浮気は私の方でした

mios

文字の大きさ
上 下
26 / 27

理想の恋人

しおりを挟む
私には気の強い妹が二人いる。母も叔母も祖母も、従姉妹も、総じて皆気が強い。ヒーラー侯爵家の血筋だが、女性は強く、男性は弱い。祖父曰く、女性の尻に敷かれているぐらいで男性は丁度良いらしい。

とは言っても、私が昔から好きになる女性は、皆大人しく、可愛らしい人だった。

しかし、私の理想の女性だったご令嬢達は、幻だったことを知る。皆が皆演技だったなどとは信じたくはないが、彼女達ははっきりしていた。彼女達は、私に恥ずかしそうに笑いかけた顔で、ペチャクチャと、別のご令嬢を批判していた。

使用人に対する横柄な態度をみると、彼女達の振る舞いは最初から演技でしかなかったことがわかった。

エルザはそれを聞くと、「当たり前じゃない。」と鼻で笑い、ララには、私の頭の中を心配された。

「お兄様、顔に似合わず、お花畑過ぎるわ。」

エルザと仲の良いクレア嬢に至っては、私を笑いはしなかったが、目は雄弁で呆れていることが見て取れた。

ある日、クレア嬢に言われた。

「以前聞いたリアム様のお好きなタイプに近い子がいるのですが、紹介しましょうか?」

「まだ、私を揶揄う気かい?」

「いいえ、彼女は、侍女見習いとして新しく入った子爵令嬢です。彼女は、養殖でない、天然物です。気にいると思いますわ。」

養殖だの、天然だの、人に対する修飾語ではないが、話を聞く限り確かに私の好きなタイプではあった。

彼女には恋人がいたが、その恋人と言うのは、あのカイン・バルトだ。伯爵家の遊び人。人気は私に次いで二番人気らしい。そもそも私が一番人気と言うのも、異議を唱えたいのに。

「彼女をあの遊び人から解放して、真実の愛を教えて差し上げれば良いのです。」

「真実の愛って使い方あってる?」

「元々の意味はこちらで間違いないと思います。」

彼女は覚えていないかもしれないが、私は彼女に一度会っている。リシャール侯爵家に、用があり、前触れも出さず立ち寄った時のこと。彼女は入ったばかりだったか、初々しい働きぶりで、疲れ切った私の心を癒してくれた。

彼女はどれだけ時間が経っても、馴れ合うことはなく、謙虚で、真面目だった。なるほど、クレア嬢が気にいるわけだ。

私はカイン・バルトを調べる過程で、彼のことを偏執的に愛する母親が、アリアに敵意を抱いていることを知り、彼女を保護しようとした。

婚約者云々は、何かと理由をつけたが、下心があってのことだ。もしかしたら、このまま、婚約者で居続けてくれたりするのではないか、と。

あのカインが、彼女に手を出さなかったのは、出せなかっただけではないのか?

彼女と話すにつれ、自分が二の舞になりそうで怖くなる。私は奥手だし、彼女は鈍感だ。

私は大して強くもないワインを開ける。毎回お酒の力を借りないといけないのは、情けないが、彼女を失うわけにはいかない。

「アリア、愛してる。」
アリアはふふ、と微笑んで、少し口を尖らせる。

「酔っ払ってない時に仰ってください。でないと、ご褒美はあげられませんわ。」

アリアは、人差し指で、私の口を塞いだ。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

一目惚れ

詩織
恋愛
恋も長くしてない私に突然現れた彼。 でも彼は全く私に興味なかった

見栄を張る女

詩織
恋愛
付き合って4年の恋人がいる。このままだと結婚?とも思ってた。 そんな時にある女が割り込んでくる。

妹は奪わない

緑谷めい
恋愛
 妹はいつも奪っていく。私のお気に入りのモノを……  私は伯爵家の長女パニーラ。2つ年下の妹アリスは、幼い頃から私のお気に入りのモノを必ず欲しがり、奪っていく――――――な~んてね!?

犠牲の恋

詩織
恋愛
私を大事にすると言ってくれた人は…、ずっと信じて待ってたのに… しかも私は悪女と噂されるように…

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

【完結】いわくつき氷の貴公子は妻を愛せない?

白雨 音
恋愛
婚約間近だった彼を親友に取られ、傷心していた男爵令嬢アリエルに、 新たな縁談が持ち上がった。 相手は伯爵子息のイレール。彼は妻から「白い結婚だった」と暴露され、 結婚を無効された事で、界隈で噂になっていた。 「結婚しても君を抱く事は無い」と宣言されるも、その距離感がアリエルには救いに思えた。 結婚式の日、招待されなかった自称魔女の大叔母が現れ、「この結婚は呪われるよ!」と言い放った。 時が経つ程に、アリエルはイレールとの関係を良いものにしようと思える様になるが、 肝心のイレールから拒否されてしまう。 気落ちするアリエルの元に、大叔母が現れ、取引を持ち掛けてきた___  異世界恋愛☆短編(全11話) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

処理中です...