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カトリーヌ

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「カトリーヌ、本当のことを教えてくれ。あの者は本当に、君を助けてくれた平民の娘なのか。」

ハダン公爵家では、新しく公爵になったユージーンと、彼に助け出された妹カトリーヌがお茶を飲んでいた。

公爵家の膿を出すために、不要な偽家族と使用人を一斉に辞めさせた。残ったのは、ユージーンとカトリーヌの味方だけ、なのだが、一人いる平民の侍女がどうにもカトリーヌを大切にしていたリラという者と、思えないのだ。

ただ書類上は、彼女はリラで間違いないし、カトリーヌがそうだと言い張るのだから仕方がない。

「お兄様はどうして彼女を疑うのです?」

ユージーンが報告を受けていたのは、カトリーヌが仕事を教えてもらい、厳しくすることは厳しく、逆に上手く出来たらちゃんと褒める。ちゃんとカトリーヌを一人の人間として扱ってくれる人、だと言う話だった。だけど、今のリラという女は、カトリーヌより何もできないのだ。これではカトリーヌを指導するどころではない。

それに、今のリラはカトリーヌと全く仲が良いように見えない。


だが、カトリーヌが嘘をつく理由がわからない。

「リラという平民について、調べた方が良さそうだな。」

ユージーンが命令する前に追加の書類が持ち込まれる。友人であり側近である男は、カトリーヌの嘘に気づき早くも調査を終えていた。

「これは多分、カトリーヌ様の好意を利用したなりすましではないでしょうか。」


調査の先に現れたのは、リラが前に働いていた伯爵家。その伯爵家にもハダン公爵家と似たようなことが起きていた。

嫡男のエリックは、ユージーンと同じ、既に爵位を継いだ身で。

「このエリックとやらが、リラにご執心だったようです。義妹と義母に虐げられた彼女を庇うくらいには。」

リラの父親の伝手で、公爵家に雇われた。彼女がカトリーヌの世話係になったのは偶然だが、彼女が平民であるから、何かあったらすぐに解雇する為であることは容易に理解できた。

「この機会に乗じて彼女を取り戻す為の算段をつけていたのでしょう。」

残念なことに、カトリーヌとリラを知る部下ランディは未だ公爵家に合流できていない。彼には別の用事を頼んでいる。奴が帰ってくるまで待つか、偽物を問いただすか。

偽物の目的を探る意味でも、面談は必要かもしれない。本当に伯爵が関わっているのかもわからないし、あのままでは遅かれ早かれ、解雇にせざるを得なくなるからだ。



平民リラを名乗る女は突然の当主の呼び出しに驚きながらも、ほくそ笑んだ。侍女の仕事なんてやったことはないけれど、これも公爵夫人になる為に必要なことだ。役立たずの義兄だと思っていたけれど、まさかこんな風に役に立ってくれるとは思わなかった。

カトリーヌとかいう娘は、リラが伯爵夫人になれる、リラの幸せの為に、などと嘯くと、言うことを聞いた。

あの忌々しい女のフリを一生しなくてはならない、という罰はあるけれど、貴族に返り咲けるのだから、文句は言ってられない。

女はニヤけた顔をどうにか押し込めて、愛しのユージーンの待つ、執務室に押しかけた。

中にはユージーンの他、彼の側近の侯爵令息ルースがいた。女はこのルースとやらが苦手だった。伯爵令嬢だった自分を平民に落とした男に似ているから。

「お呼びでしょうか。」
おどおどした演技はリラとカトリーヌを真似した。我ながら渾身の出来だ。だが、彼らは騙されてくれそうにない。女を見定めるように冷たい目を向けている。

入って気がついたことは、部屋の奥にもう一人誰かがいたということだ。ユージーンより体格の良い誰か。

「お嬢様!こんなところにいらしたのですか。」

女は血の気が引いた。ユージーンの隣にいたのは、まさかの伯爵家の元使用人だった。ガイというその男は、本物のリラに断られたものの、やはり納得がいかず、無作法だとはわかっていたが、公爵家に確認しに来たのだ。

辞めさせた使用人のことなどどうでもいいと思っていたが、ガイの口からリラの名前が出たことで、彼はユージーンの執務室に留め置かれたのである。
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