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本編
幼馴染との幼少期
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フローラに指摘されて思い出したのだが、言われてみれば、ダニエルが会いに来たのはつい最近のことだ。幼い頃にはよく遊んでいたと思うのに、いつから疎遠になったのか。イーサンとの婚約が決まった当初も普通に遊んでいた気がするから何か婚約以外のきっかけがあったのだろう。
ダニエルとイーサンはあまり仲が良くは見えない。二人ともクラリッサにはとても良くしてくれたけれど。
「フローラはイーサンのことよりも、ダニエルに対して嫌そうな顔をしていたわね。」
ダニエルとフローラの間に何が……と思い出そうとしたが、それは失敗に終わった。
なぜならば、とめどない汗が、クラリッサの顔から吹き出したからだ。「冷や汗……?」何も思い出していないのに、考えるだけでこうなるのだから、パンドラの箱は開けない方が良いのかもしれない。クラリッサは急に冷えた体を温める為にお茶を飲んだ。
こういう時は好きなものを眺めるに限る。フローラのお家でエイプリル作の甘すぎないクッキーを食べることや、イーサンから貰った花の種類を調べること以外にクラリッサの趣味といえば、繊細な刺繍が施されたリボンなどを眺めることだ。自分ではまだ作れない職人の作品を見ることは目の保養になる。
のんびりしていると、父から執務室に呼ばれた。いつもは穏やかな父が怖い顔になっているから、何事かと思ったら、父が不在中に、ダニエルが来たことについて話を聞きたいらしい。
「大丈夫か。何か言われなかったか。」
部屋に入るなり、父はいつもより大きめの声で確認した。
「ええ。大丈夫です。」
部屋にいたのは父だけではなかった。先日お会いしたフローラの兄君、アルバート様が壁際で存在感を消していた。
挨拶をしようにも、していいものか決めかねていると、父が、何とアルバート様をクラリッサの家庭教師兼護衛として付けると言う。
まさかの公爵家のご子息を護衛にするなんて。
「不敬になりませんか?」
「フローラがね、ダニエル避けにするならイーサンよりも私が適任だろうと、指示を受けたものだから。イーサンとはまだ話せていないと言うし、ダニエルもまさか私がいる前で君に何かを言ってくることはないだろうからね。」
「あの、ダニエルは今第二王子の護衛中なので此方には滅多に来ないと思います。」
「ああ、いや。彼はそうだけど。彼に付随する奴らも避けなければ意味がないからね。詳しくは裏が取れていないからまだ話せないけれど。近い内に許しがでればちゃんと説明させて貰うよ。」
「わかりました。楽しみにしていますね。」
「時に、クラリッサ嬢。君は幼少期の頃のことをどれだけ覚えている?君は一度アリス・リゼットに会っているがその記憶はあるか?」
「アリス嬢ですか?いえ。ありません。」
「なら、ミリア嬢もか。」
「幼少期でなければ、彼女には会った記憶はあります。ただ幼少期ならわかりません。イーサンと、ダニエルはなんとなく覚えているのですが。」
クラリッサの答えにウンウンと頷いて、アルバートはメガネをクイッと上げた。
「成る程成る程。昔の治療法だが、案外上手くできているようだ。興味深いな。」
背後にいたクラリッサの父に目で合図を送った後、彼はクラリッサの前に跪いた。
「クラリッサ嬢、私は護衛ではありますが、どうぞ居ない者として過ごしてください。危険時には必ずお守りいたしますので、それ以外は決して私にお近づきにならないようお願いいたします。」
クラリッサは彼がそれで良いのなら、有り難く受け取った。きっとこれはフローラが心配してくれた結果のことだ。
まさか兄君を寄越すとは思わなかったが、彼女の見立てならハズレはないだろう。
ダニエルとイーサンはあまり仲が良くは見えない。二人ともクラリッサにはとても良くしてくれたけれど。
「フローラはイーサンのことよりも、ダニエルに対して嫌そうな顔をしていたわね。」
ダニエルとフローラの間に何が……と思い出そうとしたが、それは失敗に終わった。
なぜならば、とめどない汗が、クラリッサの顔から吹き出したからだ。「冷や汗……?」何も思い出していないのに、考えるだけでこうなるのだから、パンドラの箱は開けない方が良いのかもしれない。クラリッサは急に冷えた体を温める為にお茶を飲んだ。
こういう時は好きなものを眺めるに限る。フローラのお家でエイプリル作の甘すぎないクッキーを食べることや、イーサンから貰った花の種類を調べること以外にクラリッサの趣味といえば、繊細な刺繍が施されたリボンなどを眺めることだ。自分ではまだ作れない職人の作品を見ることは目の保養になる。
のんびりしていると、父から執務室に呼ばれた。いつもは穏やかな父が怖い顔になっているから、何事かと思ったら、父が不在中に、ダニエルが来たことについて話を聞きたいらしい。
「大丈夫か。何か言われなかったか。」
部屋に入るなり、父はいつもより大きめの声で確認した。
「ええ。大丈夫です。」
部屋にいたのは父だけではなかった。先日お会いしたフローラの兄君、アルバート様が壁際で存在感を消していた。
挨拶をしようにも、していいものか決めかねていると、父が、何とアルバート様をクラリッサの家庭教師兼護衛として付けると言う。
まさかの公爵家のご子息を護衛にするなんて。
「不敬になりませんか?」
「フローラがね、ダニエル避けにするならイーサンよりも私が適任だろうと、指示を受けたものだから。イーサンとはまだ話せていないと言うし、ダニエルもまさか私がいる前で君に何かを言ってくることはないだろうからね。」
「あの、ダニエルは今第二王子の護衛中なので此方には滅多に来ないと思います。」
「ああ、いや。彼はそうだけど。彼に付随する奴らも避けなければ意味がないからね。詳しくは裏が取れていないからまだ話せないけれど。近い内に許しがでればちゃんと説明させて貰うよ。」
「わかりました。楽しみにしていますね。」
「時に、クラリッサ嬢。君は幼少期の頃のことをどれだけ覚えている?君は一度アリス・リゼットに会っているがその記憶はあるか?」
「アリス嬢ですか?いえ。ありません。」
「なら、ミリア嬢もか。」
「幼少期でなければ、彼女には会った記憶はあります。ただ幼少期ならわかりません。イーサンと、ダニエルはなんとなく覚えているのですが。」
クラリッサの答えにウンウンと頷いて、アルバートはメガネをクイッと上げた。
「成る程成る程。昔の治療法だが、案外上手くできているようだ。興味深いな。」
背後にいたクラリッサの父に目で合図を送った後、彼はクラリッサの前に跪いた。
「クラリッサ嬢、私は護衛ではありますが、どうぞ居ない者として過ごしてください。危険時には必ずお守りいたしますので、それ以外は決して私にお近づきにならないようお願いいたします。」
クラリッサは彼がそれで良いのなら、有り難く受け取った。きっとこれはフローラが心配してくれた結果のことだ。
まさか兄君を寄越すとは思わなかったが、彼女の見立てならハズレはないだろう。
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