幼馴染は不幸の始まり

mios

文字の大きさ
上 下
7 / 30
本編

幼馴染との幼少期

しおりを挟む
フローラに指摘されて思い出したのだが、言われてみれば、ダニエルが会いに来たのはつい最近のことだ。幼い頃にはよく遊んでいたと思うのに、いつから疎遠になったのか。イーサンとの婚約が決まった当初も普通に遊んでいた気がするから何か婚約以外のきっかけがあったのだろう。

ダニエルとイーサンはあまり仲が良くは見えない。二人ともクラリッサにはとても良くしてくれたけれど。

「フローラはイーサンのことよりも、ダニエルに対して嫌そうな顔をしていたわね。」

ダニエルとフローラの間に何が……と思い出そうとしたが、それは失敗に終わった。

なぜならば、とめどない汗が、クラリッサの顔から吹き出したからだ。「冷や汗……?」何も思い出していないのに、考えるだけでこうなるのだから、パンドラの箱は開けない方が良いのかもしれない。クラリッサは急に冷えた体を温める為にお茶を飲んだ。

こういう時は好きなものを眺めるに限る。フローラのお家でエイプリル作の甘すぎないクッキーを食べることや、イーサンから貰った花の種類を調べること以外にクラリッサの趣味といえば、繊細な刺繍が施されたリボンなどを眺めることだ。自分ではまだ作れない職人の作品を見ることは目の保養になる。

のんびりしていると、父から執務室に呼ばれた。いつもは穏やかな父が怖い顔になっているから、何事かと思ったら、父が不在中に、ダニエルが来たことについて話を聞きたいらしい。


「大丈夫か。何か言われなかったか。」
部屋に入るなり、父はいつもより大きめの声で確認した。

「ええ。大丈夫です。」
部屋にいたのは父だけではなかった。先日お会いしたフローラの兄君、アルバート様が壁際で存在感を消していた。

挨拶をしようにも、していいものか決めかねていると、父が、何とアルバート様をクラリッサの家庭教師兼護衛として付けると言う。

まさかの公爵家のご子息を護衛にするなんて。
「不敬になりませんか?」
「フローラがね、ダニエル避けにするならイーサンよりも私が適任だろうと、指示を受けたものだから。イーサンとはまだ話せていないと言うし、ダニエルもまさか私がいる前で君に何かを言ってくることはないだろうからね。」

「あの、ダニエルは今第二王子の護衛中なので此方には滅多に来ないと思います。」

「ああ、いや。彼はそうだけど。彼に付随する奴らも避けなければ意味がないからね。詳しくは裏が取れていないからまだ話せないけれど。近い内に許しがでればちゃんと説明させて貰うよ。」
「わかりました。楽しみにしていますね。」

「時に、クラリッサ嬢。君は幼少期の頃のことをどれだけ覚えている?君は一度アリス・リゼットに会っているがその記憶はあるか?」

「アリス嬢ですか?いえ。ありません。」

「なら、ミリア嬢もか。」

「幼少期でなければ、彼女には会った記憶はあります。ただ幼少期ならわかりません。イーサンと、ダニエルはなんとなく覚えているのですが。」

クラリッサの答えにウンウンと頷いて、アルバートはメガネをクイッと上げた。

「成る程成る程。昔の治療法だが、案外上手くできているようだ。興味深いな。」

背後にいたクラリッサの父に目で合図を送った後、彼はクラリッサの前に跪いた。

「クラリッサ嬢、私は護衛ではありますが、どうぞ居ない者として過ごしてください。危険時には必ずお守りいたしますので、それ以外は決して私にお近づきにならないようお願いいたします。」

クラリッサは彼がそれで良いのなら、有り難く受け取った。きっとこれはフローラが心配してくれた結果のことだ。

まさか兄君を寄越すとは思わなかったが、彼女の見立てならハズレはないだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生まれ変わっても一緒にはならない

小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。 十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。 カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。 輪廻転生。 私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。

羊の皮を被っただけで

mios
恋愛
姉の婚約者と恋に落ち、結婚した妹のフレア。侯爵夫人となり、後継の息子を産んで幸せな日々を送っている。 隣国の王太子が妃を披露する夜会で、王太子妃を見たフレアは、その衝撃で前世を思い出し、自分が欲しがりの妹で姉がヒロインである小説の中に転生したことを知る。 幸せが薄氷の上にあることに気付かされたフレアはどうにか姉の復讐の手を封じようとする。

お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます

柚木ゆず
恋愛
 ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。  わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?  当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。  でも。  今は、捨てられてよかったと思っています。  だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。

王妃様は悪役令嬢の味方です

mios
恋愛
王妃の元に届いた第一王子の婚約者の家からの婚約解消申請。理由は、公爵令嬢が病にかかり、婚約継続は絶望的だと言う。 第一王子の婚約者の家は筆頭公爵家で王家よりも財も人望も上である。二、三日前に見た公爵令嬢はいつもとかわりなく、不審に思った王妃が調べてみると……

【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」 「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」 「ねえ、返事は。」 「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」 彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。

お久しぶりですね、元婚約者様。わたしを捨てて幸せになれましたか?

柚木ゆず
恋愛
 こんなことがあるなんて、予想外でした。  わたしが伯爵令嬢ミント・ロヴィックという名前と立場を失う原因となった、8年前の婚約破棄。当時わたしを裏切った人と、偶然出会いました。  元婚約者のレオナルド様。貴方様は『お前がいると不幸になる』と言い出し、理不尽な形でわたしとの関係を絶ちましたよね?  あのあと。貴方様はわたしを捨てて、幸せになれましたか?

目を覚ましたら、婚約者に子供が出来ていました。

霙アルカ。
恋愛
目を覚ましたら、婚約者は私の幼馴染との間に子供を作っていました。 「でも、愛してるのは、ダリア君だけなんだ。」 いやいや、そんな事言われてもこれ以上一緒にいれるわけないでしょ。 ※こちらは更新ゆっくりかもです。

冷遇された王妃は自由を望む

空橋彩
恋愛
父を亡くした幼き王子クランに頼まれて王妃として召し上げられたオーラリア。 流行病と戦い、王に、国民に尽くしてきた。 異世界から現れた聖女のおかげで流行病は終息に向かい、王宮に戻ってきてみれば、納得していない者たちから軽んじられ、冷遇された。 夫であるクランは表情があまり変わらず、女性に対してもあまり興味を示さなかった。厳しい所もあり、臣下からは『氷の貴公子』と呼ばれているほどに冷たいところがあった。 そんな彼が聖女を大切にしているようで、オーラリアの待遇がどんどん悪くなっていった。 自分の人生よりも、クランを優先していたオーラリアはある日気づいてしまった。 [もう、彼に私は必要ないんだ]と 数人の信頼できる仲間たちと協力しあい、『離婚』して、自分の人生を取り戻そうとするお話。 貴族設定、病気の治療設定など出てきますが全てフィクションです。私の世界ではこうなのだな、という方向でお楽しみいただけたらと思います。

処理中です...