7 / 14
我儘な王女
しおりを挟む
「お前の婚約者は、望み通りに聖騎士から選んだ。」
幼い王女を喜ばせたその言葉は、少しの悪意と勘違いによって、王女の輝かしい未来を奪った。
王女が望んだ聖騎士は、婚約者の顔合わせには現れなかった。代わりに現れたのは彼とは似ても似つかない、「アイラール公爵家の愚息」ダミアン。
王女は昔からその魔力量の多さと、魔法の才能に、将来を期待されていた。治癒魔法を使えたことから、聖女としても王女に期待する声が多かった。自分が聖女となるなら、と婚約者には聖騎士トビアス・ガーランドを希望した。彼自身も聖女として以前にイザベラ自身を好ましく思っていてくれたようで、婚約は秒読みだった。
だが、そうはならなかった。
王女は聖女にならず、トビアスとの婚約も叶わない。理由は隣国との戦において、王太子がやらかしたある失態だった。
彼はよりにもよって、同盟国の国王陛下の愛妾を寝取ったのだ。自国に婚約者を置き、兵士が命をかけて戦っている最中に。同盟は破棄され、王太子の婚約者は愛妾の身代わりに同盟国の王に嫁いだ。
王太子は戦死した。
王太子の元婚約者は、嫁いだものの、度重なる心労から体を壊し、早いうちに離縁され、戻って来ていた。
単身で向かった彼女が連れて帰って来たのが、今の聖女ビアンカである。ビアンカは聖女とは名ばかりの、同盟国でお荷物とされた少女である。
彼女はある事件の犠牲者の一人で、身寄りがなかった。同盟国は元王太子のやらかしも、離縁も、少女を引き取ってくれるなら全て水に流すと言った。
正式な書類として、受け取ったそれは、受け入れるしか選択肢のない、一方的な命令だった。
兄の婚約者は、イザベラとは余り仲が良くなかったが、何もできない少女を自国の聖女とする彼方の悪意をイザベラに押し付ける程の思いはなく、自分自身の無力感に押し潰されるようになって、表舞台から姿を消した。
彼女は自身の婚約者が王女に潰されるのが怖くて、王女の婚約者を敢えて間違えて選んだ罪悪感に耐えられなかった。
なら最初から、しなければいいとは思うが、あの時の派閥の勢力図を考えれば幾らかは同情の余地はある。
王太子が亡くなって、同盟もなくなって、聖女でもなくなって、王女ができること。
我儘な王女はそれでも、聖女を助けようともがいた。民を助けようとして、トビアスとの未来を諦めた。のだったが。
ある人が言った。
「貴女は王女なのです。少しぐらい我儘を通しても許されますよ。ましてや踏み台として生きると覚悟するぐらいですから。例え人知れず幸せになっても誰も文句は言いません。」と。
全てを手に入れるには、どうしたら?我儘な王女は考える。皆が幸せになる方法を。考えるのは楽しかった。皆の笑顔を想像したらいいのだから。何よりもトビアスが側に居てくれたなら、それだけで百人力だと、素直にそう思えた。
幼い王女を喜ばせたその言葉は、少しの悪意と勘違いによって、王女の輝かしい未来を奪った。
王女が望んだ聖騎士は、婚約者の顔合わせには現れなかった。代わりに現れたのは彼とは似ても似つかない、「アイラール公爵家の愚息」ダミアン。
王女は昔からその魔力量の多さと、魔法の才能に、将来を期待されていた。治癒魔法を使えたことから、聖女としても王女に期待する声が多かった。自分が聖女となるなら、と婚約者には聖騎士トビアス・ガーランドを希望した。彼自身も聖女として以前にイザベラ自身を好ましく思っていてくれたようで、婚約は秒読みだった。
だが、そうはならなかった。
王女は聖女にならず、トビアスとの婚約も叶わない。理由は隣国との戦において、王太子がやらかしたある失態だった。
彼はよりにもよって、同盟国の国王陛下の愛妾を寝取ったのだ。自国に婚約者を置き、兵士が命をかけて戦っている最中に。同盟は破棄され、王太子の婚約者は愛妾の身代わりに同盟国の王に嫁いだ。
王太子は戦死した。
王太子の元婚約者は、嫁いだものの、度重なる心労から体を壊し、早いうちに離縁され、戻って来ていた。
単身で向かった彼女が連れて帰って来たのが、今の聖女ビアンカである。ビアンカは聖女とは名ばかりの、同盟国でお荷物とされた少女である。
彼女はある事件の犠牲者の一人で、身寄りがなかった。同盟国は元王太子のやらかしも、離縁も、少女を引き取ってくれるなら全て水に流すと言った。
正式な書類として、受け取ったそれは、受け入れるしか選択肢のない、一方的な命令だった。
兄の婚約者は、イザベラとは余り仲が良くなかったが、何もできない少女を自国の聖女とする彼方の悪意をイザベラに押し付ける程の思いはなく、自分自身の無力感に押し潰されるようになって、表舞台から姿を消した。
彼女は自身の婚約者が王女に潰されるのが怖くて、王女の婚約者を敢えて間違えて選んだ罪悪感に耐えられなかった。
なら最初から、しなければいいとは思うが、あの時の派閥の勢力図を考えれば幾らかは同情の余地はある。
王太子が亡くなって、同盟もなくなって、聖女でもなくなって、王女ができること。
我儘な王女はそれでも、聖女を助けようともがいた。民を助けようとして、トビアスとの未来を諦めた。のだったが。
ある人が言った。
「貴女は王女なのです。少しぐらい我儘を通しても許されますよ。ましてや踏み台として生きると覚悟するぐらいですから。例え人知れず幸せになっても誰も文句は言いません。」と。
全てを手に入れるには、どうしたら?我儘な王女は考える。皆が幸せになる方法を。考えるのは楽しかった。皆の笑顔を想像したらいいのだから。何よりもトビアスが側に居てくれたなら、それだけで百人力だと、素直にそう思えた。
138
お気に入りに追加
780
あなたにおすすめの小説
【完結】わたしの欲しい言葉
彩華(あやはな)
恋愛
わたしはいらない子。
双子の妹は聖女。生まれた時から、両親は妹を可愛がった。
はじめての旅行でわたしは置いて行かれた。
わたしは・・・。
数年後、王太子と結婚した聖女たちの前に現れた帝国の使者。彼女は一足の靴を彼らの前にさしだしたー。
*ドロッとしています。
念のためティッシュをご用意ください。
初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました
山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。
だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。
なろうにも投稿しています。
私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?
山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜
彩華(あやはな)
恋愛
一つの密約を交わし聖女になったわたし。
わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。
王太子はわたしの大事な人をー。
わたしは、大事な人の側にいきます。
そして、この国不幸になる事を祈ります。
*わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。
*ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。
ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。
離縁をさせて頂きます、なぜなら私は選ばれたので。
kanon
恋愛
「アリシア、お前はもうこの家に必要ない。ブライト家から追放する」
父からの予想外の言葉に、私は目を瞬かせる。
我が国でも名高いブライト伯爵家のだたっぴろい応接間。
用があると言われて足を踏み入れた途端に、父は私にそう言ったのだ。
困惑する私を楽しむように、姉のモンタナが薄ら笑いを浮かべる。
「あら、聞こえなかったのかしら? お父様は追放と言ったのよ。まさか追放の意味も知らないわけじゃないわよねぇ?」
神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)
京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。
生きていくために身を粉にして働く妹マリン。
家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。
ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。
姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」
司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」
妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」
※本日を持ちまして完結とさせていただきます。
更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。
ありがとうございました。
聖女の妹によって家を追い出された私が真の聖女でした
天宮有
恋愛
グーリサ伯爵家から聖女が選ばれることになり、長女の私エステルより妹ザリカの方が優秀だった。
聖女がザリカに決まり、私は家から追い出されてしまう。
その後、追い出された私の元に、他国の王子マグリスがやって来る。
マグリスの話を聞くと私が真の聖女で、これからザリカの力は消えていくようだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる