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浮気されてました
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私は今の今まで自分のことをしっかりした人間だと思っていました。それは、何の役にも立たない思い込みであったことを思い知らされたのですが。
貧乏子爵家に生まれ、到底貴族令嬢などと呼べない生活をしていても、自分のやるべきことを理解して、身の丈に合わない贅沢などしない、真面目で面白味はないですが、それなりに幸せに生きていました。
婚約者はいませんでしたが、伯爵家の次男であるカイン様と恋に落ち、身分差を整えていつか一緒になれる日を夢見ていました。
私は貴族の子息令嬢が通う学園に入るお金もなかったので、学園には通わず、母の知り合いの伝手で、ある侯爵家に侍女見習いとして雇われることになりました。
恋人のカイン様は、学園に一緒に通えないことを残念がっていて、私も想像の中で、少しだけ残念には思ったものの、先立つものもありませんし、背に腹は変えられないと、諦める他ありませんでした。
働き始めて最初は覚えることばかりで、中々大変な日々を過ごしていました。住み込みでしたので、部屋に入るなり眠ってしまい、休みの日も、新しいことを覚える時間に充てていました。
しばらく働いて少し余裕が出てきた時、カイン様からお手紙が届きました。そろそろ仕事も慣れた頃だろう。ずっと我慢していたから会えないだろうか。と、書いてありました。
私も同じように会いたい想いが強くなってきていたので、嬉しくなり、次の休みに待ち合わせをすることにしました。
少しでも可愛いと思われたくて、デートに合いそうな服を探します。会えなかった時間に、綺麗になったと思わせたくて、より綺麗に大人っぽく見えるように研究をしました。
一緒に働いている侍女の先輩の中には伯爵家のご出身の方もいらっしゃいます。彼女は、私と歳が近いので、世話をやいてくださることが多く、私がしていたこともよく見ていて下さりました。
「アリア、デート?そんなに、ソワソワして。若いっていいわね。」
「もう、先輩だって、お若いじゃないですか。からかわないでください。」
「いや、だって、可愛くて。今度のお休みにデートに行くの?髪、やってあげるわ。その日、私も休みだから。」
「ええ?そんな、お手数かけられません。せっかくのお休みなのに。」
「いいのよ。可愛い後輩の、アリアの為だもの。今後の為の勉強だと思えば良いわ。もしかしたらケイトお嬢様に、して差し上げる機会があるかも知れないでしょ?」
ケイトお嬢様とは、この侯爵家のご令嬢でまだ二歳です。
「ケイトお嬢様の為だと、言われると断れないの、狡いです。」
先輩はニコニコしながら、協力を約束してくださいました。
学園に行かなくとも、友人と呼べる大切な人が出来て、私は幸せの真っ只中にいました。
「アリア、おはよう。ちゃんと眠れた?」
「はい。何だか緊張してましたけど、ちゃんと寝ました。」
久々のお出かけであり、尚且つ好きな人に逢えるので、ドキドキして寝苦しかったのです。
「今から私がとっておきの魔法をかけてあげるわ。安心して。」
そう言って、先輩は髪と、私の顔に本当に魔法使いのように、素敵な魔法を掛けてくださいました。
「先輩、今度私にこの魔法、教えてくださいね。」
「いいわよ。ケイトお嬢様が大きくなるまでに、必ず教えてあげるわ。」
私は先輩に見送られ、待ち合わせ場所に向かいます。彼はまだ来ていないようでした。
可愛くして貰った自分は、少しだけ別人みたいです。嬉しくて、街のショーウィンドウをチラチラと見てしまいます。浮かれていたのがわかったのか、周りの人達に見られているような感覚に陥りますが、私は時間まで今か今かと、彼を待っていました。
平民にしては、身なりの良い男女が現れました。二人とも、お互いしか見えていないようで、見つめ合っています。私は全く知らない筈の、その平民の男性の後姿に、見覚えがあり、胸騒ぎを覚えました。
彼は彼女を切なげに見つめると、往来で激しいキスを交わし始めました。
目のやり場に困ります。
私はやはりその後姿を知っている気がして、二人の姿から目を離せませんでした。驚いたのは、向こうも同じでした。
私がじっと見つめていると、ようやくこちらを向き、そしてお互いに理解しました。
その男はカイン様でした。私は、カイン様の浮気現場に遭遇してしまい、カイン様は、待ち合わせ中の私に気がつかなかっただけの話です。
カイン様は、先輩の手によって、綺麗に変身した私を私だと思っておらず、あのような熱烈な行為に及んだようです。
