踏み台(王女)にも事情はある

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我儘な王女

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「お前の婚約者は、望み通りに聖騎士から選んだ。」

幼い王女を喜ばせたその言葉は、少しの悪意と勘違いによって、王女の輝かしい未来を奪った。

王女が望んだ聖騎士は、婚約者の顔合わせには現れなかった。代わりに現れたのは彼とは似ても似つかない、「アイラール公爵家の愚息」ダミアン。

王女は昔からその魔力量の多さと、魔法の才能に、将来を期待されていた。治癒魔法を使えたことから、聖女としても王女に期待する声が多かった。自分が聖女となるなら、と婚約者には聖騎士トビアス・ガーランドを希望した。彼自身も聖女として以前にイザベラ自身を好ましく思っていてくれたようで、婚約は秒読みだった。

だが、そうはならなかった。

王女は聖女にならず、トビアスとの婚約も叶わない。理由は隣国との戦において、王太子がやらかしたある失態だった。

彼はよりにもよって、同盟国の国王陛下の愛妾を寝取ったのだ。自国に婚約者を置き、兵士が命をかけて戦っている最中に。同盟は破棄され、王太子の婚約者は愛妾の身代わりに同盟国の王に嫁いだ。

王太子は戦死した。

王太子の元婚約者は、嫁いだものの、度重なる心労から体を壊し、早いうちに離縁され、戻って来ていた。

単身で向かった彼女が連れて帰って来たのが、今の聖女ビアンカである。ビアンカは聖女とは名ばかりの、同盟国でお荷物とされた少女である。

彼女はある事件の犠牲者の一人で、身寄りがなかった。同盟国は元王太子のやらかしも、離縁も、少女を引き取ってくれるなら全て水に流すと言った。

正式な書類として、受け取ったそれは、受け入れるしか選択肢のない、一方的な命令だった。

兄の婚約者は、イザベラとは余り仲が良くなかったが、何もできない少女を自国の聖女とする彼方の悪意をイザベラに押し付ける程の思いはなく、自分自身の無力感に押し潰されるようになって、表舞台から姿を消した。

彼女は自身の婚約者が王女に潰されるのが怖くて、王女の婚約者を敢えて間違えて選んだ罪悪感に耐えられなかった。

なら最初から、しなければいいとは思うが、あの時の派閥の勢力図を考えれば幾らかは同情の余地はある。



王太子が亡くなって、同盟もなくなって、聖女でもなくなって、王女ができること。

我儘な王女はそれでも、聖女を助けようともがいた。民を助けようとして、トビアスとの未来を諦めた。のだったが。

ある人が言った。

「貴女は王女なのです。少しぐらい我儘を通しても許されますよ。ましてや踏み台として生きると覚悟するぐらいですから。例え人知れず幸せになっても誰も文句は言いません。」と。

全てを手に入れるには、どうしたら?我儘な王女は考える。皆が幸せになる方法を。考えるのは楽しかった。皆の笑顔を想像したらいいのだから。何よりもトビアスが側に居てくれたなら、それだけで百人力だと、素直にそう思えた。
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