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街の雰囲気と役に立たない男
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デリク・ヒューストンが向かった先は、街の食堂。ちょうどお昼時とあって、そこそこに人が入っていて、噂話やら愚痴やらが自然と耳に入ってくる。
王女の事件以降、聖女の扱いは一部王家預かりから、神殿預かりになったせいで聖女のスケジュールが過密になり、魔法の精度が落ちているそうだ。
「聖女様は文句も言わず、働いてくれているんだけどね。前よりも魔法が効かなくなったというか。奇跡は何度も起こりません、なんて言われたらそれまでなんだけど、疲れが溜まりやすくなったみたいで、前ならこんなこと、なかったんだけどね。」
「王女様が居なくなって、王家の求心力が落ちたと言ってもねぇ。聖女様のことを考えたら少しは休ませてあげなくちゃいけないのに。ずっと働き詰めだから聖女様も休みが足りないんじゃないか。」
「あの王女様だって、我儘だなんだと批判されていたけれど、聖女様の補佐をされていたんだろう?元はといえば王女の婚約者が聖女に懸想したのが悪いのに、王女だけが責められてかわいそうだよ。」
「でもいくら可哀想でも、魔物を使って聖女を襲わせるのはダメでしょ。聖女様が跳ね返せたから良かったけどさ。」
デリクは客の話を聞いて、聖女が跳ね返したという魔法について、考えていた。
魔物は跳ね返した魔法によって霧散したらしい、と彼らは話していたが、魔物が果たしてそれだけで消えるだろうか。
霧散したように見せかけて、隠れて生きている可能性は大いにある。
それに純粋に魔法だけを跳ね返すなんて高度なことを聖女ができたのかどうか。
デリクは店を出てから、気になる箇所を見て回る。お目当てのものはやはり、そこにあって、彼の仮説が正しいものであることを証明してくれた。
「こうなってくると、あの話は嘘か狂言か……もしくは、計画の一部であったか。」
ぶつぶつと呟きながら歩くデリクはふと自分を見ている男に気がついた。知り合いではなかったが、彼が身に纏っている魔力に見覚えがあり、大体の見当はついた。
男は苦労など一切したこともない、と言わんばかりの貴族らしい傲慢さを隠しもせず、慇懃無礼な様子で挨拶をした。
「ダミアン・アイラール」
彼は王女イザベラの元婚約者で聖女に懸想していると噂の聖騎士の一人だ。
デリクは彼に用はなかったが、向こうは違うようで、あの事件の再調査に乗り出したデリクを警戒しているように見えた。
「聖女様にお会いするときは私を通して欲しい。」
そう言って牽制する姿は、いかにも恋する男で、もう少し若い頃なら、褒められるだけで済んだのだが、デリクには、若干気味悪く思えた。この年で恋愛脳とは、平和すぎた代償か?
