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メリッサの兄と義父
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「最近テオドール第四王子殿下とは仲良くしているのか。」
普段何も話さない義父からの問いかけにメリッサは咄嗟にうまく言葉を返せなかった。実父よりも若く見ようによっては父よりも歳の離れた兄に見える彼は、何となく裏が見えなくて不気味な存在だった。
「近いうちに会う約束を取り付けています。婚約者候補として上手くやっていると思いますよ。」それなりに、という言葉は飲み込み、彼が欲しいであろう言葉を探す。
義父は、自ら聞いておいて、然程興味がなさそうに、メリッサの答えを聞いていた。
「最近はどんな話を?」
「モスカント家の……クルデリス公爵がご結婚なさったじゃないですか。ダリア嬢のご生家の話が多いですね。社交界でも今や噂の的ですから。」
話す気はなかったものの、口を滑らせてしまったので、敢えて話すことにした。
「噂と言うのは?」
「ええと、ルチア・モスカント伯爵令嬢の話です。長女のダリア嬢とは違い、随分と可愛がられているのに、まるで礼儀がないと。ダリア嬢はすでに公爵夫人として立派になられているのに、と。公爵のファンが夫人をこきおろそうと画策したところ、返り討ちにあった話とか、今や公爵夫人は、噂の的なのです。」
焦りから話が長くなるメリッサに気づいているのかいないのか。義父は「そうか。」とだけ、口にして、話を終わらせた。
「モスカント伯爵家は近いうちに解体されるだろうな。」
「そうなんですか?」
「ああ、多分。クルデリス公爵が主体となって行われると言う話しだ。」
「それは初耳ですね。」
「テオドール様は何も?」
「テオドール様は、何も言われていませんでしたよ?私が婚約者候補でなく、婚約者なら話したでしょうが、まだ違いますからね。」
メリッサの返事に不審感を抱くことはなかったらしく、それを機にうんともすんとも言わなくなった義父。助けを求めるつもりで母に視線を向けると、あまり関わりたくないようで目を逸らされる。
「モスカント家はどうしてあのようになってしまったのでしょう。」
義父は、メリッサの言葉の意味をわからなかったのか、はたまた話す気がないのか、何も答えを開示しなかった。
「メリッサ、お前がどのような答えを欲しているかはわからないが、知ったところでどうにもできないことはあるさ。気にしないようにしろ。そうでないと、お前の母が悲しむ。」
代わりにそれらしいことを話したのは、テオドールの側近として大したことを何一つしていない、メリッサの兄である。兄は、話がわからないくせに勝手に紛れ込んだ挙句に話をややこしくする天才で、ここだけの話、テオドール様に、距離を置かれている。
自分とは会おうとしないのに、妹には甘い顔をしている、テオドールを少し軽蔑している勘違い野郎である。
メリッサに会うと悪態ばかりつくこの兄を、メリッサはたいして気にしていない。弱い犬ほど、とはよく言ったものだ。テオドールは兄とは馬が合わないらしく、滅多に近付くことはない。テオドールの邪魔にならないならどうでも良いが、話はそこで終わらなかった。
兄は厄介な女に目をつけられていた。
普段何も話さない義父からの問いかけにメリッサは咄嗟にうまく言葉を返せなかった。実父よりも若く見ようによっては父よりも歳の離れた兄に見える彼は、何となく裏が見えなくて不気味な存在だった。
「近いうちに会う約束を取り付けています。婚約者候補として上手くやっていると思いますよ。」それなりに、という言葉は飲み込み、彼が欲しいであろう言葉を探す。
義父は、自ら聞いておいて、然程興味がなさそうに、メリッサの答えを聞いていた。
「最近はどんな話を?」
「モスカント家の……クルデリス公爵がご結婚なさったじゃないですか。ダリア嬢のご生家の話が多いですね。社交界でも今や噂の的ですから。」
話す気はなかったものの、口を滑らせてしまったので、敢えて話すことにした。
「噂と言うのは?」
「ええと、ルチア・モスカント伯爵令嬢の話です。長女のダリア嬢とは違い、随分と可愛がられているのに、まるで礼儀がないと。ダリア嬢はすでに公爵夫人として立派になられているのに、と。公爵のファンが夫人をこきおろそうと画策したところ、返り討ちにあった話とか、今や公爵夫人は、噂の的なのです。」
焦りから話が長くなるメリッサに気づいているのかいないのか。義父は「そうか。」とだけ、口にして、話を終わらせた。
「モスカント伯爵家は近いうちに解体されるだろうな。」
「そうなんですか?」
「ああ、多分。クルデリス公爵が主体となって行われると言う話しだ。」
「それは初耳ですね。」
「テオドール様は何も?」
「テオドール様は、何も言われていませんでしたよ?私が婚約者候補でなく、婚約者なら話したでしょうが、まだ違いますからね。」
メリッサの返事に不審感を抱くことはなかったらしく、それを機にうんともすんとも言わなくなった義父。助けを求めるつもりで母に視線を向けると、あまり関わりたくないようで目を逸らされる。
「モスカント家はどうしてあのようになってしまったのでしょう。」
義父は、メリッサの言葉の意味をわからなかったのか、はたまた話す気がないのか、何も答えを開示しなかった。
「メリッサ、お前がどのような答えを欲しているかはわからないが、知ったところでどうにもできないことはあるさ。気にしないようにしろ。そうでないと、お前の母が悲しむ。」
代わりにそれらしいことを話したのは、テオドールの側近として大したことを何一つしていない、メリッサの兄である。兄は、話がわからないくせに勝手に紛れ込んだ挙句に話をややこしくする天才で、ここだけの話、テオドール様に、距離を置かれている。
自分とは会おうとしないのに、妹には甘い顔をしている、テオドールを少し軽蔑している勘違い野郎である。
メリッサに会うと悪態ばかりつくこの兄を、メリッサはたいして気にしていない。弱い犬ほど、とはよく言ったものだ。テオドールは兄とは馬が合わないらしく、滅多に近付くことはない。テオドールの邪魔にならないならどうでも良いが、話はそこで終わらなかった。
兄は厄介な女に目をつけられていた。
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