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テオドール(本物)
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テオドールとの記憶を掘り下げると、メリッサにはそんなに彼との記憶がないことに気づく。偽物のテオドールをあてがわれることが多く、知らず知らずのうちにテオドールは自分とはあまり会いたくないのだと刷り込まれていたせいだ。
「私にそこまで興味もないでしょう。」
口にして気がついたが、どうもこの言い方では、僻んでしまっているみたいに聞こえる。案の定、彼には誤解を与えてしまった。
「貴女に興味がないわけはない。王子の婚約者はどのように決まるか知らないの?」
「公爵家のパワーバランスでは?」
「そう言った方が余計な争いは生まないから、そう言われているだけで。少なくとも今回は各々の意見が通った結果です。あのカミーユもセレナ嬢を選んだのは自らの意思です。彼のプライドの高さが邪魔をして、正直にはなれなかった見たいだけど。」
「テオドール様は私に興味がないのだと思ってました。だっていつも私に会ってくださらないから。」
「毎月の会合については、最近行われていないと聞きましたが違うのですか。」
「いえ、ちゃんと実施してますよ。貴方の影の方が参加されています。」
メリッサはテオドール様は自身の意思で来ないのかと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。
毎月、来なかったのは、中止だと思っていたからだと、言うが。
「毎月、何故中止なのか聞いたのですか。」
「いや、……私の真意を疑われても文句は言えないな。私が忙しかったのは事実だ。彼らが私のために、自主的に貴女との会合に出たとしても、私のためだと言われれば納得せざるを得ない。」
勝手に主人の婚約者に主人のふりをして会いに行くのは、普通なら越権行為として咎められる行為だが、主人の多忙さを考慮した結果なら、逆に忠誠心を認められ、責めることはできない。
「ああ、でも確かに貴女に嫌われても仕方がない行動だね。改めて考えると、多分会合に行かなくなってから随分と経つからね。」
テオドールはそうは言っても、少しはおかしいと思っていたのか、はたまたテオドール側からは、メリッサに嫌われていると思い込んでいたのか複雑な顔をしている。
「もしかして、私に嫌われていると思っていたりします?」
「いや、いつも私に会いたくなくなるのはそう言うことなのかと。違うのか?」
「違います。」
嫌うところまで、テオドールという男性について知らないので、嫌うこともできない。
「今までの話が本当なら少しは私に興味があるということですか?なら、これから間に誰かを介さずにちゃんと交流を持ちませんか?忙しいなら、言伝でも構いませんが、本来ならあり得ないミスだと思うのです。貴方の影に邪魔をされるなんて。」
わざわざ強い言葉を使ったのだから、これで偽物のテオドールは態度を改めると思ったが、それはメリッサの考えが甘かった。テオドールと和解したつもりになったメリッサだが、未だ圧倒的に本物よりも偽物が現れることが多かった。
彼が何をしたいのか。それはわかってる。本物とメリッサの交流を阻止したいのだ。重要なのはその理由。理由によっては納得してやらなくもないのだけれど。残念ながら、その理由を口にする時期にはまだないらしい。
メリッサは通常通り、自身を「君」と呼ぶ馴れ馴れしい偽のテオドールと過ごしている。だが、メリッサが彼に話すことは何もない。本物に話すことにしか意味がないからだ。それを咎める権限は偽物にはないらしい。彼が何をしたいかわからないままに、時間は経過していくのだった。
「私にそこまで興味もないでしょう。」
口にして気がついたが、どうもこの言い方では、僻んでしまっているみたいに聞こえる。案の定、彼には誤解を与えてしまった。
「貴女に興味がないわけはない。王子の婚約者はどのように決まるか知らないの?」
「公爵家のパワーバランスでは?」
「そう言った方が余計な争いは生まないから、そう言われているだけで。少なくとも今回は各々の意見が通った結果です。あのカミーユもセレナ嬢を選んだのは自らの意思です。彼のプライドの高さが邪魔をして、正直にはなれなかった見たいだけど。」
「テオドール様は私に興味がないのだと思ってました。だっていつも私に会ってくださらないから。」
「毎月の会合については、最近行われていないと聞きましたが違うのですか。」
「いえ、ちゃんと実施してますよ。貴方の影の方が参加されています。」
メリッサはテオドール様は自身の意思で来ないのかと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。
毎月、来なかったのは、中止だと思っていたからだと、言うが。
「毎月、何故中止なのか聞いたのですか。」
「いや、……私の真意を疑われても文句は言えないな。私が忙しかったのは事実だ。彼らが私のために、自主的に貴女との会合に出たとしても、私のためだと言われれば納得せざるを得ない。」
勝手に主人の婚約者に主人のふりをして会いに行くのは、普通なら越権行為として咎められる行為だが、主人の多忙さを考慮した結果なら、逆に忠誠心を認められ、責めることはできない。
「ああ、でも確かに貴女に嫌われても仕方がない行動だね。改めて考えると、多分会合に行かなくなってから随分と経つからね。」
テオドールはそうは言っても、少しはおかしいと思っていたのか、はたまたテオドール側からは、メリッサに嫌われていると思い込んでいたのか複雑な顔をしている。
「もしかして、私に嫌われていると思っていたりします?」
「いや、いつも私に会いたくなくなるのはそう言うことなのかと。違うのか?」
「違います。」
嫌うところまで、テオドールという男性について知らないので、嫌うこともできない。
「今までの話が本当なら少しは私に興味があるということですか?なら、これから間に誰かを介さずにちゃんと交流を持ちませんか?忙しいなら、言伝でも構いませんが、本来ならあり得ないミスだと思うのです。貴方の影に邪魔をされるなんて。」
わざわざ強い言葉を使ったのだから、これで偽物のテオドールは態度を改めると思ったが、それはメリッサの考えが甘かった。テオドールと和解したつもりになったメリッサだが、未だ圧倒的に本物よりも偽物が現れることが多かった。
彼が何をしたいのか。それはわかってる。本物とメリッサの交流を阻止したいのだ。重要なのはその理由。理由によっては納得してやらなくもないのだけれど。残念ながら、その理由を口にする時期にはまだないらしい。
メリッサは通常通り、自身を「君」と呼ぶ馴れ馴れしい偽のテオドールと過ごしている。だが、メリッサが彼に話すことは何もない。本物に話すことにしか意味がないからだ。それを咎める権限は偽物にはないらしい。彼が何をしたいかわからないままに、時間は経過していくのだった。
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