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呪い返し 第一段階
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その日は朝からおかしかった。使用人達が自分の顔を見ながらおかしなことを言うのだ。
「お嬢様、どうされたのですか。その瘤は?どこかにぶつかられたのですか?」
「ああ、何てこと。本日のお約束は中止になさいましょう。」
瘤?何のこと?
人の顔を見ながら失礼なことを叫ぶ侍女に、不機嫌を通り越して心配になってくる。
何を言ってるの?鏡を覗いてみても、いつもの顔があるだけ。人の顔を見て、叫ぶなんて失礼な奴らだわ。
「何をふざけているの。私はいつもと変わらないわ。今日の約束は中止にしないわ。だってようやく招待されたのよ。行くに決まってるでしょう。いいから用意しなさい。間に合わなかったら、あんた達、クビにするわよ。」
「お嬢様、髪の毛を下ろして隠しましょう。それなら、これも上手く隠せますし。」
侍女はまだこのふざけた話を続ける気らしい。
「どうしてよ。いつも通りにしなさい。私を破滅させたいの?」
侍女は困惑の表情を浮かべたまま、私の言う通りに、髪を結い上げた。この髪型にしたのは、以前リアム様にお会いした時にこの髪型だったからだ。
同じ髪型だった方が思い出し易いかもしれない。
侍女の他に、執事にも、御者にも会ったが、皆一様に戸惑った顔をしていて、首を傾げた。
「何?貴方達、感じが悪いわね。私の顔に何かついているの?」
「ええ、失礼ですが、その瘤はどちらで……」
執事にまで、瘤が見えるらしい。彼が言うには、額に目を覆う程の瘤があるそうで、ご丁寧に、触って確かめさせてくれるが、当たり前だが、触っても何ともない。
「貴方達、本当にどうしたの?私を馬鹿にしてるの?早く侯爵家に行くわよ。」
乗り込んだ私に、諦めたように侍女と執事が見送り、馬車が走り出す。
私はイラついて、馬車に乗るなり、彼らから目を背けたので、彼らがヒソヒソ話をしていることに気づかなかった。
彼らは、私に現れた瘤について、思い当たることがあった。
「まさか、あれは、呪い返しでしょうか。」
「お嬢様が何てことを。いや、まだそうとは決まっていない。」
「けれど、あんなに大きな瘤があるのに、お嬢様には見えないなんて。第一段階ではないですか?」
「どちらにせよ、明日になれば、はっきりするだろう。このまま行くと、第二段階があるはずだ。」
「第二段階になれば、お嬢様はもう出歩けなくなりますわ。それに、あの様子ではヒーラー侯爵家にも入れないかもしれません。」
意外なことに、馬車のみが帰ってきたことで使用人一同は混乱した。
ヒーラー侯爵家の方々が、彼女の瘤に気がつかない訳がないからだ。
「もしかすると……ヒーラー侯爵家では、お嬢様の変化は当然だと思っていたのかもしれませんね。」
それはつまり、呪い返しを行った者が侯爵家の中にいると言うことで、そもそも侯爵家にお嬢様が呪いをかけた、と言うことだ。
あまりの事実に呆然となり、明日まで、と悠長なことを思わず、すぐにでも主人である伯爵に話を通さなくてはならない。
お嬢様には嫌われるかもしれないが、あのヒーラー侯爵家に呪いをかけるなど、醜聞でしかないのである。
そんなことをつゆほどもしらないセレーナと言えば、リアムの横にいる見覚えのある女に、目が点になっていた。
なんで、あの女が?
お互いに相手を覚えていたようで、あちら側も、気が付いているようである。ヒーラー侯爵家との繋がりはよくわからないが、あの調子では、彼女がカインと付き合っていた事実は知らないだろう。
タイミングよく、リアムと、あの女が席を外したので、せっかくだから教えて差し上げることにした。
「先程の方、カイン様と会った時にお見かけしましたわ。酷く仲睦まじく、往来でキスしていましたわ。まるで劇を見ているかのような……」
美しさでしたわ、と言いかけて、止まる。実際には彼女と自分の行動を逆に言うことで、自分を蚊帳の外に置こうとしただけなのだが、不穏な気配に顔を上げると、エルザ様の笑顔が目に入る。
何故か、とびっきりの笑顔なのに、怖く感じてしまう。
「まるで、劇を見ているかのように、美しいのかしら。主演女優さん?」
「いいえ、私はただの観客でして……」
「あら。そう?カインの浮気相手には全員に罰を与えようと思ってますの。ちゃんと謝るのであれば、慰謝料請求だけで済まそうと思っていましたのよ。けれど、ララのこともあるし、嘘つきには容赦しないことにしましたの。もう一度聞くわね、貴女、カインの浮気相手でしょう?」
「いいえ、ですから友人ですわ。さっきのあの女がカインを誑かした張本人です。」
「そう、残念だわ。貴女にはすでに兆候がでているから逃げられないことだけは、教えて差し上げるわ。それは、貴女がしたことに対する結果よ。私達に責任はありませんので、悪しからず。」
そう言って、追い出されてしまった。何なのよ、もう。
「お嬢様、どうされたのですか。その瘤は?どこかにぶつかられたのですか?」
「ああ、何てこと。本日のお約束は中止になさいましょう。」
瘤?何のこと?
