浮気は私の方でした

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複雑な気持ち

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「なるほど。君が噂の二番手君か。」
失礼なことを言いながら、近づいてくるのは、アリアを私から奪おうとする、侯爵家のリアムだ。

伯爵家の嫡男である私からすると、敬わなくてはならない格上の相手だが。

今日は、この男との噂の真偽を確かめるために、手紙を書いて、アリアを呼び出したのに、何故か彼女は姿を見せず、彼が現れた。

「悪いんだけど、彼女にはこの手紙を見せていない。君とのことは、彼女の人生においては、汚点でしかないからね。ましてや、義妹の婚約者と付き合っていた、なんてのは。君も貴族ならわかるだろう。不貞なんてものは、明らかに男性に非があったところで、女性に、より多くの非難の目が向けられる。君は、彼女を不幸にしたいのか?」

アリアはここにやって来ない。思わぬ事実に打ちのめされる。

「私と、貴方の妹は、政略結婚で、しかもすぐにでも婚約は解消されると聞いていた。私は、ずっとアリアを好きだった。今まで、手を出せなかったのも、他のご令嬢とは本気度が違うからだ。貴方こそ、私への当て付けなら、アリアを自由にして私に返してください。」


「残念ながら、それは難しい。何故か?彼女は君の彼女達に、恨まれていたからだ。初めて見た時に、気がついた。彼女は貴方を想う人からある呪いをかけられていた。命の危険などはない、小さな小さな呪いだが、君と離れてからは、かけられていないことから、犯人は君の近くにいる人だと想像できる。

私の言っている話が嘘だと思うなら、自分の周りにいる女性の顔をじっくり見てあげるといいよ。十秒ぐらい見つめていると、うっすらと瘤みたいなものが、浮かびあがってくるはずだよ。

それは、その人がアリアを呪った証拠だよ。見る人がみたら、それは立派な呪い返しだからね?」

呪いも、呪い返しも、見たことはない。一度、魔法の授業で、痕を見たことがあるだけだ。


「アリアは大丈夫なんですか?」
たしか、呪いを受けたら、肉体と精神に影響があるのだったな。まさか、アリアがそんな目にあっていたなんて。

「ああ、もう元気だよ。ただ、君にはもう会わせることはできないんだ。短期間に呪いを何度も浴びると、それこそ死に至ることもあるからね。」

淡々と恐ろしいことを口にする。死に至る、と言う言葉で、背筋が寒くなる。

「私は今は会わない方がいいと言うことですね。」

絞り出すように、我慢して呟いた言葉を彼は嫌味で返す。

「そうだね。君ができることは、アリア嬢を呪った人を見つけて、罰を与えることじゃない?まあ、元々は君のせいでもあるんだけどね。

これはただの可能性でしかないけれど、伯爵家の中に一人はいると思うよ。君もくれぐれも気をつけてね。」

「伯爵家には、流石に、私は手を出していません。」

「だろうね。けれど、呪いをかける者の心理は様々だからね。君と付き合っていた彼女に嫉妬したのかもしれないし、たまたま見えただけかもしれない。けれど、彼女を貶めようと画策した証拠はちゃんとあるんだよ。誰か突き止めるのは、君にしかできない。やってくれるかな?」

断ることなど、できずに、足早に去ると、伯爵家に向かう。

使用人が早い帰りに驚いている。私は彼らを無視して、女性の使用人に向かい、片っ端から顔を眺めていく。若い女性は顔を赤くさせ、若くない女性はただ驚いている。

初めて何人かは全く見えなかった呪い返しの痕だったが、ある女性を見た時に、うっすらと瘤が見え始め、混乱する。

何故か?初めて見る女だ。こんな奴、いたかな?

私が彼女に真相を聞こうと、腕を掴んだ瞬間、さっき見ていた年配の使用人が、瘤に気がついた。

「あんた、誰を呪ったんだ?呪い返しの痕が出来ているよ。」

ああ、それ、私が言おうと思っていたのに。

「私も知りたいな。教えてくれる?」

ニッコリ笑うと、彼女はあからさまに怯えて後ずさる。

怯えるぐらいなら、しなきゃいいだろう。私はいけ好かない恋敵に、言われた通りになって、複雑な気持ちを噛み締めた。
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