浮気は私の方でした

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カインの女達

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カイン・バルトに群がる女達には、共通点がある。決してカインを独り占めにしたいとは思っていないこと。他に本命の相手がいること。カインはあくまで、都合の良い存在にすぎない。

カインは、自分が好きな相手と、自分を好きな相手とは分けて考えるようにしている。伯爵家と言う中途半端な立ち位置で、社交界を上手く渡るには、どうすればいいのか。

カインの本命は、婚約したものの一度も出会っていない侯爵令嬢ではない。彼女とは、話したことも無ければ、顔も見たことがない。ヒーラー侯爵家とは、この国の貴族なら、公爵家をすっ飛ばしてお近づきになりたいぐらいだがカイン自身は、特に興味を持たなかった。

カインは、婚約者以前に、好きな相手がいた。貧乏子爵家で、今は侍女をしていて、一緒にいるだけで心が休まる相手だ。

その彼女と、もう半年、会えなくなっている。手紙も届いているようだが、返事はない。忙しいのか、と近くまでいくのだが、事故があって、迂回しなきゃいけない、とか、タイミングが悪く、今帰ったとこ、とかそう言うすれ違いばかり起こる。

他の女とは、すぐに手を出すカインだが、彼女には未だに手を繋ぐか、おでこにキスぐらいで、中々手が出せない。

カインは薄々気がついている。自分が都合の良い男から、脱却しなければ、彼女は手に入らないことに。

そうは言っても、どこかのご婦人から、誘われれば、それを断る術を持たない。本命の人と会えない寂しさを私で癒すなら、本命の次に愛してもらえる。

私は彼女の一番になりたい。だから、他の人達の一番にはなり得ない。そのことを理解してくれないと付き合えない。

カインは、最近自分にお声がかからないのは、皆本命とうまくいっているから、と思い込んで密かに嬉しく思っていた。

実際には、ヒーラー侯爵家に睨まれてただ怯えていただけだが。






カインはある噂を聞いて、驚愕した。あの、ヒーラー侯爵家の長男であるリアムが、婚約した、と言うのだ。

相手は、子爵令嬢で、学園には通わず、リシャール侯爵家で働いていると言う。

カインは焦った。会ったこともない、婚約者の兄に、自分の愛するアリアを取られるなんて。

だから、連絡がなかったのだ。きっと彼女を強引に自分の物にしたに違いない。こんなことなら早く手を出しておけばよかった。

彼女と繋いだ手の感触を思い出す。

カインの目の奥には最後に会った日の血の気の失せた青白い彼女の顔が、浮かんで消える。

「アリア。」

笑顔が思い出せない。気がつけば、部屋で一人冷たくなった自分の手を握りしめていた。

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