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恋が終わって、始まる
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カイン様の背中を見送った後、不思議ですが、何の感情も感じなかったことに驚いています。二人の姿を見た時でさえ、少しは動揺しましたのに。
きっと、私の恋はあの日、カイン様の浮気現場を見てしまったあの場に置き去りになったのです。エルザ様に頂いた魔道具のおかげで、それから今までの間、お会いしなかったことも、私がカイン様を忘れることに一役かって下さいました。
「失恋を癒すには新しい恋をするのが一番よ。」
クレアの一言が、思い出されます。そう考えて少し悲しくなります。私がこうして、初めての夜会を楽しめるのも、リアム様のような素敵な男性にエスコートされるのも、今だけだからです。
私は今だけの婚約者です。そのうち、リアム様に愛する方ができたら、すぐにでも解消されてしまいます。
私はただの貧乏子爵家の娘です。リアム様とは身分が違いすぎていることも理解しています。私は暗くなりかけた思考を元に戻します。今だけ許された夢なのですから、楽しまなくては勿体ない、と切り替えます。
私は今日を思い出にして、この先の人生を楽しく送りたいのですから。
「本日は、一緒にいてくださり、ありがとうございます。」
ダンスの後、リアム様は色々な貴族の方々に挨拶をするのを、今日は控えて私と一緒にいてくださるそうです。
「私は大丈夫ですので、リアム様は御用事を済ませて下さい。」
「いや、今日は何もないから、貴女といたいんだ。迷惑かな?」
「いいえ、そうではないのですが。よろしいのですか?」
ちらほらと、リアム様を見ていらっしゃる方達がいます。リアム様は視線を、遮るように立たれ、私の視界にはリアム様しか見えなくなりました。
リアム様の背中から、ため息でも聞こえてきそうです。
あまりの必死さに笑みが溢れます。
「少し話でもしようか。」
会場を出て、バルコニーには人がいましたが、私達を見ると、逃げていきました。後からきて、追い払ったみたいで、申し訳なくなります。
夜風は生暖かく、肩を出したドレスでも寒くはありません。
リアム様はそれでも、上着をぬいで、肩にかけて下さいます。
普段の仕事着と違い、露出の多さに戸惑っておりましたので、リアム様の気遣いは嬉しいものでした。
「慣れませんね。皆様、こんな大変なことをされているのですわね。」
ご令嬢失格の発言をした私に、リアム様は楽しげに笑われます。
「私も、たまにしか出ないのだが、やはり人が多いと、気後れして疲れてしまうね。」
リアム様は、私の顔をじっと眺めていましたが、決意なされたような険しい顔で、顔を近づけて来られました。
「アリア嬢、君にお願いがあるんだ。」
「はい。何でしょうか。」
「……私と、婚約してほしいんだ。」
「はい。仮の婚約者となる話ですわよね。聞いておりますわ。」
「いや、そうではなくて、私と結婚して欲しいんだ。そのための、本当の婚約者になって欲しいんだ。」
「私が、」
「アリアが。」
「リアム様と、」
「私と。」
「結婚?」
「うん。結婚してください。」
え?
「私と結婚するのは、嫌かな?」
「そんなことは……え。ちょっと待ってください。私は…仮の、婚約者で、あの……」
リアム様は流れるように、私の手を取り、跪いて、口付けました。勿論、手の甲に。口ではありません。
そうして、混乱している私を放り出したまま、私に結婚してください、と宣いました。
そこで、私は初めて知りました。私達をチラチラ見ていたのは、リアム様のご友人で、彼らは、リアム様が今日プロポーズすることをご存知だったのです。
「返事は?」
リアム様は意地悪ですわ。こんなにたくさんの方に見届けられた中で、断るなんてできません。
「私で……宜しければ。」
貧乏子爵家の娘にこれ以上、言えるわけないのです。
私は失恋と新しい恋を同時に経験したのでした。
きっと、私の恋はあの日、カイン様の浮気現場を見てしまったあの場に置き去りになったのです。エルザ様に頂いた魔道具のおかげで、それから今までの間、お会いしなかったことも、私がカイン様を忘れることに一役かって下さいました。
「失恋を癒すには新しい恋をするのが一番よ。」
クレアの一言が、思い出されます。そう考えて少し悲しくなります。私がこうして、初めての夜会を楽しめるのも、リアム様のような素敵な男性にエスコートされるのも、今だけだからです。
私は今だけの婚約者です。そのうち、リアム様に愛する方ができたら、すぐにでも解消されてしまいます。
私はただの貧乏子爵家の娘です。リアム様とは身分が違いすぎていることも理解しています。私は暗くなりかけた思考を元に戻します。今だけ許された夢なのですから、楽しまなくては勿体ない、と切り替えます。
私は今日を思い出にして、この先の人生を楽しく送りたいのですから。
「本日は、一緒にいてくださり、ありがとうございます。」
ダンスの後、リアム様は色々な貴族の方々に挨拶をするのを、今日は控えて私と一緒にいてくださるそうです。
「私は大丈夫ですので、リアム様は御用事を済ませて下さい。」
「いや、今日は何もないから、貴女といたいんだ。迷惑かな?」
「いいえ、そうではないのですが。よろしいのですか?」
ちらほらと、リアム様を見ていらっしゃる方達がいます。リアム様は視線を、遮るように立たれ、私の視界にはリアム様しか見えなくなりました。
リアム様の背中から、ため息でも聞こえてきそうです。
あまりの必死さに笑みが溢れます。
「少し話でもしようか。」
会場を出て、バルコニーには人がいましたが、私達を見ると、逃げていきました。後からきて、追い払ったみたいで、申し訳なくなります。
夜風は生暖かく、肩を出したドレスでも寒くはありません。
リアム様はそれでも、上着をぬいで、肩にかけて下さいます。
普段の仕事着と違い、露出の多さに戸惑っておりましたので、リアム様の気遣いは嬉しいものでした。
「慣れませんね。皆様、こんな大変なことをされているのですわね。」
ご令嬢失格の発言をした私に、リアム様は楽しげに笑われます。
「私も、たまにしか出ないのだが、やはり人が多いと、気後れして疲れてしまうね。」
リアム様は、私の顔をじっと眺めていましたが、決意なされたような険しい顔で、顔を近づけて来られました。
「アリア嬢、君にお願いがあるんだ。」
「はい。何でしょうか。」
「……私と、婚約してほしいんだ。」
「はい。仮の婚約者となる話ですわよね。聞いておりますわ。」
「いや、そうではなくて、私と結婚して欲しいんだ。そのための、本当の婚約者になって欲しいんだ。」
「私が、」
「アリアが。」
「リアム様と、」
「私と。」
「結婚?」
「うん。結婚してください。」
え?
「私と結婚するのは、嫌かな?」
「そんなことは……え。ちょっと待ってください。私は…仮の、婚約者で、あの……」
リアム様は流れるように、私の手を取り、跪いて、口付けました。勿論、手の甲に。口ではありません。
そうして、混乱している私を放り出したまま、私に結婚してください、と宣いました。
そこで、私は初めて知りました。私達をチラチラ見ていたのは、リアム様のご友人で、彼らは、リアム様が今日プロポーズすることをご存知だったのです。
「返事は?」
リアム様は意地悪ですわ。こんなにたくさんの方に見届けられた中で、断るなんてできません。
「私で……宜しければ。」
貧乏子爵家の娘にこれ以上、言えるわけないのです。
私は失恋と新しい恋を同時に経験したのでした。
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