私の日常を返してください

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兄と妹

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「驚きましたね。まさか本当に此方の言い分を聞くだけになるなんて。」

公爵家の一室にて、ランディは主人でもあり長年の友人でもあるユージーンに探りを入れる。

ユージーンは一見優しい男に見える穏やかな笑みを顔に貼り付けたまま、唸るような声を出した。

「それだけ愚かなんだよ。カトリーヌと、エリックの両方を手放したくないから、ある程度までは縛って、時が来たら、カトリーヌと王子のどちらかを強制的に婚約させよう、とでも考えているのだろう。

どのみち、奴らの目論見は通らない。次期王太子は多分王子には回ってこないからね。」

この国の公爵家は何もハダン公爵家だけではない。こんな醜聞に塗れた家ではない、普通の公爵家だって存在しているのだが、王子と婚約を結べるほどの年齢の娘がいる家は限られていた。

「王子が相手なら公爵家に限らなくても結婚したい娘ならいくらでもいるでしょう。何故わざわざカトリーヌ様を?」

「王家が奴らを見逃していたのは、ハダン家に恩を売ることで、カトリーヌを反抗できないようにするつもりだったらしい。虐げられた人間なら優しくされたら裏切りはしない、と考えたようだ。」

「クソだな。ハダン公爵家を便利に使おうとしたのか。」

「ない頭で考えると、こうなるってことだな。その癖、都合が悪くなると、すぐに裏切るんだから、浅はかにも程がある。ユージーンのことなどは何も考えていないのか。」

「私を見縊っていたのだろうな。確かに動くのに時間を要してしまったから、そう思われても仕方がないが。」

「ランディも、ルースも、ちゃんと私が奴らを脅しているか気になるのだろうが、どちらにしろ、奴らの思い通りになんてならないさ。

愚かな者達の考えなど、わからなくても仕方がない。あれらの思考回路は同じ性質の者にしかわからないのだから。」

ユージーンは、悪い笑みを浮かべると、部屋の外に目を向けた。

外では茶会の最中のカトリーヌとエリックが談笑している。近くにはリラが侍女として、そこにいる。

「あんな癖のあるやばい奴は敵にするより味方にした方が良いし、あんな大きな権力には抗わない方が良い。」


カトリーヌの周りには最強の布陣が集まっている。そこにユージーンの気に入らないものは入ってきてはならない。

妹を可愛がるのに、遅くなった兄は、今更ながら彼女の為に環境を揃える。


この国では、王家より大きな権力を持つものがある。ユージーンはわかっているが、王家どころか公爵家すらも吹き飛ぶくらいの権力のあるものが。

彼らは、平民ながら、いや平民だからこそ、国に執着しないし、平民だからこそ王命は効かない。

王家はカトリーヌやエリックさえ、押さえていれば良いと思っているが、動きやすいコマとして此方側がリラを手に入れていることを知らないのである。

ユージーンは家族愛の末に、奇跡的にリラがカトリーヌと仲良くなってくれた偶然に感謝した。

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