幼馴染は不幸の始まり

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本編

幼馴染の失踪

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イーサンとの婚約は、政略だ。彼は勉強ができて、見た目も良く、穏やかな青年でとても人気があった。侯爵令息なのに、偉ぶらず、とても人当たりの良い男。そんな人を皆が放っておくことはなく、婚約が決まったばかりの頃は随分と嫌がらせをされたものだ。

ただ彼が幼馴染の子爵令嬢を大切にしている、と言う噂が広まると、一転して、此方を気遣うフリをして嘲笑う者が増えたりした。

クラリッサは伯爵家だが、王妃の親戚でもある為に僻まれていたようだ。

イーサンはクラリッサを蔑ろにしている訳ではない。ちゃんとアフターフォローをしようとはしてくれている。が、それすらもキャンセルされてしまうだけだ。

これだけ、彼女に悩まされていると言うのに、イーサンは決してアリス嬢にクラリッサを会わせてくれることはなかった。大事な幼馴染が婚約者に害されるとでも思っているのだろうか。

「お嬢様。」
侍女が一通の手紙と、黄色い花を持って現れる。

「またキャンセル?」
「いえ、今此方と共に来られていて。」

彼女の話の途中で、扉が乱暴に開かれる。そこには、急いできたのか乱れた服装のイーサンが普段見せないキツイ目つきで現れた。

「クラリッサ、アリスをどこにやったんだ。」
「え?何がですか。」
全く訳がわからなくて、呆然とするクラリッサに対して何故か怒っている様子のイーサン。

彼の怒りを初めて見たが、よくわからない言いがかりをつけられて責められているうちに、此方も沸々と怒りが湧いて来た。

どうやら、病弱な幼馴染、アリス嬢が行方不明になったらしい。

屋敷にも病院にもどこにもいない彼女が自力で何処かに行けるはずもなく、誰かが攫ったのではないかと考えたらしい。

「それでどうして私が?アリス嬢と面識もございませんのに。」
そう伝えると漸く彼も我に返ったらしい。

「それはそうだな。すまない。私は随分と穿った見方をしてしまった。」
冷静になってすぐに謝ったとはいえ、理不尽に罵られたことで、頭が冷えたクラリッサは、どうして、自分がアリスを連れ出したと思ったのか聞いてみた。

「よく君との約束をキャンセルしていたから、不満が溜まったんじゃないかと、ミリアに言われて。確かにそうだなと思って。でも、アリスとの面識がないと、流石にないよね。申し訳ない。私が考えなしだった。」

ミリア嬢ね。

少なくともミリア嬢は、この件をクラリッサに押し付ける気でいたことを心に留めておいた。

「それで?アリス嬢の特徴を教えて。私も探すわ。」

クラリッサの声色が変化したことすら気づかずに、イーサンは心優しい婚約者の態度を素直に喜んだ。

「イーサン、彼女が行方不明になったこと、あまり言わない方がいいわ。社交界で面白おかしく噂されて、傷つくのはアリス嬢なんだから。」

「確かに、そうだね。配慮が足りなかった。もし見つけたら、どうにか助けてやって欲しいんだ。私に連絡をくれたらすぐに迎えに行くから。」

今日の茶会は勿論キャンセルで、互いにアリス嬢を探す為に別れた。

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