馬鹿につける薬あります

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「それで、今頃悔しくなって泣いてる、と。」
「うるさい。彼女の為人はわかっていたのに私の考えが足りなかったのよ。アレク兄様が認めたって言っていたし。」
「お前が甘やかされていたのは本当のことだし、そろそろ踏ん切りをつけて欲しかったんじゃないか。ずっとルイスも保留になっているんだろう。」

泣いている私にハンカチと場所を提供してくれて話を聞いてくれているのは、ディオだ。

何だかんだと優しいのは元の性格なんだろう。

「言われてみればずっとヨハンのことばかり気にしていた気がする。スペンサーが婚約者になってくれたら良かったのに、と言いながらヨハンの動向ばかり、気にして。」

「とうとう自覚したのが、今ってわけか。まあ、ちゃんと好きだったのならよかったじゃねぇか。お前はまた人を好きになれるってことだろ?ちゃんと恋を失ってまた誰かを好きになれるってことだ。お前の兄様はお前が無意識に溜め込んでいた気持ちに気がついていたんじゃないか?ちゃんと泣かせてくれたいい兄だな。」

わかりたくはなかった。ちゃんと私は傷ついていたんだ。彼女の言葉でそれが初めて身に染みた。

「泣くな、とは言わないのね。見苦しいとか言いそうなのに。」

「あのな。お前の俺の印象、失礼すぎない?」

苦笑しながらポンポンと頭に軽く触れられると何故か安心してしまう。

弱った時に優しくされると今までの印象がどれだけ悪くともいい奴、みたいに思って、私、単純すぎるなぁ。

「あまり優しくしないで。好きになっちゃうから。」

そう言って身を逸らすと豪快に笑い出した。

「そんな口叩けるぐらい元気になって良かったよ。そういうのはルイスみたいな奴に言ってやれ。顔を真っ赤にして大喜びするぞ。」

「貴方はそうならないの?」

「今、なってないだろ?」
ん?と憎たらしい顔を見せている。


「じゃあ、貴方を本気にさせるにはどうしたらいいの?」
「お前には無理だな。……平民になったら教えてやるよ。」


薄く笑みを浮かべながら席を立つと、気の済むまでいていいぞ、と言いながらどこかに行ってしまう。

あれだけ悔しくて流れた涙は乾いていた。ヨハンの為に泣くのはもう終わり。

ステラは漸く自分のやるべきことがわかった気がした。


「悔しいけど、彼のおかげだわ。前を向けたのも、自分の気持ちに気づけたのも。……皆に謝らなければならないわね。」

誰もいなくなった部屋で呟くと覚悟が体に馴染んだような気がした。





「とうとう決めたのか。いや、これは予想外だな。後悔はしないか?もう少し考えてもいいんだぞ。」

アレク兄様とシガニ卿は心配そうな顔で話を聞いてくれた後、何度も念を押す。

「いえ、どんな結末になっても決めたので。」


「お前を断ったら殺してやるから、いつでも言いなさい。」

アレク兄様の笑顔が怖い。

「……いえ、無理強いするつもりはありません。私が勝手に好きになっただけですから。彼の気持ちを無視してはヨハンの二の舞になりますし。」

アレク兄様は不服そうだが、シガニ卿は少し予想していたのか、意外でもなさそうにふんふんと聞いていたのが対照的で面白かった。

「いつでも戻ってこれるようにしておくから、頑張って落としておいで。最終的にみんなが幸せになる道を用意して待ってるから。」

シガニ卿が笑顔だから、大丈夫。何とかなる。

「はい。頑張ります。」

二人に話した後は、ルイスに会いに行く。彼には悪いことをした。許してもらえなくても仕方のないことをするのだ。
これから。私は。

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