幼馴染は不幸の始まり

mios

文字の大きさ
上 下
17 / 30
本編

変わらない

しおりを挟む
何も知らないと侮っていたのに、まさか気がついていたなんて。アリスに扮した元キエス侯爵令嬢は、怒りで目を真っ赤にしながら、ずらずらと護衛やら侍女やらを引き連れて、王宮へと帰る。

王宮内での生活は何の問題もない。ただ相思相愛だった第二王子と自分との間に目には見えない小さな亀裂が入っているように見える。

ダニエル・ファーリが最初の頃は先頭に立ち、第二王子と自分を先導してくれていたのに、それからすっかり姿を見せないことにも焦りを感じる要因がある。

彼は、リゼット子爵家のアリス嬢という身分を用意してくれていた。

「子爵令嬢という、取るに足らない存在でしたら、最終的には侯爵家の養女となっても、然程不自然ではないでしょう。」

由緒正しき侯爵令嬢だった自分が、忌々しい下位貴族に身を落とさなければならないのは苦痛であったが、スタートが矮小であればあるほど、何もかもを身につけている自分が褒め称えられ、偽アリスは、大満足だった。

ダニエルが一向に来ないから、侯爵家にそろそろ話を通しておこうと実家に向かえば、知らない卑しい女が我が物顔で実家を占領していた。

いくら時間が経っても、彼女の察しは悪く、自分から養子になる件を持ちかけると、「面白いご冗談」と、笑ったばかりか、丁重に断られてしまった。

それで思い出したのが、以前にも何度か交流があり、ダニエルが味方に引き入れようとしていた便利な女のことだ。

彼女は、このアリス嬢の本物と少なからず因縁があるが、アリス嬢の可哀想な姿に絆されて、どんなおかしな話でも無条件に聞いてくれる筈だった。ダニエルも、クラリッサのことをそんな風に蔑んで話していたのだもの。

「彼女は、偽善者で、だからこそ扱いやすい」と。

「話が違うわ。」

まさか、自分の正体に、いつから彼女は気がついていたのか。変装をするとなれば、彼女の元の人物像をある程度把握していなければならないが、その点は引きこもりだから大丈夫だと、ダニエルからは言われていた。だから、敢えてあまり考えずに元々の気品に溢れた自分を出していた。

完璧な私ではどう頑張っても、下賎な下位貴族のフリはできない。

侯爵家に入り込んだあの女の馬車に、アリス嬢に扮した自分が入ることができれば良かったのだけれど。

そうだ。その手があったわ。いっそのこと、邪魔な女を全て始末して、その身分を自分が失敬すれば、こんなに悩まなくて済むんじゃない?

それにはそれ相応のシナリオがなくてはいけないけど。まずは手始めに侯爵家に居座る害虫を?いや、さっきの伯爵令嬢からで良いわよね。まずは前座で慣らさないと。

やることができれば、さっきまでの重苦しい雰囲気も嘘のように、軽やかな足取りで王宮へ戻る。彼女の頭の中を誰かが覗いたら、その明るい雰囲気とのギャップに驚くに違いなかった。

彼女は以前と全く変わっていなかった。邪魔な者は全て失くしてしまう。それは悪いことではなく、自分を引き立たせる手段なのだから。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

最後に笑うのは

りのりん
恋愛
『だって、姉妹でしょ お姉様〰︎』 ずるい 私の方が可愛いでしょ 性格も良いし 高貴だし お姉様に負ける所なんて ありませんわ 『妹?私に妹なんていませんよ』

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

今更何の御用でしょう? ウザいので止めて下さいませんか?

ノアにゃん
恋愛
私は3年前に幼馴染の王子に告白して「馬鹿じゃないの?」と最低な一瞬で振られた侯爵令嬢 その3年前に私を振った王子がいきなりベタベタし始めた はっきり言ってウザい、しつこい、キモい、、、 王子には言いませんよ?不敬罪になりますもの。 そして私は知りませんでした。これが1,000年前の再来だという事を…………。 ※ 8/ 9 HOTランキング 2位 ありがとう御座います‼ ※ 8/ 9 HOTランキング  1位 ありがとう御座います‼ ※過去最高 154,000ポイント  ありがとう御座います‼

もう尽くして耐えるのは辞めます!!

月居 結深
恋愛
 国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。  婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。  こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?  小説家になろうの方でも公開しています。 2024/08/27  なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。

10年前にわたしを陥れた元家族が、わたしだと気付かずに泣き付いてきました

柚木ゆず
恋愛
 今から10年前――わたしが12歳の頃、子爵令嬢のルナだった頃のことです。わたしは双子の姉イヴェットが犯した罪を背負わされ、ルナの名を捨てて隣国にある農園で第二の人生を送ることになりました。  わたしを迎え入れてくれた農園の人達は、優しく温かい人ばかり。わたしは新しい家族や大切な人に囲まれて10年間を楽しく過ごし、現在は副園長として充実した毎日を送っていました。  ですが――。そんなわたしの前に突然、かつて父、母、双子の姉だった人が現れたのです。 「「「お願い致します! どうか、こちらで働かせてください!」」」  元家族たちはわたしに気付いておらず、やけに必死になって『住み込みで働かせて欲しい』と言っています。  貴族だった人達が護衛もつけずに、隣の国でこんなことをしているだなんて。  なにがあったのでしょうか……?

姉の婚約者であるはずの第一王子に「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」と言われました。

ふまさ
恋愛
「お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」  ある日の休日。家族に疎まれ、蔑まれながら育ったマイラに、第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンがそう告げた。その隣で、姉のパメラが偉そうにふんぞりかえる。 「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」  一方的に条件を押し付けられ、望まぬまま、第一王子の婚約者となったマイラは、それでもつかの間の安らぎを手に入れ、歓喜する。  だって。  ──これ以上の幸せがあるなんて、知らなかったから。

バイバイ、旦那様。【本編完結済】

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
妻シャノンが屋敷を出て行ったお話。 この作品はフィクションです。 作者独自の世界観です。ご了承ください。 7/31 お話の至らぬところを少し訂正させていただきました。 申し訳ありません。大筋に変更はありません。 8/1 追加話を公開させていただきます。 リクエストしてくださった皆様、ありがとうございます。 調子に乗って書いてしまいました。 この後もちょこちょこ追加話を公開予定です。 甘いです(個人比)。嫌いな方はお避け下さい。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

【1/23取り下げ予定】あなたたちに捨てられた私はようやく幸せになれそうです

gacchi
恋愛
伯爵家の長女として生まれたアリアンヌは妹マーガレットが生まれたことで育児放棄され、伯父の公爵家の屋敷で暮らしていた。一緒に育った公爵令息リオネルと婚約の約束をしたが、父親にむりやり伯爵家に連れて帰られてしまう。しかも第二王子との婚約が決まったという。貴族令嬢として政略結婚を受け入れようと覚悟を決めるが、伯爵家にはアリアンヌの居場所はなく、婚約者の第二王子にもなぜか嫌われている。学園の二年目、婚約者や妹に虐げられながらも耐えていたが、ある日呼び出されて婚約破棄と伯爵家の籍から外されたことが告げられる。修道院に向かう前にリオ兄様にお別れするために公爵家を訪ねると…… 書籍化のため1/23に取り下げ予定です。

処理中です...