浮気は私の方でした

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呪い返しの痕

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新しく入った侍女の顔に呪い返しの痕があることについて、侍女ははじめ、口を割らなかった。

「君はまさか……アリアに呪いを掛けたのか?」

「あの身の程知らずに、制裁を加えただけです。貴方の婚約者はララ様ではありませんか?あんな下賤な女では、ないはずです。」

下賤……誰のことだ?

……アリアか?アリアが、下賤だと?

「アリアは子爵家のご令嬢だ。確かに伯爵家よりは下位だが、下賤と言われる程の身の上ではない。」

「それでも、侯爵家のララ様の方がお立場が上です。私はカイン様の為に、邪魔な方を排除しようと……」

カインは目の前にいる侍女の言うことが、全くわからない。この婚約者騒動は、そもそも王命だが、本当に婚約することも、ましてや婚姻することもないものだ。

次期王太子がほぼ決定している第二王子が、婚約者のエルザ様の実家であるヒーラー侯爵家を使って、自分に反旗を翻しそうな家をあぶり出した。

ララ嬢には会ったことはあるにはあるが、よくは知らず、興味も特にない。そこで、リアム様を使わないところが性格が悪いと思うのだが、婚約者役にカインが選ばれた。

カインの不満は、全貌について、何も知らされなかったことにある。知っていたら、アリアを取られることもなく、今のような状況に陥ることもなかったのに。

何となくしてやられたように、思い苛々が募る。ヒーラー侯爵家は、代々魔道具で生計を立てている。魔力も多く、呪いをかけられた人間を見ると放っておけない。

それにしても、アリアに、目をつけられたのは、不覚だった。アリアは大切に閉じ込めておくべきだった。それか契約時に、アリアには手を出さないようにちゃんと釘をさしておくべきだったのだ。

はあ…

ため息をついて、侍女に向き直る。

カインと、ヒーラー侯爵家の間で取り交わされた契約を知らなくて、侍女を扱うことができる相手は一人だけ。

「知らないなら教えておいてやる。お前のその瘤は、命令した相手にも反映される。お前だけに、辛い目を押し付ける気はないが、一月程は、呪い返しの痕は続くだろう。

私はそれまでにお前の解雇を進言するつもりだ。母上が命じたこととは言え、撤回することはない。勿論、紹介状はない。」

ここにきてようやくことの次第を理解した侍女が顔を青ざめさせたが、話は終わった。

カインは、足早に、実父の元に向かう。

「確かに俺の周りには面倒な女しかいないらしい。」

アリアをこんな自分のそばに置かなくてすんだと思えば、少しはスッキリしたものの、やはり気分は晴れなかった。
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