私はそれからのことをよく覚えていません。どうやら、侯爵家に帰ったらしいのですが、泣きすぎて頭が痛い以外には、カイン様に対して何を言って何をしたか、さっぱり思い出せないのです。
貧乏子爵家に生まれ、到底貴族令嬢などと呼べない生活をしていても、自分のやるべきことを理解して、身の丈に合わない贅沢などしない、真面目で面白味はないですが、それなりに幸せに生きていました。
婚約者はいませんでしたが、伯爵家の次男であるカイン様と恋に落ち、身分差を整えていつか一緒になれる日を夢見ていました。
私は貴族の子息令嬢が通う学園に入るお金もなかったので、学園には通わず、母の知り合いの伝手で、ある侯爵家に侍女見習いとして雇われることになりました。
恋人のカイン様は、学園に一緒に通えないことを残念がっていて、私も想像の中で、少しだけ残念には思ったものの、先立つものもありませんし、背に腹は変えられないと、諦める他ありませんでした。
働き始めて最初は覚えることばかりで、中々大変な日々を過ごしていました。住み込みでしたので、部屋に入るなり眠ってしまい、休みの日も、新しいことを覚える時間に充てていました。
しばらく働いて少し余裕が出てきた時、カイン様からお手紙が届きました。そろそろ仕事も慣れた頃だろう。ずっと我慢していたから会えないだろうか。と、書いてありました。
私も同じように会いたい想いが強くなってきていたので、嬉しくなり、次の休みに待ち合わせをすることにしました。
少しでも可愛いと思われたくて、デートに合いそうな服を探します。会えなかった時間に、綺麗になったと思わせたくて、より綺麗に大人っぽく見えるように研究をしました。
一緒に働いている侍女の先輩の中には伯爵家のご出身の方もいらっしゃいます。彼女は、私と歳が近いので、世話をやいてくださることが多く、私がしていたこともよく見ていて下さりました。
「アリア、デート?そんなに、ソワソワして。若いっていいわね。」
「もう、先輩だって、お若いじゃないですか。からかわないでください。」
「いや、だって、可愛くて。今度のお休みにデートに行くの?髪、やってあげるわ。その日、私も休みだから。」
「ええ?そんな、お手数かけられません。せっかくのお休みなのに。」
「いいのよ。可愛い後輩の、アリアの為だもの。今後の為の勉強だと思えば良いわ。もしかしたらケイトお嬢様に、して差し上げる機会があるかも知れないでしょ?」
ケイトお嬢様とは、この侯爵家のご令嬢でまだ二歳です。
「ケイトお嬢様の為だと、言われると断れないの、狡いです。」
先輩はニコニコしながら、協力を約束してくださいました。
学園に行かなくとも、友人と呼べる大切な人が出来て、私は幸せの真っ只中にいました。
「アリア、おはよう。ちゃんと眠れた?」
「はい。何だか緊張してましたけど、ちゃんと寝ました。」
久々のお出かけであり、尚且つ好きな人に逢えるので、ドキドキして寝苦しかったのです。
「今から私がとっておきの魔法をかけてあげるわ。安心して。」
そう言って、先輩は髪と、私の顔に本当に魔法使いのように、素敵な魔法を掛けてくださいました。
「先輩、今度私にこの魔法、教えてくださいね。」
「いいわよ。ケイトお嬢様が大きくなるまでに、必ず教えてあげるわ。」
私は先輩に見送られ、待ち合わせ場所に向かいます。彼はまだ来ていないようでした。
可愛くして貰った自分は、少しだけ別人みたいです。嬉しくて、街のショーウィンドウをチラチラと見てしまいます。浮かれていたのがわかったのか、周りの人達に見られているような感覚に陥りますが、私は時間まで今か今かと、彼を待っていました。
平民にしては、身なりの良い男女が現れました。二人とも、お互いしか見えていないようで、見つめ合っています。私は全く知らない筈の、その平民の男性の後姿に、見覚えがあり、胸騒ぎを覚えました。
彼は彼女を切なげに見つめると、往来で激しいキスを交わし始めました。
目のやり場に困ります。
私はやはりその後姿を知っている気がして、二人の姿から目を離せませんでした。驚いたのは、向こうも同じでした。
私がじっと見つめていると、ようやくこちらを向き、そしてお互いに理解しました。
その男はカイン様でした。私は、カイン様の浮気現場に遭遇してしまい、カイン様は、待ち合わせ中の私に気がつかなかっただけの話です。
カイン様は、先輩の手によって、綺麗に変身した私を私だと思っておらず、あのような熱烈な行為に及んだようです。
私はそれからのことをよく覚えていません。どうやら、侯爵家に帰ったらしいのですが、泣きすぎて頭が痛い以外には、カイン様に対して何を言って何をしたか、さっぱり思い出せないのです。
応援ありがとうございます!
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