馬鹿につける薬あります

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馬鹿につける薬あります

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『馬鹿につける薬あります』

偶々入った店の中にでかでかと、こう書いてあった。

おかげで何を買いに来たか暫し忘れてしまった。気を取り直して、目当てのものを探す。よく見る包装にほっとして、手に取ると、一緒についてきた護衛兼侍女のサラが怪訝な顔をした。

「まさか、お嬢様。そちらを買うのですか?ヨハン様用に?」

ん?よく見ると、包装はいつものと変わらないけれど、商品の台には「馬鹿につける薬」と名前がついている。

「間違えたのよ。いつものクリームの包装だから。」

「似ていますが、偽物ですよ。よくある手法です。似たようなものに見せかけて、あわよくば買って貰おう、としているのですよ。」

店員さんは、苦笑しながら中身を見せてくれる。

「開けてしまえば一目瞭然なんですけどね。こんな奇抜な色、中々あちらの店では取り扱われないでしょうし。」

あちらの店というのは、私がいつも購入しているハンドクリームのお店のこと。王都にいる貴族達がこぞって購入している。いつもなら、侍女に頼んで自分では買いに来ないのだけれど。

今日は少しだけ自由時間があったから、無理を言って直接買いに来たのだけれど、臨時休業とやらで、お店に入れなかった。

とはいえ、何も買わずには帰れない。もう既に買いたい欲が抑えられない状態になっている。

「お嬢様、でしたら、ドレスを新調されてはいかがでしょう。」

サラは、今朝の母とのやりとりを聞いていたようで、今度の茶会に来ていくドレスを購入させようとしてくる。

今の流行りのドレスはウエストがきついので苦手だ。

「前に買ったけれど、使ってないのがあるじゃない。」

「あちらは流行遅れですし、そもそもパーティー用に作られたものではございません。」

ドレスを作るには時間が足りないとサラを言い包め当初の予定通りハンドクリームを買うことにしたのだが、そういえば別のクラスの子爵令嬢が、別の店であのクリームが売っていたことを話していたことがあるのを、思い出した。

「少し怪しいお店なんだけれど、見たこともない雑貨や、玩具などがあるのですって。うちのメイドが話してましたの。」

そうして記憶を頼りにたどり着いたお店には、確かに色んな面白い物で溢れていた。

「あの、この馬鹿につける薬って言うのは人体に危険はないのですか?」

気になったことを店員に尋ねる。

「作った者によると、危険はないそうですが、誰かに使用する場合には、よくよく相手との関係をきちんと把握した方が良いそうですよ。

真人間になったところで、嬉しくないってこともありますから。」

確かに馬鹿だから許せるってこともあるものね。

「初めは少量ずつ、時間を空けて使用することをおすすめします。」

「こちらは精神に作用するものなのでしょうか?」

「いえ、どちらかというと行動ですね。考えているだけで行動が伴わないタイプは、人が変わったようになりますので、注意が必要です。ただし、効く人と効かない人がいますので、万能ではないのです。」

なるほど。効かないかもしれないのなら、笑い話の一つとして買ってみるのもいいかもしれない。

「なら、一つだけいただけますか。」

サラの目が完全に呆れているが、気にしないことにする。

勿論、本気にしている訳ではないわよ。ヨハンにつけようと思ってはいるけれど。

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