初恋は叶わないと知っている

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エミリー

運命の目

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「運命の目、ですか?」
聞き慣れない言葉に戸惑うも、キャサリンはエミリーとは違い、特別驚いている様子はない。
「そう。第一王子殿下の瞳は、婚約者の姿しか見れないの。それは比喩表現ではなくて、本当に彼女の姿しかはっきりと見ることが出来ないと言われているの。」

「第一王子は、目がお悪いの?」
雲の上の存在ではあるが、王家主催の夜会などでは、何度かお目にかかったこともある美しい王子の姿を思い浮かべる。あの時、特に目が不自由な素振りは見られなかった。

「そうではないのよ。全く見えないと言うわけではないの。ある条件下において、制約があるの。二人が一緒になる為に、その誓いが覆らないように余所見を出来なくするのよ。見えなければ、好きにはならないでしょう?ただし、目に見えて制約があるのは、異性の姿だけ、それも男性側だけの制約なのよね。」

何だか極端な話だ。不貞をするのは男性ばかりだから、だろうか。それでも、数は少ないが女性だってする人はするだろうに。

「男性には呪いみたいですけれど、女性には何も制約はないのですか?」

エミリーの素朴な疑問には、キャサリンが代わりに答えてくれる。

「女性側の制約は、表面には現れないものだと聞いたことがあるわ。嘘がつけなくなる、とかそう言った感じの制約だったような。」


「よく知ってるわね。残念ながら何が制約かは個人差があるから、正確にはわからないのよ。だけど、確か隠しておきたいことが隠せなくなる、と言ったような制約だったように思うわ。」

「運命の目の話はお恥ずかしながら、私は聞いたことがなかったのですが、よくあることなのですか?」

「頻繁には無いけれど、偶にあるわね。ただし、伝承として残っているものはどれも曖昧で、御伽噺みたいなものだと認識されているわ。正確な文献はどこかに隠されている、と聞いたことがあるわ。歴代の王家が不都合なことを隠している、と言われているけれど、それはよくある陰謀論みたいなもので、それこそ真偽ははっきりしていないわ。確かめることはできないし。」

何とも曖昧な話だ。

「でもそれなら、回避することはできないのでしょうか。それってまるで、意に沿わない婚約も強いられるようで、怖いのですが。」

好き同士なら、良いという訳でもないが、政略でもないのに、好きでは無い相手と添い遂げなきゃいけないなんて、罰ゲームじゃないか。

「それもね、誰にでも出るわけじゃ無いみたいよ。一応ある時期に一度でも、互いにこの人と添い遂げたい、だとか運命だと思わなきゃ、その兆候は現れないことになっているの。実際小さい時の口約束でも、条件に合えば現れるみたいだから、不幸なことは不幸よね。」

幼い頃の口約束と聞いて、エミリーは、ふと自嘲した。オリバーは初恋だが、あの頃から彼はエミリーに愛を囁くことは一度たりともなかった。だから、運命の目なんかで縛ることはできない。とは言え、そのことに今では心底ホッとしている。もし今の様な状況で運命の人が彼ならば、エミリーには幸せな未来など訪れないことが確定しているからだ。

「ある意味、恐怖よね。女性は知らないうちに自分を運命とする男性に執着されてしまっている、と言う状況でしょ?」

「そうよね。解除方法とかないのかしら。」

執着……愛などではない、別物。そのベースが愛だったとしても、運命になった途端、愛がなくなるなんて皮肉だ。

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