「何となく事情は察していますが、此方も仕事ですので。聖女様にお話を聞く際に邪魔をすれば、下手すれば聖騎士の任すら解かれる場合もありますので、ご了承ください。」
ダミアン・アイラールは、そこまでの覚悟はなかったのか、渋々と言った様子で体の強張りを解いた。デリクの見た感じ、余り腹芸は得意ではないようだ。
「あの事件の時、貴方はそばに居たのですか?」
「ええ、勿論です。どこからか現れた魔物が聖女に襲いかかり、聖女がそれらを跳ね除けて、近くにいた王女に当たった。その一連の流れを見ています。」
「不審に思ったことはありませんか。」
「何がですか?」
「魔物はどこから現れたのか。そしてどこに行ったのか。」
「王女が魔物を呼び、聖女が討伐した。それが全てです。」
「……成る程。考えるのを放棄しましたか。これなら王女に捨てられるのも納得です。」
デリクの言葉にまたもや傷ついたような顔をしている男にデリクは静かに怒っていた。
「魔物はまだいますよ。多分同じ場所に。今から一緒に確認に行きましょう。」
有無を言わさず、さっさと歩き出すと、ダミアンは何も言わずについてきた。
王女の事件以降、聖女の扱いは一部王家預かりから、神殿預かりになったせいで聖女のスケジュールが過密になり、魔法の精度が落ちているそうだ。
「聖女様は文句も言わず、働いてくれているんだけどね。前よりも魔法が効かなくなったというか。奇跡は何度も起こりません、なんて言われたらそれまでなんだけど、疲れが溜まりやすくなったみたいで、前ならこんなこと、なかったんだけどね。」
「王女様が居なくなって、王家の求心力が落ちたと言ってもねぇ。聖女様のことを考えたら少しは休ませてあげなくちゃいけないのに。ずっと働き詰めだから聖女様も休みが足りないんじゃないか。」
「あの王女様だって、我儘だなんだと批判されていたけれど、聖女様の補佐をされていたんだろう?元はといえば王女の婚約者が聖女に懸想したのが悪いのに、王女だけが責められてかわいそうだよ。」
「でもいくら可哀想でも、魔物を使って聖女を襲わせるのはダメでしょ。聖女様が跳ね返せたから良かったけどさ。」
デリクは客の話を聞いて、聖女が跳ね返したという魔法について、考えていた。
魔物は跳ね返した魔法によって霧散したらしい、と彼らは話していたが、魔物が果たしてそれだけで消えるだろうか。
霧散したように見せかけて、隠れて生きている可能性は大いにある。
それに純粋に魔法だけを跳ね返すなんて高度なことを聖女ができたのかどうか。
デリクは店を出てから、気になる箇所を見て回る。お目当てのものはやはり、そこにあって、彼の仮説が正しいものであることを証明してくれた。
「こうなってくると、あの話は嘘か狂言か……もしくは、計画の一部であったか。」
ぶつぶつと呟きながら歩くデリクはふと自分を見ている男に気がついた。知り合いではなかったが、彼が身に纏っている魔力に見覚えがあり、大体の見当はついた。
男は苦労など一切したこともない、と言わんばかりの貴族らしい傲慢さを隠しもせず、慇懃無礼な様子で挨拶をした。
「ダミアン・アイラール」
彼は王女イザベラの元婚約者で聖女に懸想していると噂の聖騎士の一人だ。
デリクは彼に用はなかったが、向こうは違うようで、あの事件の再調査に乗り出したデリクを警戒しているように見えた。
「聖女様にお会いするときは私を通して欲しい。」
そう言って牽制する姿は、いかにも恋する男で、もう少し若い頃なら、褒められるだけで済んだのだが、デリクには、若干気味悪く思えた。この年で恋愛脳とは、平和すぎた代償か?
「何となく事情は察していますが、此方も仕事ですので。聖女様にお話を聞く際に邪魔をすれば、下手すれば聖騎士の任すら解かれる場合もありますので、ご了承ください。」
ダミアン・アイラールは、そこまでの覚悟はなかったのか、渋々と言った様子で体の強張りを解いた。デリクの見た感じ、余り腹芸は得意ではないようだ。
「あの事件の時、貴方はそばに居たのですか?」
「ええ、勿論です。どこからか現れた魔物が聖女に襲いかかり、聖女がそれらを跳ね除けて、近くにいた王女に当たった。その一連の流れを見ています。」
「不審に思ったことはありませんか。」
「何がですか?」
「魔物はどこから現れたのか。そしてどこに行ったのか。」
「王女が魔物を呼び、聖女が討伐した。それが全てです。」
「……成る程。考えるのを放棄しましたか。これなら王女に捨てられるのも納得です。」
デリクの言葉にまたもや傷ついたような顔をしている男にデリクは静かに怒っていた。
「魔物はまだいますよ。多分同じ場所に。今から一緒に確認に行きましょう。」
有無を言わさず、さっさと歩き出すと、ダミアンは何も言わずについてきた。
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