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聖女の治療
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聖女の元に行く予定はなかったデリクだが、そうはいかない事態が起きた。
新たな聖騎士からの要請があったのだ。彼は確かにダミアン・アイラールと同じ騎士服を身につけていた。要請とは言え非公式なものであったからには、デリクに断る自由もあったのだが、彼の言葉に興味を惹かれ、結局要請を素直に受けることになった。
「アレが申し訳ない。彼は聖騎士としての人生より王女様の婚約者としての人生が長かったおかげで、思い入れが強すぎて、周りが見えなくなっているのです。」
ガーランドと名乗った騎士は、ダミアン・アイラールを一応は庇った。だが、一般的な聖騎士は、ああではない、と突き放し、自分とは別の種類の人間だと言い切った辺り、心中は穏やかではないらしい。
彼は今も体調不良を訴えている聖女に治癒魔法を施してほしい、とデリクに願った。
「治癒魔法を使える人は、たくさんいるでしょうに。」
そう言えば、彼は今更言うのを躊躇うような姿を一度見せてから、此方に耳打ちするような姿勢で打ち明けた。
「ここだけの話、聖女様には普通の治癒魔法が効かないんです。今まではイザベラ様が治癒魔法を使えていたのでお願いしていたのですが、今は誰も使えませんので。」
「普通じゃない治癒魔法ってどんなものでしょう。」
「……それは、聖女様にお会いしていただければ、わかると思います。」
ダミアンほどではないが、ガーランドも腹芸はできないタイプだと、デリクは彼の様子を見て判断した。
「普通の治癒魔法」が効かないのではなく、「普通の治癒魔法師」には教えられない何かが聖女側にあるのは、明らかだ。
「ガーランド卿、私に頼むと言うのは、貴方の独断か?それとも誰かに指示されてのことか?」
「………ある方からの指示です。」
「その方は、聖女様ではない。」
「ええ、違います。」
此方側から話しかけない限り黙るのは、これ以上聞いてほしくないという意思表示だろうか。
「卿から見て、聖女はどう言った存在だ?」
「どう言った、とは」
「王女イザベラを抜きにして考えて、使い物になると思うかどうか、だ。」
「……私の口からは何とも言えません。」
もう少し探りを入れたかったのだが、残念ながら目的地に着いてしまった。
聖女が休んでいる部屋には、聖女の他に何人かの侍女が神官に監視されているような状態で存在していた。大方、治癒魔法を使える者を総動員して、治癒しようとしたが失敗したのだろう。
デリクは最小限の人数だけ残して後は出て行って貰い、治療を開始した。聖女の体質は、治癒魔法だけでなく、どの魔法も効きにくいという奇特なものだ。
「これは、大変だったでしょう。」
聖女の体質もさることながら、彼女に治癒魔法を使っていた王女が。
聖女の身体は、魔法をすり抜ける。弾くのではない。体に通りはするのだが、体に浸透せずにそのまま流れ出していく。
穴の空いたバケツのような聖女の身体に治癒魔法を使うには、魔法が漏れ出ないように栓をするところから始める必要がある。
これは確かに他の治癒魔法師には手に余るかもしれない。ただそれもデリクにかかれば簡単だ。
治療は済んだが、目を覚まさない聖女を心配していたガーランド卿は、それでもデリクに感謝して頭を下げた。
「目覚めた時にはきっと魔力酔いもなくなっていると思います。」
「ありがとうございます。」
「それで、代わりと言っては何ですが、お返しとして話を聞かせていただきたいのですが、宜しいですか。」
諦めた表情で頷き、ガーランド卿は腹を決めたようだった。彼の気が変わらないうちに聞きたいことを聞いておく。
彼は「答えられる範囲で」と断りを入れつつも答えてくれた。
新たな聖騎士からの要請があったのだ。彼は確かにダミアン・アイラールと同じ騎士服を身につけていた。要請とは言え非公式なものであったからには、デリクに断る自由もあったのだが、彼の言葉に興味を惹かれ、結局要請を素直に受けることになった。
「アレが申し訳ない。彼は聖騎士としての人生より王女様の婚約者としての人生が長かったおかげで、思い入れが強すぎて、周りが見えなくなっているのです。」
ガーランドと名乗った騎士は、ダミアン・アイラールを一応は庇った。だが、一般的な聖騎士は、ああではない、と突き放し、自分とは別の種類の人間だと言い切った辺り、心中は穏やかではないらしい。
彼は今も体調不良を訴えている聖女に治癒魔法を施してほしい、とデリクに願った。
「治癒魔法を使える人は、たくさんいるでしょうに。」
そう言えば、彼は今更言うのを躊躇うような姿を一度見せてから、此方に耳打ちするような姿勢で打ち明けた。
「ここだけの話、聖女様には普通の治癒魔法が効かないんです。今まではイザベラ様が治癒魔法を使えていたのでお願いしていたのですが、今は誰も使えませんので。」
「普通じゃない治癒魔法ってどんなものでしょう。」
「……それは、聖女様にお会いしていただければ、わかると思います。」
ダミアンほどではないが、ガーランドも腹芸はできないタイプだと、デリクは彼の様子を見て判断した。
「普通の治癒魔法」が効かないのではなく、「普通の治癒魔法師」には教えられない何かが聖女側にあるのは、明らかだ。
「ガーランド卿、私に頼むと言うのは、貴方の独断か?それとも誰かに指示されてのことか?」
「………ある方からの指示です。」
「その方は、聖女様ではない。」
「ええ、違います。」
此方側から話しかけない限り黙るのは、これ以上聞いてほしくないという意思表示だろうか。
「卿から見て、聖女はどう言った存在だ?」
「どう言った、とは」
「王女イザベラを抜きにして考えて、使い物になると思うかどうか、だ。」
「……私の口からは何とも言えません。」
もう少し探りを入れたかったのだが、残念ながら目的地に着いてしまった。
聖女が休んでいる部屋には、聖女の他に何人かの侍女が神官に監視されているような状態で存在していた。大方、治癒魔法を使える者を総動員して、治癒しようとしたが失敗したのだろう。
デリクは最小限の人数だけ残して後は出て行って貰い、治療を開始した。聖女の体質は、治癒魔法だけでなく、どの魔法も効きにくいという奇特なものだ。
「これは、大変だったでしょう。」
聖女の体質もさることながら、彼女に治癒魔法を使っていた王女が。
聖女の身体は、魔法をすり抜ける。弾くのではない。体に通りはするのだが、体に浸透せずにそのまま流れ出していく。
穴の空いたバケツのような聖女の身体に治癒魔法を使うには、魔法が漏れ出ないように栓をするところから始める必要がある。
これは確かに他の治癒魔法師には手に余るかもしれない。ただそれもデリクにかかれば簡単だ。
治療は済んだが、目を覚まさない聖女を心配していたガーランド卿は、それでもデリクに感謝して頭を下げた。
「目覚めた時にはきっと魔力酔いもなくなっていると思います。」
「ありがとうございます。」
「それで、代わりと言っては何ですが、お返しとして話を聞かせていただきたいのですが、宜しいですか。」
諦めた表情で頷き、ガーランド卿は腹を決めたようだった。彼の気が変わらないうちに聞きたいことを聞いておく。
彼は「答えられる範囲で」と断りを入れつつも答えてくれた。
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