幼馴染は不幸の始まり

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本編

沈黙

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ダニエルが目を覚ました時、その場には見慣れない天井と、見慣れない使用人しか見当たらなかった。だけど、特に取り乱すことがなかったのは、その場所がどこであるかすぐに見当がついたからだ。

「目を覚ましたか。」
ダニエルは第二王子の側にいて王族には慣れているつもりだったが、第二王子とはまるっきり格が違うのか、彼を前にするとどうしても震えが先に来る。

「第二王子が何かをやっているとは思っていたが、お前は把握できているか?女狐が暗躍しているらしいが、寝首をかかれないように気をつけるのだぞ。」

ダニエルがかの方に口を開くことは許されていない。ならば、礼や、沈黙で言葉を返さなくてはならない。

「女狐」という言葉で、表した相手は、果たして、どちらなのか。その考察も一緒に行わねばならない。

今わかることと言えば、キエス侯爵令嬢あるいはアリス嬢の周りに置かれた使用人の中に彼を主人とする者が紛れていたということだ。

そして、彼らの思惑は全て何人かの人を通じて多分結構深くにまで浸透してしまっているのだろう。


「アレの趣味の悪さは今更どうしようもないが、国が乱れる要因を放っておく訳にはいかない。ただの客寄せならいざ知らず、あの女はその内アレの手には到底負えなくなるだろうからな。その時にはお主は逃げている頃だろう?」

人聞きの悪い言い方ではあるが、ダニエルには国がどうなろうと大した関心も湧かない。クラリッサと自分が幸せならそれで構わないのだから、彼がいう言葉は、ある意味真実であった。

「生かしておくから余計なことをするのなら、全てキレイにしてやれば、良かったのかもしれぬな。」

彼が何をダニエルに求めているかはわからないが何らかの理由があって連れてこられたに違いない。何も聞き逃さないように気を張っていたが、ズバリと言及しないことがかえって恐ろしくなる。

それでも、その後の彼の独り言から察するに、どうやら第二王子側から、ダニエルは狙われている、ということらしい。しかもそれはクラリッサも同じらしく、そうなると、彼の側にも不都合が生じるらしい。

クラリッサの命を守るのは勿論だが、みすみす彼女自身を譲る気はなくて。ダニエルはただ彼らに利用されるだけの駒ではないと証明するしか方法はなくなった。

願わくば、ダニエルがまたこの場に呼ばれることのないように。

「命が幾つあっても足りない。」

ダニエルの言葉は幸いにも、その場にいた誰にも伝えられることはなかった。

クラリッサとヴィクトルの元に戻るダニエルを誰も止める者はいない。



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