例えば二人の両親や、侯爵家に仕える使用人にはそのような事は起こっていない。
「もしかして……」
我が国の古い文献にある「精霊の愛し子」は、精霊を見たり、話したりする能力があるらしい。昔、お伽噺で聞いたその話を二人の母であるレベッカは思い出した。
「うちの子、精霊見えちゃうんじゃない?」
我が国では元々精霊を信仰する文化が根強い。リシート侯爵家でも、信仰心は強く、王家の歴史でも「精霊の愛し子」を大切に保護していた。
「レイチェル?その光はどんな風に見えるの?」
母レベッカの問いかけに、首を横に振って、レイチェルは叫ぶ。
「だから、見えないのよ。お姉様の姿が眩しすぎて、全く何も見えないの。」
曰く、精霊なるものは、姿が眩しくて、レイチェルの瞳には輪郭すら捉えられないと言うこと。曰く、光が姉サマンサの身体を覆うように存在する所為でサマンサの身体まで、見えなくなってしまっている、ということを、レイチェルは必死に訴える。
「今日のお姉様のお召し物、すごく可愛かったのに、私とお揃いで、コーディネートしたのに!何で見られないの?」
レイチェルの叫びに、母レベッカと、侍女は二人の格好を温かい目で見つめる。
「ええ、可愛いわよ。サマンサの可憐さと、貴女の可愛らしさが上手く引き立っているわ。」
「どうして、私だけそれが見られないの?お姉様はクールな顔立ちだから、将来どう転んでも美しくなるのは間違いないけれど、今の可憐さは今この時しか持ち合わせないものかもしれないじゃない!何故、それが、私だけ、見られないのー!!」
興奮して泣き叫ぶレイチェルを見るのは、リシート侯爵家にいる面々にとってはよくあることだ。どう言う訳か、妹レイチェルは姉サマンサに関することには並々ならぬ情熱を費やす。
このお揃いのドレスも、考案し、デザイナーを唸らせたのは、レイチェルだ。
「お嬢様は、天賦の才をお持ちです!」
なんて、デザイナーは六歳の子供に永年契約を結ぼうとしていた、とか。
レイチェルはこうなると、手がつけられない。
「この子は、誰に似たのかしら。」
遠い目をするレベッカ。肝心の姉サマンサは、大人しく花を鑑賞しつつ、お気に入りの紅茶を飲んでいる。妹レイチェルに、美味しいお菓子をあげて食べさせようとしている辺りが、またレイチェルの叫びを大きくしているのだが。
「ねえ、レイチェルは、光に触れられないのかしら。触れられないのなら、話をしてみることは?私の身体から離れて貰えれば良いのでしょう?お願いしてみたら、どうかしら。」
姉サマンサの提案に、レイチェルは光に向けて、話しかけてみることにした。
けれど、結果は変わらない。光は点滅を繰り返すものの、サマンサの身体に引っ付いて離れない。
レイチェルはここまで言って無理なのだと、実力行使に出ることにした。
手を伸ばせば、何と掴むことが出来た。レイチェルはその光をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、漸くお揃いのドレスに身を包む可憐な姉サマンサをその瞳に収めることができた。
驚いたのは、周りの大人達。
精霊をちぎっては投げているように見えるレイチェルと、触れも感じもしないけれど精霊に付き纏わられるサマンサ。
これ、どちらも愛し子でいいのかしら。
精霊を掴んだりしてはいけません、と言うべきか、タイミングを逃したまま、時は過ぎて行った。
他の、例えば二人の両親や、侯爵家に仕える使用人にはそのような事は起こっていない。
「もしかして……」
我が国の古い文献にある「精霊の愛し子」は、精霊を見たり、話したりする能力があるらしい。昔、お伽噺で聞いたその話を二人の母であるレベッカは思い出した。
「うちの子、精霊見えちゃうんじゃない?」
我が国では元々精霊を信仰する文化が根強い。リシート侯爵家でも、信仰心は強く、王家の歴史でも「精霊の愛し子」を大切に保護していた。
「レイチェル?その光はどんな風に見えるの?」
母レベッカの問いかけに、首を横に振って、レイチェルは叫ぶ。
「だから、見えないのよ。お姉様の姿が眩しすぎて、全く何も見えないの。」
曰く、精霊なるものは、姿が眩しくて、レイチェルの瞳には輪郭すら捉えられないと言うこと。曰く、光が姉サマンサの身体を覆うように存在する所為でサマンサの身体まで、見えなくなってしまっている、ということを、レイチェルは必死に訴える。
「今日のお姉様のお召し物、すごく可愛かったのに、私とお揃いで、コーディネートしたのに!何で見られないの?」
レイチェルの叫びに、母レベッカと、侍女は二人の格好を温かい目で見つめる。
「ええ、可愛いわよ。サマンサの可憐さと、貴女の可愛らしさが上手く引き立っているわ。」
「どうして、私だけそれが見られないの?お姉様はクールな顔立ちだから、将来どう転んでも美しくなるのは間違いないけれど、今の可憐さは今この時しか持ち合わせないものかもしれないじゃない!何故、それが、私だけ、見られないのー!!」
興奮して泣き叫ぶレイチェルを見るのは、リシート侯爵家にいる面々にとってはよくあることだ。どう言う訳か、妹レイチェルは姉サマンサに関することには並々ならぬ情熱を費やす。
このお揃いのドレスも、考案し、デザイナーを唸らせたのは、レイチェルだ。
「お嬢様は、天賦の才をお持ちです!」
なんて、デザイナーは六歳の子供に永年契約を結ぼうとしていた、とか。
レイチェルはこうなると、手がつけられない。
「この子は、誰に似たのかしら。」
遠い目をするレベッカ。肝心の姉サマンサは、大人しく花を鑑賞しつつ、お気に入りの紅茶を飲んでいる。妹レイチェルに、美味しいお菓子をあげて食べさせようとしている辺りが、またレイチェルの叫びを大きくしているのだが。
「ねえ、レイチェルは、光に触れられないのかしら。触れられないのなら、話をしてみることは?私の身体から離れて貰えれば良いのでしょう?お願いしてみたら、どうかしら。」
姉サマンサの提案に、レイチェルは光に向けて、話しかけてみることにした。
けれど、結果は変わらない。光は点滅を繰り返すものの、サマンサの身体に引っ付いて離れない。
レイチェルはここまで言って無理なのだと、実力行使に出ることにした。
手を伸ばせば、何と掴むことが出来た。レイチェルはその光をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、漸くお揃いのドレスに身を包む可憐な姉サマンサをその瞳に収めることができた。
驚いたのは、周りの大人達。
精霊をちぎっては投げているように見えるレイチェルと、触れも感じもしないけれど精霊に付き纏わられるサマンサ。
これ、どちらも愛し子でいいのかしら。
精霊を掴んだりしてはいけません、と言うべきか、タイミングを逃したまま、時は過ぎて行った。
1
お気に入りに追加
102
あなたにおすすめの小説

モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

【完結】私の結婚支度金で借金を支払うそうですけど…?
まりぃべる
ファンタジー
私の両親は典型的貴族。見栄っ張り。
うちは伯爵領を賜っているけれど、借金がたまりにたまって…。その日暮らしていけるのが不思議な位。
私、マーガレットは、今年16歳。
この度、結婚の申し込みが舞い込みました。
私の結婚支度金でたまった借金を返すってウキウキしながら言うけれど…。
支度、はしなくてよろしいのでしょうか。
☆世界観は、小説の中での世界観となっています。現実とは違う所もありますので、よろしくお願いします。

(完結)嘘つき聖女と呼ばれて
青空一夏
ファンタジー
私、アータムは夢のなかで女神様から祝福を受けたが妹のアスペンも受けたと言う。
両親はアスペンを聖女様だと決めつけて、私を無視した。
妹は私を引き立て役に使うと言い出し両親も賛成して……
ゆるふわ設定ご都合主義です。


婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました
ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。
王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。
しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

庭園の国の召喚師
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
おばあちゃんが先日亡くなった。そのおばあちゃんの言いつけで男として過ごしていたリーフは、魔術師の国ラパラル王国の王都グラディナで、男性として魔術師証を取得。金欠でお金に困り、急募・男性の方に飛びついた。
驚く事に雇い主は、リーフが知っている騎士のアージェという男だった!
だが男としての接触だった為、彼は気づかない。そして、引き受けた仕事により、魔獣騒ぎに巻き込まれ――。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる