幼馴染は不幸の始まり

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「最近よく視線を感じるのよね。」
ザックはあれから偶にクラリッサを見ては帰っていく。アルバート様がいなくてどこにも出かけられないクラリッサに同情してくれているのか、単に顔を見に来た感じで来るのだから、迷惑とは言えない。ただ良い人だな、と思うだけ。



クラリッサにアリス子爵令嬢から手紙が届いた。それは王宮からのもので、ジュリエットの言っていた商家からではない。と言うことは、アリス子爵令嬢ではない。キエス侯爵令嬢かもしれないご令嬢からと言うことだ。

手紙によると「とても大切な話があるから、指定の場所に来てくれ」とある。怪し過ぎる手紙だが、指定場所が今流行りのお菓子屋さんであり、街中であったことから、下手なことはできないだろうと、護衛をつけて行って見ることにした。護衛には勿論ザックと、馬車では父に待機してもらい、出かけることにした。

彼女がキエス侯爵令嬢なら間違いなく、クラリッサを下に見ているだろうし、無理難題もしくは、腕力でどうにかしようとすら思っていそうで、身の危険を感じていた。

アリス子爵令嬢は何人かの侍女と護衛を少し多くはないかと思えるほど連れていた。何人かはキエス侯爵令嬢に前についていた人と人相が合致する。隠す気があるのか悩むレベル。

彼女は、以前見た骨と皮だけのご令嬢ではなく、細さは少しマシになっているが、よくお手入れされているせいか本人の素質がよく出ている。

「クラリッサ嬢、私のお手紙に応じてくださりありがとう。私、友人がいないから、貴女と是非友人になりたいと思っていたの。この前お会いしてから今まで少し忙しくて、全くお会いできないのが寂しかったのですわ。」

茶会でこんなに近く話したことはなくても、一度別人ではないかと認識した彼女はどこからどうみても、キエス侯爵令嬢そのもので、クラリッサは駄目だとわかっているのに、話したくて話したくて仕方ない状態に陥っていた。

「大変ありがたいことですが、どうして私なのでしょう。貴女を追い詰めた男は私の婚約者で、虐げられていた貴女が一番会いたくない人だと思うので。別の高位貴族の方を友人とされた方が良いのではありませんか?」

キエス侯爵令嬢だった頃からあまり仲が良いとは言えない二人。何の目的があるのかわからないが、クラリッサの気持ちとしては、関わりを持ちたくないほど。

「リース公爵令嬢にはお断りされてしまいまして、他の方達には年頃のご令嬢がいませんでしたので。」

「キエス侯爵家はいかがでしたか。彼方のご令嬢は確か年下ですが、そんなに離れていませんし、聡明な方ですよ。」

キエス侯爵令嬢といえば、今では修道院に行った長女ではなく、次女のマリーナ様を思い出す人が多いだろう。

彼女は親戚から選ばれた養子で、キエス侯爵とは薄く血が繋がっている。修道院にやった娘の籍を保持したままになっているから、彼女を還俗後に後継に戻すのかと思っていたが、違ったらしい。

「……彼の方にはお断りされましたの。後継者教育にかかりっきりで、アリス嬢のご友人なんて、とてもじゃないが、お引き受けできません。今は侯爵家におりますが、元は下位貴族ですから。と仰って。」

クラリッサは彼女の狙いがわかってきた。アリス子爵令嬢に扮して、キエス侯爵令嬢として養子縁組をしようとしたら、勝手に居座っていた義妹に断られたから、クラリッサの伯爵家を使おうとしている。

理由は他に使えそうな便利な人はいないから。

「でも、それをいうならうちもですわよ。伯爵令嬢というと、元は侯爵令嬢でいらしたアリス嬢には不満なのではなくって?」

彼女の周りの護衛やら侍女やらは何も言わなかったのに、偽アリス嬢は、キツく睨みつけて、こちらを威嚇していた。

「いえね。最近私も変装に目覚めまして。どれだけ気をつけて別人になろうとしても、昔からの癖などは隠してもとっさに出て来てしまうみたいですよ。」

「覚えておきますわ。ご忠告ありがとう。」

クラリッサは心臓がバクバクしていたが、平静を保つことに必死だった。侯爵令嬢が怖い顔をして睨んでいたのとは別に好意的な視線がクラリッサに向けられているとは知る由もなかった。
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