踏み台(王女)にも事情はある

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修道院の聖母様

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「孤島の監獄」と呼ばれ、罪人すらその場所を恐れる修道院がある。実際、外界からの接触はほとんどなく、世界から切り離され、取り残されたような感覚に陥りやすいことから、己を見つめなおすには最適な場所として、今も昔も罪人や逆に酷い目に遭った女性に人気だ。前者は他者に連れてこられ、後者は自ら門を叩く。そういった違いはあれど、そこに入れば皆遅かれ早かれ更生し、真人間になるのだから、ある意味恐ろしいことである。

シスターフローレンスは、連れてこられた罪人が、そのような人物には見えなかった。どちらかと言うと虐げられ居場所をなくしたかのように見える彼女は、嫉妬から聖女と呼ばれる女性に魔物をけしかけた罪で国を追われた元王女だった。

祖国では手がつけられないほどの我儘娘だと言われていた彼女だが、修道院の生活に文句も言わず、粛々と過ごし、祈りの時間もしっかりとこなし、治癒魔法まで扱える彼女を見ているうちに、シスターフローレンスは、ある疑いを抱いた。

彼女は嵌められたのではないだろうか。

話を聞くに、本人は祖国にあまりいい思い出がないようだし、虐げられていたのも本当のようである。普段は全く興味がなくて放置しているのだが、各国から送られてくる罪人に何かあると思ったとき第三者機関に申し立てができる権利をこの修道院も持っていた。修道院と言うよりは公正を重んじるシスターフローレンスに送られた信頼の証のそれを、彼女はこの元王女に使おうと思っていた。

そうして、我儘な王女とされたイザベラの再調査は行われたのである。

再調査に向かったのは、第三者機関の若きエース、デリク・ヒューストン。彼は魔法の権威で、どれだけ昔の痕跡でも、見つけてその残滓を追うことができる。

イザベラを修道院に追いやった国は、最近ある理由で世界的に有名になった国だ。デリクは、密かに調べようとしていた国に、大手を振って乗り込める理由が出来たことに、喜んだ。

イザベラの祖国は今原因不明の病に侵されていた。時期としてはイザベラが修道院に入って一ヶ月後ぐらいなので、中にはその病すらも王女のせいだと、関与を疑った者もいるらしい。だが、それは聖女ビアンカの言葉によって事実ではないと証明されている。

「聖女ビアンカねぇ……」

王女の修道院行きの原因となった女。デリクは自らの体にかけられた加護の力を最大にし、国境に足を踏み入れる。入った瞬間、大きな力に支配されそうになって、デリクは驚いた。

「ああ、そういう……」

王女が居なくなってこうなった理由も、何故王女が修道院に行かされる羽目になったかも、デリクは一瞬で理解した。

だが、証拠を集めない限りはまだ帰れない。デリクは通信用の魔道具で現状を部下に伝えると、彼らの到着を待つ間、街の雰囲気を、確認することにした。

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