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本編
変わらない
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何も知らないと侮っていたのに、まさか気がついていたなんて。アリスに扮した元キエス侯爵令嬢は、怒りで目を真っ赤にしながら、ずらずらと護衛やら侍女やらを引き連れて、王宮へと帰る。
王宮内での生活は何の問題もない。ただ相思相愛だった第二王子と自分との間に目には見えない小さな亀裂が入っているように見える。
ダニエル・ファーリが最初の頃は先頭に立ち、第二王子と自分を先導してくれていたのに、それからすっかり姿を見せないことにも焦りを感じる要因がある。
彼は、リゼット子爵家のアリス嬢という身分を用意してくれていた。
「子爵令嬢という、取るに足らない存在でしたら、最終的には侯爵家の養女となっても、然程不自然ではないでしょう。」
由緒正しき侯爵令嬢だった自分が、忌々しい下位貴族に身を落とさなければならないのは苦痛であったが、スタートが矮小であればあるほど、何もかもを身につけている自分が褒め称えられ、偽アリスは、大満足だった。
ダニエルが一向に来ないから、侯爵家にそろそろ話を通しておこうと実家に向かえば、知らない卑しい女が我が物顔で実家を占領していた。
いくら時間が経っても、彼女の察しは悪く、自分から養子になる件を持ちかけると、「面白いご冗談」と、笑ったばかりか、丁重に断られてしまった。
それで思い出したのが、以前にも何度か交流があり、ダニエルが味方に引き入れようとしていた便利な女のことだ。
彼女は、このアリス嬢の本物と少なからず因縁があるが、アリス嬢の可哀想な姿に絆されて、どんなおかしな話でも無条件に聞いてくれる筈だった。ダニエルも、クラリッサのことをそんな風に蔑んで話していたのだもの。
「彼女は、偽善者で、だからこそ扱いやすい」と。
「話が違うわ。」
まさか、自分の正体に、いつから彼女は気がついていたのか。変装をするとなれば、彼女の元の人物像をある程度把握していなければならないが、その点は引きこもりだから大丈夫だと、ダニエルからは言われていた。だから、敢えてあまり考えずに元々の気品に溢れた自分を出していた。
完璧な私ではどう頑張っても、下賎な下位貴族のフリはできない。
侯爵家に入り込んだあの女の馬車に、アリス嬢に扮した自分が入ることができれば良かったのだけれど。
そうだ。その手があったわ。いっそのこと、邪魔な女を全て始末して、その身分を自分が失敬すれば、こんなに悩まなくて済むんじゃない?
それにはそれ相応のシナリオがなくてはいけないけど。まずは手始めに侯爵家に居座る害虫を?いや、さっきの伯爵令嬢からで良いわよね。まずは前座で慣らさないと。
やることができれば、さっきまでの重苦しい雰囲気も嘘のように、軽やかな足取りで王宮へ戻る。彼女の頭の中を誰かが覗いたら、その明るい雰囲気とのギャップに驚くに違いなかった。
彼女は以前と全く変わっていなかった。邪魔な者は全て失くしてしまう。それは悪いことではなく、自分を引き立たせる手段なのだから。
王宮内での生活は何の問題もない。ただ相思相愛だった第二王子と自分との間に目には見えない小さな亀裂が入っているように見える。
ダニエル・ファーリが最初の頃は先頭に立ち、第二王子と自分を先導してくれていたのに、それからすっかり姿を見せないことにも焦りを感じる要因がある。
彼は、リゼット子爵家のアリス嬢という身分を用意してくれていた。
「子爵令嬢という、取るに足らない存在でしたら、最終的には侯爵家の養女となっても、然程不自然ではないでしょう。」
由緒正しき侯爵令嬢だった自分が、忌々しい下位貴族に身を落とさなければならないのは苦痛であったが、スタートが矮小であればあるほど、何もかもを身につけている自分が褒め称えられ、偽アリスは、大満足だった。
ダニエルが一向に来ないから、侯爵家にそろそろ話を通しておこうと実家に向かえば、知らない卑しい女が我が物顔で実家を占領していた。
いくら時間が経っても、彼女の察しは悪く、自分から養子になる件を持ちかけると、「面白いご冗談」と、笑ったばかりか、丁重に断られてしまった。
それで思い出したのが、以前にも何度か交流があり、ダニエルが味方に引き入れようとしていた便利な女のことだ。
彼女は、このアリス嬢の本物と少なからず因縁があるが、アリス嬢の可哀想な姿に絆されて、どんなおかしな話でも無条件に聞いてくれる筈だった。ダニエルも、クラリッサのことをそんな風に蔑んで話していたのだもの。
「彼女は、偽善者で、だからこそ扱いやすい」と。
「話が違うわ。」
まさか、自分の正体に、いつから彼女は気がついていたのか。変装をするとなれば、彼女の元の人物像をある程度把握していなければならないが、その点は引きこもりだから大丈夫だと、ダニエルからは言われていた。だから、敢えてあまり考えずに元々の気品に溢れた自分を出していた。
完璧な私ではどう頑張っても、下賎な下位貴族のフリはできない。
侯爵家に入り込んだあの女の馬車に、アリス嬢に扮した自分が入ることができれば良かったのだけれど。
そうだ。その手があったわ。いっそのこと、邪魔な女を全て始末して、その身分を自分が失敬すれば、こんなに悩まなくて済むんじゃない?
それにはそれ相応のシナリオがなくてはいけないけど。まずは手始めに侯爵家に居座る害虫を?いや、さっきの伯爵令嬢からで良いわよね。まずは前座で慣らさないと。
やることができれば、さっきまでの重苦しい雰囲気も嘘のように、軽やかな足取りで王宮へ戻る。彼女の頭の中を誰かが覗いたら、その明るい雰囲気とのギャップに驚くに違いなかった。
彼女は以前と全く変わっていなかった。邪魔な者は全て失くしてしまう。それは悪いことではなく、自分を引き立たせる手段なのだから。
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