馬鹿につける薬あります

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別人になった婚約者

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「そういえば、どうやってこれをあの馬鹿につけるかは考えてなかったわ。」

「ああ、それでしたら、私にお任せください。」

サラは何か考えがあるらしく、包装を先程より華やかに盛り付けて、そっとステラ宛の贈り物の中に忍ばせた。

ステラ宛の贈り物というのは、学園へ通う為に王都に留まっているステラに辺境にいる兄達から事あるごとに届く手紙と一緒についてきたもので、置くところがない為、そこに置きっぱなしになっている。

そこに紛れ込ませるということは、即ち、そういう事だ。あの男は何処ぞのガキ大将のように、婚約者の物を勝手に持って帰っているということだ。

ステラのものは自分のもの。自分のものは自分のもの。

婚約者と言えども、女性の部屋に勝手に入るとはどういう了見だろうか。

「大丈夫です。今までの窃盗の証拠は全て押さえておりますし、本当に大切なものは、抜いておりますから。」

サラがにっこりと笑うだけで、怖いのは何故だろう。彼女が言うように、多分彼はこちらの狙い通りの行動を見せてくれるに違いない。

そうして、何日か放置していた結果、見事『馬鹿につける薬』は、その場から姿を消していた。


ステラを嫌っているヨハンは、滅多にステラの前に姿を見せないが、時折思い出したように目の前に現れ、調子を尋ねることがあった。あれは、どういう訳かと思ったら、今回のように勝手にステラの物を持って帰った後、そのことに気がついているか、探る為だったようだ。

ヨハンの姿には気がついていたが、いつも通り通り過ぎようとすると、どういう訳か、声をかけられる。

「あら、ヨハン様。お久しぶりですね。」

嫌味の一つも言ってやりたくて口を開くと、いつも不快そうに眉を顰めるヨハンが意外な反応を見せた。

「ああ、あまり会いに行けてなくてすまなかった。」

え、今謝ったの?

ステラは、彼が謝るところを初めて見て、混乱した。そういえば、今日はいつもヨハンと一緒にいる頭の悪そうな女達が側にいない。

「いえ。お忙しいようで何よりですわ。それより、本日はいつものご令嬢方がご一緒ではないのですね。」

「彼女達とは、あまり適切な距離であったとは言えなかったからな。これからは婚約者としての交流をしたいと思っている。」

ヨハンは特に怒っている様子も、怒鳴ったり癇癪を起こすこともなく、終始落ち着いた様子でステラに話しかけてくる。

ステラは更に混乱する。サラが口にするまであの薬のことすら、忘れてしまうぐらいには。

「お嬢様、あの薬、すごいのですね。」
「凄すぎるわよ。でも、失敗したわ。こんなことなら、先に婚約を破棄しておくべきだったわ。」
「過去に不貞されていたことは事実ですし、不適切な距離とは言いますが、相手側が納得していなければ、また元に戻る可能性はございます。婚約破棄の準備はやはりしておきましょう。」
「そうね、彼女達の往生際の悪さに賭けてみるわ。」

ヨハンそっちのけで、ステラとサラが話しているにも関わらず、咎める様子もないとなると、いよいよ彼が別人になってしまったと、ステラは理解した。と、同時に後悔した。まさか、こんなに早く効果があるなんて、思わなかったから。
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