馬鹿につける薬あります

mios

文字の大きさ
上 下
4 / 22

効果は積もっていくようで

しおりを挟む
「お嬢様、ヨハン様が迎えに来られています。」
「は?」

王都にある屋敷をヨハンが訪ねてくるのは何かを盗む時で、それはステラのいない時に限られる。

「ずっと婚約者らしいことをしてこなかったことを反省してるんだ。一緒に行って貰えないかな。」

「急に来られましても、こちらにも準備がありますので。」

しどろもどろになりながら、些細な抵抗をするも、何処で調べたのか、はたまた偶然か、彼はいつも絶妙なタイミングで現れた。

ヨハンを客間に待たせたまま、用意を続けるサラに、相談する。

「あの薬が効き過ぎてるのかしら。どうやって使っているかを見られたら良いのだけど。」

サラは手を止める事なく、提案する。

「なら、見に行って来ましょうか。あと、あの店にも行って、つけ過ぎた場合の対処法なども聞いて来ますね。」

「ありがとう!お願いね!」

不安そうなステラを見ていたくなくてそうは言ったものの、この現象にあの薬は関係ないと、サラは思っている。

だからこそ、何を考えているか見に行きたくての提案だ。彼が学園で侍らせていたご令嬢達は軒並み学園を休んでいる。

彼女達の動向も知りたい。お嬢様を危険に晒すわけにはいかない。

「お嬢様には苦痛でしょうが、一応馬鹿は治りつつある、ということで、話をしてみるのも良いかもしれませんよ。」

ステラは、ヨハンが愚行を始めてから彼と会話をするのをやめてしまっていた。

「何を話せば良いの?態度が変わった訳でも聞いたら答えてくれるかしら。ああ、でもフリッツ先生に聞いてみるのも良いかもしれない。」

「フリッツ先生というのは、あの?」
「そう、カウンセラーをされている先生よ。周りに言えない悩みを相談できる、すごくフレンドリーな先生なの。男性なのだけれど、少し喋り方が面白くて。しかも、スペンサーの友人なのですって。」

「そんなにお嬢様がお世話になっていらっしゃるのでしたら、一度ご挨拶に伺わないといけませんね。」

「うーん、最初は胡散臭いと思うわ。話しているうちにその考えはなくなっていくけれど、壁を取り払うのが上手いのよ。気づいたら、話すつもりもないようなことまで、たくさん喋らされているのよ。不思議よね。」

準備が終わると、嫌そうにしながらも、ステラは待たせていたヨハンの元へ。

ヨハンは、ステラを見ると目を細め、綺麗だと呟くと、馬車までエスコートする。こうしてみると、中々お似合いの二人だが、ステラの魂は既に体から出かかっている。

サラに助けを求めるも、綺麗な笑顔で見送られてしまった。

ステラは諦めて、学園についたらフリッツ先生に相談しよう、と考えていた。

「帰りも一緒に帰ろう。授業が終わったら、迎えに行くから。」

「え?放課後は……」
「図書館に行く?」
「ええ、本を返して、また借りたいから。」
「わかった。じゃあ一緒にいこう。」
「いえ、一人で行けますので。」
 待ってもらったら、ゆっくり選べないじゃない!

「君を放置していたことを後悔しているんだ。頼むからそばで守ることを承知してほしい。」

そうは言うけど、何から私を守るって言うんだろう。どちらかと言うとあなたから逃げたいのですけど?

「コレを君に。」
ヨハンが出したのは、緑色の石がついたブレスレット。
「お守りとして、つけておいてくれ。」
慣れた様子でステラの左手に装着すると、恥ずかしそうな笑顔をみせる。

そんな顔、初めて見た。

ステラは、あの薬のせいで、彼がこうなっていることを知っている。本来ならその顔をステラが見ることはなかった。

彼の婚約者という立場にありながら、見向きもされず、薬で縛りつけるなんて、私、横暴かしら。

ふと。申し訳ないような気分に陥るが、それが何に対しての、誰に対しての謝罪なのかはっきりわからなかった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

【完結】あなたは知らなくていいのです

楽歩
恋愛
無知は不幸なのか、全てを知っていたら幸せなのか  セレナ・ホフマン伯爵令嬢は3人いた王太子の婚約者候補の一人だった。しかし王太子が選んだのは、ミレーナ・アヴリル伯爵令嬢。婚約者候補ではなくなったセレナは、王太子の従弟である公爵令息の婚約者になる。誰にも関心を持たないこの令息はある日階段から落ち… え?転生者?私を非難している者たちに『ざまぁ』をする?この目がキラキラの人はいったい… でも、婚約者様。ふふ、少し『ざまぁ』とやらが、甘いのではなくて?きっと私の方が上手ですわ。 知らないからー幸せか、不幸かーそれは、セレナ・ホフマン伯爵令嬢のみぞ知る ※誤字脱字、勉強不足、名前間違いなどなど、どうか温かい目でm(_ _"m)

十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。

りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。 やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか 勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。 ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。 蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。 そんな生活もううんざりです 今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。 これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。

【完結】恨んではいませんけど、助ける義理もありませんので

白草まる
恋愛
ユーディトはヒュベルトゥスに負い目があるため、最低限の扱いを受けようとも文句が言えない。 婚約しているのに満たされない関係であり、幸せな未来が待っているとは思えない関係。 我慢を続けたユーディトだが、ある日、ヒュベルトゥスが他の女性と親密そうな場面に出くわしてしまい、しかもその場でヒュベルトゥスから婚約破棄されてしまう。 詳しい事情を知らない人たちにとってはユーディトの親に非がある婚約破棄のため、悪者扱いされるのはユーディトのほうだった。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完

瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。 夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。 *五話でさくっと読めます。

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

処理中です...