人の顔を見ながら失礼なことを叫ぶ侍女に、不機嫌を通り越して心配になってくる。
何を言ってるの?鏡を覗いてみても、いつもの顔があるだけ。人の顔を見て、叫ぶなんて失礼な奴らだわ。
「何をふざけているの。私はいつもと変わらないわ。今日の約束は中止にしないわ。だってようやく招待されたのよ。行くに決まってるでしょう。いいから用意しなさい。間に合わなかったら、あんた達、クビにするわよ。」
「お嬢様、髪の毛を下ろして隠しましょう。それなら、これも上手く隠せますし。」
侍女はまだこのふざけた話を続ける気らしい。
「どうしてよ。いつも通りにしなさい。私を破滅させたいの?」
侍女は困惑の表情を浮かべたまま、私の言う通りに、髪を結い上げた。この髪型にしたのは、以前リアム様にお会いした時にこの髪型だったからだ。
同じ髪型だった方が思い出し易いかもしれない。
侍女の他に、執事にも、御者にも会ったが、皆一様に戸惑った顔をしていて、首を傾げた。
「何?貴方達、感じが悪いわね。私の顔に何かついているの?」
「ええ、失礼ですが、その瘤はどちらで……」
執事にまで、瘤が見えるらしい。彼が言うには、額に目を覆う程の瘤があるそうで、ご丁寧に、触って確かめさせてくれるが、当たり前だが、触っても何ともない。
「貴方達、本当にどうしたの?私を馬鹿にしてるの?早く侯爵家に行くわよ。」
乗り込んだ私に、諦めたように侍女と執事が見送り、馬車が走り出す。
私はイラついて、馬車に乗るなり、彼らから目を背けたので、彼らがヒソヒソ話をしていることに気づかなかった。
彼らは、私に現れた瘤について、思い当たることがあった。
「まさか、あれは、呪い返しでしょうか。」
「お嬢様が何てことを。いや、まだそうとは決まっていない。」
「けれど、あんなに大きな瘤があるのに、お嬢様には見えないなんて。第一段階ではないですか?」
「どちらにせよ、明日になれば、はっきりするだろう。このまま行くと、第二段階があるはずだ。」
「第二段階になれば、お嬢様はもう出歩けなくなりますわ。それに、あの様子ではヒーラー侯爵家にも入れないかもしれません。」
意外なことに、馬車のみが帰ってきたことで使用人一同は混乱した。
ヒーラー侯爵家の方々が、彼女の瘤に気がつかない訳がないからだ。
「もしかすると……ヒーラー侯爵家では、お嬢様の変化は当然だと思っていたのかもしれませんね。」
それはつまり、呪い返しを行った者が侯爵家の中にいると言うことで、そもそも侯爵家にお嬢様が呪いをかけた、と言うことだ。
あまりの事実に呆然となり、明日まで、と悠長なことを思わず、すぐにでも主人である伯爵に話を通さなくてはならない。
お嬢様には嫌われるかもしれないが、あのヒーラー侯爵家に呪いをかけるなど、醜聞でしかないのである。
そんなことをつゆほどもしらないセレーナと言えば、リアムの横にいる見覚えのある女に、目が点になっていた。
なんで、あの女が?
お互いに相手を覚えていたようで、あちら側も、気が付いているようである。ヒーラー侯爵家との繋がりはよくわからないが、あの調子では、彼女がカインと付き合っていた事実は知らないだろう。
タイミングよく、リアムと、あの女が席を外したので、せっかくだから教えて差し上げることにした。
「先程の方、カイン様と会った時にお見かけしましたわ。酷く仲睦まじく、往来でキスしていましたわ。まるで劇を見ているかのような……」
美しさでしたわ、と言いかけて、止まる。実際には彼女と自分の行動を逆に言うことで、自分を蚊帳の外に置こうとしただけなのだが、不穏な気配に顔を上げると、エルザ様の笑顔が目に入る。
何故か、とびっきりの笑顔なのに、怖く感じてしまう。
「まるで、劇を見ているかのように、美しいのかしら。主演女優さん?」
「いいえ、私はただの観客でして……」
「あら。そう?カインの浮気相手には全員に罰を与えようと思ってますの。ちゃんと謝るのであれば、慰謝料請求だけで済まそうと思っていましたのよ。けれど、ララのこともあるし、嘘つきには容赦しないことにしましたの。もう一度聞くわね、貴女、カインの浮気相手でしょう?」
「いいえ、ですから友人ですわ。さっきのあの女がカインを誑かした張本人です。」
「そう、残念だわ。貴女にはすでに兆候がでているから逃げられないことだけは、教えて差し上げるわ。それは、貴女がしたことに対する結果よ。私達に責任はありませんので、悪しからず。」
そう言って、追い出されてしまった。何なのよ、もう。
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