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気持ち悪い
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わかると気持ち悪いとなるのは致し方ない。別邸にいた使用人達の中には伯爵夫人付きの侍女が数名いて、あの日に起こったことを証言していたが、それも全て真実ではなかった。
「あれは思い込みと言うより、もっと酷い状態と言いますか……伯爵夫人がケイト様ではなく、別の、あのベラとか言う女を指していたんでしょう?奥様、と言いながら、別の女に従っている侍女なんて、信用する筈ないですよ。」
アーサーもまさかそこまで浸透していたとは思わなくて頭を抱えた。お仕着せを着る奥様に不審感を抱かなかったのか、と問われれば、「奥様はいつも外に出られていましたので。」と、奥様が商会に出向いていない間に、若い経験の少ない子達を取り込んでいたことを認める。
侍女長からすれば、デイビスは義理の息子みたいなものだったらしい。そこまで思って働いてくれたことには感謝すれど、それと、母を蔑ろにし、伯爵家を乗っ取ろうとする話はまた別だ。
父には聞くまでもないと思ったが、やはり「彼女との間には何もなく」、だが、侍女長に任命され報告を受けている間に、彼女は父からの愛を確かに感じていたと、話している。
当然の話だが、その場には二人以外に人がいて、「何もなかった」と証言していることから、父の潔白は証明されている。
若い子達はベラを奥様だと思い込んでいたのなら、本物の奥様をどんな風に思っていたのだろうか。
「旦那様が面倒を見られている親戚の子だと聞いておりました。若いのに商会を経営していると聞いておりましたし、……とても働き者であると。彼女については、あまり近づかないようにと。癇癪持ちでクビにされてしまうからと。
……まさかあの方が本当の奥様なんて思いませんでした。私、実家にも友人にも恋人にも、奥様付きの侍女になったと言ってしまったのに、ただの使用人に付いていただけなんて、あんまりです。」
悲しげに瞳を揺らしながら興奮して話すのは嘘の証言をした若い侍女。彼女は騙されていた身であるから嘘をついた訳ではないのだが。彼女は「なら、あれも嘘なんですよね?」と、新たな情報を与えてくれた。
「奥様……いや、あのベラ様でしたっけ。あの方が実は王女であると言う話です。王弟の方と、兄妹の関係で仲が良いと言っていましたけど。」
「「は?」」
アーサーとデイビスの声が重なる。
「ベラの年齢から考えてもありえません。母親が同じでも父親が違えば、王家の血は引き継いでいないから、王女になどなりませんよ。」
「やっぱり、嘘だったんですね。そんな上手い話があるわけないですもの。」
若い侍女は「やっぱり」と何回も呟いて、納得していた。
「とりあえずこれで王弟殿下との繋がりはあったと結論づけられますね。」
アントンは彼女を騙したのか、勝手に騙されたのか。多分彼の性格上、相手をするのも面倒で放置したのだろう。
ベラは侍女としては、よく仕事のできる人物だと思い込んでいたが、実際にはそう見せられていたのだとわかる。
「それにしても、小説の読みすぎじゃないのか。」
若い女性に人気の恋愛小説には身分を乗り越えて結ばれるものや、メイドが実は高貴な血筋だった、なんてものが存在するが、まさかそれが実際にあることだと考える人間がいるとは思わないじゃないか。
「ベラも、夢みる少女だったのでしょうね。」
ただ夢を見るだけならまだしも、殺害を企てて、犯人をでっち上げるのはやり過ぎだ。
その小説には悪役は出てこなかったのだろうか。悪いことをすると、罰を受けると誰からも教えて貰わなかったのか。
「あれは思い込みと言うより、もっと酷い状態と言いますか……伯爵夫人がケイト様ではなく、別の、あのベラとか言う女を指していたんでしょう?奥様、と言いながら、別の女に従っている侍女なんて、信用する筈ないですよ。」
アーサーもまさかそこまで浸透していたとは思わなくて頭を抱えた。お仕着せを着る奥様に不審感を抱かなかったのか、と問われれば、「奥様はいつも外に出られていましたので。」と、奥様が商会に出向いていない間に、若い経験の少ない子達を取り込んでいたことを認める。
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若い子達はベラを奥様だと思い込んでいたのなら、本物の奥様をどんな風に思っていたのだろうか。
「旦那様が面倒を見られている親戚の子だと聞いておりました。若いのに商会を経営していると聞いておりましたし、……とても働き者であると。彼女については、あまり近づかないようにと。癇癪持ちでクビにされてしまうからと。
……まさかあの方が本当の奥様なんて思いませんでした。私、実家にも友人にも恋人にも、奥様付きの侍女になったと言ってしまったのに、ただの使用人に付いていただけなんて、あんまりです。」
悲しげに瞳を揺らしながら興奮して話すのは嘘の証言をした若い侍女。彼女は騙されていた身であるから嘘をついた訳ではないのだが。彼女は「なら、あれも嘘なんですよね?」と、新たな情報を与えてくれた。
「奥様……いや、あのベラ様でしたっけ。あの方が実は王女であると言う話です。王弟の方と、兄妹の関係で仲が良いと言っていましたけど。」
「「は?」」
アーサーとデイビスの声が重なる。
「ベラの年齢から考えてもありえません。母親が同じでも父親が違えば、王家の血は引き継いでいないから、王女になどなりませんよ。」
「やっぱり、嘘だったんですね。そんな上手い話があるわけないですもの。」
若い侍女は「やっぱり」と何回も呟いて、納得していた。
「とりあえずこれで王弟殿下との繋がりはあったと結論づけられますね。」
アントンは彼女を騙したのか、勝手に騙されたのか。多分彼の性格上、相手をするのも面倒で放置したのだろう。
ベラは侍女としては、よく仕事のできる人物だと思い込んでいたが、実際にはそう見せられていたのだとわかる。
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「ベラも、夢みる少女だったのでしょうね。」
ただ夢を見るだけならまだしも、殺害を企てて、犯人をでっち上げるのはやり過ぎだ。
その小説には悪役は出てこなかったのだろうか。悪いことをすると、罰を受けると誰からも教えて貰わなかったのか。
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