僕の運命は君じゃない

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だって婚約者候補ですから

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女の敵は女だと良く言う。でも、この場に置ける女の敵というのは、目の前に座るこの男だと思う。

第四王子テオドールの婚約者候補であるメリッサの前に現れた彼とはそっくりの別人。彼は個別の名を持たない為、自身をテオドールと名乗る。

だけど、彼はテオドール本人では勿論ない。なのに、メリッサの前で彼本人として当然のようにそこにいる。

悔しいことに、彼が偽物であることは、ポエナ公爵家当主の父か、自分しか気が付いていないようだ。

「やはり貴女は騙されてはくれないんですね。」
「だって似てないもの。」

似せる気もないくせに、不満そうな顔をわざわざ作るあざとさをメリッサは白々しく受け止めて、長い溜息をついた。

「それで、本物の貴方は、また彼女のところ?」

「彼女とは?」

「ダリア・モスカント、じゃなかった。もう今はクルデリス公爵夫人になったのよね。」

「確かに主人はクルデリス公爵家に赴きましたが、貴女が考えているようなことでは有りません。公爵本人に大事な話がおありになるようです。」

「わかりましたわ。そう言うことにしておきましょう。」


我が国に五人居る王子殿下の中の四番目の王子テオドールは、最近婚姻式を行ったクルデリス公爵の夫人ダリア様にご執心である。

幸いにもそのことを知るのは、テオドールの偽物のこの男と、私メリッサのみ。メリッサはダリア公爵夫人に会ったことはない。モスカント伯爵令嬢だった時にも社交界での絡みは一切なかった。モスカント伯爵家で虐げられていた後継者は、噂ではとても有名だった。

骨と皮だけの、カーテシーもままならないご令嬢が学園に入ってから成長著しく変貌し、美しい所作とマナーと膨大な知識を身につけ、クルデリス公爵家に嫁いだのが三ヶ月ほど前の話。

誰が見ても腰を抜かすほどの恐ろしさと美貌の持ち主である公爵を見ても動じなかった強心臓の持ち主として、社交界で有名になったダリア・クルデリス。


彼女の注目度が上がっている今だから、あまり目立たないが、テオドールの彼女に対する興味は隠す気がないのだと理解できるほどあからさまなものだった。

「私に会う擬装などしなくていいのですわ。」

この茶会は婚約者候補との親睦を深める為のものだ。本人以外の他人との親睦など深める意味もない。

テオドールの偽物は、にっこりと胡散臭い笑みを見せる。悔しいけど、この笑顔はほぼ本人なのよね。メリッサは心の中で悪態をつきながら、お茶を飲み終えた。

「いえ、不満でしょうけれど今は私にお付き合いください。第二王子殿下の部下の件もまだ進展を見せませんから。」

男に言われて思い出した。つい先日、第二王子殿下の側近が暗殺されたのだった。第二王子殿下は怪我もなくピンピンしているのだが、殺されたのが第二王子に一番近い存在だっただけに、随分とショックを受けて、部屋に引きこもっていると言う。

「犯人はまだ見つからないのね。珍しいこともあるものだわ。」

メリッサはお茶のおかわりを頼まずに、茶会の終わりを宣言する。偽物のコップは空になっていた。

「残念ながら、来月の茶会も、私が訪問します。此方は決定事項ですので、ご了承ください。」

第二王子殿下の側近が亡くなってから、メリッサには自由がなくなった。いつ襲撃に会うかわからないからだ。

「早く見つかれば良いのに。」

そうしたらテオドールの偽物も忙しくなって、メリッサは自由に過ごせる日が来る筈だ。テオドールがさらに来れなくなる可能性もあるけれど。

それならそれで納得できると言うものだ。いつも今日はどうだろうか、と期待する時間すら勿体無いと思う。

「わかっているとは思いますが、ポエナ公爵家を蔑ろにしているわけではありませんので。」
そんなことはわかっている。たくさんいる第四王子の部下の中で、最側近の彼を寄越しているぐらいなのだから。

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