だって姉が眩しかったから

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だって姉の服が眩しくて

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姉サマンサの姿が眩しくて見られない、と妹レイチェルが気づいたのは、レイチェルが六歳、サマンサが十歳の頃だった。

他の、例えば二人の両親や、侯爵家に仕える使用人にはそのような事は起こっていない。

「もしかして……」

我が国の古い文献にある「精霊の愛し子」は、精霊を見たり、話したりする能力があるらしい。昔、お伽噺で聞いたその話を二人の母であるレベッカは思い出した。

「うちの子、精霊見えちゃうんじゃない?」

我が国では元々精霊を信仰する文化が根強い。リシート侯爵家でも、信仰心は強く、王家の歴史でも「精霊の愛し子」を大切に保護していた。

「レイチェル?その光はどんな風に見えるの?」
母レベッカの問いかけに、首を横に振って、レイチェルは叫ぶ。
「だから、見えないのよ。お姉様の姿が眩しすぎて、全く何も見えないの。」

曰く、精霊なるものは、姿が眩しくて、レイチェルの瞳には輪郭すら捉えられないと言うこと。曰く、光が姉サマンサの身体を覆うように存在する所為でサマンサの身体まで、見えなくなってしまっている、ということを、レイチェルは必死に訴える。

「今日のお姉様のお召し物、すごく可愛かったのに、私とお揃いで、コーディネートしたのに!何で見られないの?」

レイチェルの叫びに、母レベッカと、侍女は二人の格好を温かい目で見つめる。

「ええ、可愛いわよ。サマンサの可憐さと、貴女の可愛らしさが上手く引き立っているわ。」

「どうして、私だけそれが見られないの?お姉様はクールな顔立ちだから、将来どう転んでも美しくなるのは間違いないけれど、今の可憐さは今この時しか持ち合わせないものかもしれないじゃない!何故、それが、私だけ、見られないのー!!」

興奮して泣き叫ぶレイチェルを見るのは、リシート侯爵家にいる面々にとってはよくあることだ。どう言う訳か、妹レイチェルは姉サマンサに関することには並々ならぬ情熱を費やす。

このお揃いのドレスも、考案し、デザイナーを唸らせたのは、レイチェルだ。
「お嬢様は、天賦の才をお持ちです!」
なんて、デザイナーは六歳の子供に永年契約を結ぼうとしていた、とか。




レイチェルはこうなると、手がつけられない。

「この子は、誰に似たのかしら。」
遠い目をするレベッカ。肝心の姉サマンサは、大人しく花を鑑賞しつつ、お気に入りの紅茶を飲んでいる。妹レイチェルに、美味しいお菓子をあげて食べさせようとしている辺りが、またレイチェルの叫びを大きくしているのだが。

「ねえ、レイチェルは、光に触れられないのかしら。触れられないのなら、話をしてみることは?私の身体から離れて貰えれば良いのでしょう?お願いしてみたら、どうかしら。」

姉サマンサの提案に、レイチェルは光に向けて、話しかけてみることにした。

けれど、結果は変わらない。光は点滅を繰り返すものの、サマンサの身体に引っ付いて離れない。

レイチェルはここまで言って無理なのだと、実力行使に出ることにした。

手を伸ばせば、何と掴むことが出来た。レイチェルはその光をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、漸くお揃いのドレスに身を包む可憐な姉サマンサをその瞳に収めることができた。

驚いたのは、周りの大人達。

精霊をちぎっては投げているように見えるレイチェルと、触れも感じもしないけれど精霊に付き纏わられるサマンサ。

これ、どちらも愛し子でいいのかしら。

精霊を掴んだりしてはいけません、と言うべきか、タイミングを逃したまま、時は過ぎて行った。
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