踏み台(王女)にも事情はある

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魔物

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思った通り、魔物はまだ同じ場所にいた。ダミアンが一度見た魔物とは大きさが圧倒的に違ったが、魔物がいたという事実に混乱して、慌てるダミアンに、デリクの容赦ない手刀が飛んだ。

「うるさい。騒いで民を混乱させてどうするんだ。何のためにこうなっているのか本当にわからないというのか?」

デリクは最後の情けで確認したというのに、返ってきた言葉は、「王女が悔し紛れに仕込んでいたのですか?」だった為、彼に真実を察してもらうことは諦めた。

「そんなわけないだろう。彼女はあれでも王女なんだ。民を苦しめることは一時的にもしないだろう。」

デリクは、シスターフローレンスに手紙を貰っただけで、実際に王女イザベラに会ったわけではない。ただ彼女の、と思われる魔法の残滓で、彼女がこの国を民をどう思っていて、何をしたかったかは分かった。

「貴方は彼女に騙されているんだ。」

芝居のような大袈裟な手振りで、デリクを諭そうと試みるダミアンだが、デリクは正直、この男に付き合うのが面倒になっていた。

「私はここに調査をしにきたんだ。話をすり替えて、時間を無駄にしないでほしい。この魔物達は、すでに悪さができなくなっている。浄化魔法を受けた跡があり、魔力の多くを奪われているからだ。」

期待を込めて見るダミアンの頭の中はよくわかる。自分に都合の良いように事実を捻じ曲げているのがただの保身の為かは知らないが。

「浄化魔法を受けると、魔物は死にはしないけど、力は弱くなる。時に、君に聞きたいのだけど、聖女様はあれから魔法が使えなくなったんじゃないのかい?」

返事はしなくても、それだけ顔に出せば、肯定しているのと同じ。

「勿論、彼女は元々治癒魔法は使えなかったから、誰かがそれをフォローしていたよね?もしかして、王女様が全てフォローに回っていたんじゃないのかな。」

「そんなことは!」
「ないか……なら魔石を使ったのかな。魔石を使えば、治癒魔法を使えない人でもそれを使って治癒ができるからね。ああ、聖女様なら治癒なんて必要ないか。洗」
「聖女様を侮辱するのは許さない!」

少しカマをかけただけなのに、大声を出すから、心配した民が出てきてしまった。泣きそうな顔で「何でもない。ただ白熱してしまっただけだ。」と弁明する若き聖騎士と、片や見たこともない胡散臭い大人。

皆聖騎士の周りにいて、此方を睨みつけてくる。

最後まで言わせてはもらえなかったけど、聖女が扱える魔法は、洗脳魔法だ。治癒やら浄化は人任せ。でも自分でやったと洗脳し、痛みなどなくなったと錯覚させる。

果たしてそれは、聖女と呼んで良いのだろうか。

部下と合流するために、その場を離れると、聖騎士には渡さなかった魔物がデリクにある物を渡してきた。

掌サイズのほんのり青い魔石。

魔物の言葉はわからなかったが、掌に置いて見ると、わかることがある。

「王女は君達を守ろうとしたんだね。」

魔物の体には浄化魔法に隠れて、もう一つの魔法の痕跡があった。浄化魔法は王女、もう一つは推測するに、聖女が使ったものだろう。魔物の力を奪う魔法。

部下に持たされた資料には、今の聖女に起きている不調について書かれていた。

「魔力酔いのような症状、って書いてあるじゃないか。魔物の力を奪って、魔力酔いなら辻褄が合うか。」

魔力量は人による。一般的に平民より貴族の方が。貴族よりも王族の方が魔力は多い。聖女と言われてはいても王女の魔力量に比べれば、ゴミみたいなもので、聖女からすれば、それを奪いたくなる気持ちもわからなくもない。最初から王女を狙ったのか魔物を狙ったのかは定かではないが、どちらかの力を意図して奪いに行ったのは確かだ。


もしかしたら、魔物に関する討伐方法で揉めていたのかもしれない。

当初は、王女が加害者だと思われていたが、証拠が指し示す事実は、真逆で、王女が被害者だと告げている。

デリクはそれでも、まだ時期尚早として、真実だけを見ようと誓ったのだった。
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